急性胆管炎の症状は、典型的にはCharcotの三徴として知られる発熱、腹痛、黄疸の組み合わせで出現します。発熱は通常38℃以上の高熱となり、しばしば悪寒戦慄を伴います。腹痛は右上腹部に限局し、特に心窩部(胃のあたり)の痛みとして自覚されることが多く、黄疸は皮膚や眼球結膜の黄染として視認されます。
重症化が進行すると、Reynoldsの五徴(Charcotの三徴に加えて意識障害とショック)を呈するようになります。この段階では急性閉塞性化膿性胆管炎(AOSC)に移行し、敗血症やDIC(汎発性血管内血液凝固症)、多臓器不全といった重篤な転帰をとる危険性が高まります。
重症度分類は以下の通りです。
重症度判定は24時間以内および24~48時間に繰り返し判定し、重症化を見落とさないよう注意が必要です。
胆管炎の原因疾患として最も多いのは胆管結石で、その他に悪性腫瘍(胆道がん、膵がん、転移性腫瘍など)による胆管狭窄、良性疾患(慢性膵炎、胆嚢摘出術後など)による胆管狭窄があります。起因菌は大腸菌、クレブシエラ、エンテロバクターなどのグラム陰性桿菌が多く検出されます。
血液検査所見では、白血球数増加、CRP陽性などの炎症所見と、肝胆道系酵素(AST、ALT、LDH、ALP、γ-GTP)の上昇、ビリルビンの上昇が認められます。特に胆道系酵素の優位な上昇は診断の重要な手がかりとなります。
画像診断において、腹部超音波検査は利便性および低侵襲性から最初に施行すべき検査として推奨されます。胆管拡張の確認や胆管結石の描出が可能で、CTやMRCPと併用することで原因疾患の特定に有用です。
胆管炎の診断には、臨床症状、血液検査所見、画像所見を総合的に評価することが重要で、特に血液培養では菌が検出されやすい特徴があります。
急性胆管炎診療ガイドラインの詳細情報
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001075/4/acute_cholangitis_and_acute_cholecystitis.pdf
胆管炎の抗菌薬選択において、胆汁移行性が重要な要素であることは国内外でコンセンサスが得られており、推奨度はAとされています。重症度別の推奨抗菌薬は以下の通りです。
**軽症~中等症(Grade I-II)**の市中感染では。
**重症例(Grade III)**では。
医療関連感染や耐性菌が疑われる場合。
血液培養からグラム陽性球菌が検出された場合は、バンコマイシン15-20mg/kg 12時間ごとを追加し、治療期間は14日間とします。
重症急性胆管炎では、緊急胆道ドレナージが生命予後改善の鍵となります。AOSCに至った場合、敗血症やDICを併発する危険性が高まるため、迅速な胆汁排出処置が必要です。
ドレナージ手技の選択。
内視鏡的治療では、口から内視鏡を挿入し十二指腸まで到達後、胆管にカテーテルを挿入して滞留胆汁を排出させます。同時に結石除去やステント留置も可能で、治療中は睡眠薬や鎮痛剤を使用して患者の負担を軽減します。
緊急処置の適応基準。
ドレナージのタイミング決定は、重症度診断を24時間以内および24~48時間に繰り返し判定し、重症化を見落とさないよう注意が必要です。
近年の胆管炎治療において、薬剤耐性菌への対策は重要な課題となっています。特に医療関連感染や重症例では、ESBL(基質拡張型βラクタマーゼ)産生菌やカルバペネマーゼ産生菌の検出頻度が増加しています。
耐性菌リスク因子。
ESBL産生菌対策。
ESBL産生菌が血液培養から検出された症例では、すべてカルバペネム感受性であったことから、重症例では積極的にカルバペネム系抗菌薬の使用を考慮すべきです。メロペネム1g/8時間毎やイミペネム/シラスタチン1g/6-8時間毎が選択されます。
Pseudomonas aeruginosa対策。
重症市中感染でも原因微生物の20%に及ぶことがあり、抗緑膿菌作用薬を初期治療として使用することが推奨されます。緑膿菌をカバーしなかった場合、重症患者では死亡率上昇の可能性があります。
腸球菌対策。
Grade III急性胆管炎では重要な微生物であり、培養と感受性結果が判明するまでバンコマイシンの併用を考慮します。特にEnterococcus faeciumなどのVRE(バンコマイシン耐性腸球菌)リスクがある場合は、リネゾリドやダプトマイシンも選択肢となります。
治療期間の調整。
投与期間はドレナージの成功や菌血症の有無によって変わり、菌血症がある場合は10-14日、ドレナージ不可の場合は肝膿瘍に準じて4-6週間ほど治療することもあります。
日本感染症学会の薬剤耐性菌感染症治療指針
https://www.kansensho.or.jp/guidelines/1906_mrsa.html