5%ブドウ糖点滴心不全患者適応限界

心不全患者における5%ブドウ糖点滴の使用法について、循環血液量への影響、適応症例、投与制限を詳しく解説。どのような病態で使用すべきか?

5%ブドウ糖点滴心不全患者使用指針

心不全における5%ブドウ糖点滴の基礎知識
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浸透圧とメカニズム

280mOsm/Lの等張液として投与後、ブドウ糖代謝により自由水となる

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心不全への影響

血管内留存率約8%で循環血液量負荷を最小限に抑制

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使用原則

循環血液量増加を避けたい心不全患者での慎重投与

5%ブドウ糖点滴の循環動態メカニズム

5%ブドウ糖点滴は、心不全患者における輸液療法において重要な役割を果たします。この製剤の浸透圧は280mOsm/Lで血漿とほぼ等張ですが、血管内に投与されたブドウ糖はすぐに代謝され、エネルギーと水(自由水)、二酸化炭素に分解されます。

 

💡 代謝メカニズムの特徴

  • ブドウ糖 → H₂O + CO₂ + エネルギー
  • 代謝後の浸透圧はゼロになる
  • 自由水として全身に分布

投与された5%ブドウ糖液は、体液分布の原則に従って細胞内に2/3、細胞外に1/3の割合で分布し、血管内には約8%(1/12)しか留まりません。例えば1Lの5%ブドウ糖液を投与すると、血管内に残るのは約84mLのみとなります。

 

心不全患者における5%ブドウ糖点滴の適応基準

心不全患者では、循環血液量の増加により症状が悪化するおそれがあるため、輸液選択は慎重に行う必要があります。5%ブドウ糖液は血管内Volume を増やしたくない場合に選択される輸液です。

 

🔥 適応症例の判定基準

  • うっ血症状を呈する心不全患者
  • 肺水腫のリスクが高い症例
  • 循環血液量負荷を避ける必要がある場合

大阪大学医学部の研修医レクチャーでは、「心不全で血管内ボリューム負荷に耐えられない患者には5%ぶどう糖液の方が適切」と明記されています。これは生理食塩水と比較して、血管内への影響が最小限に抑えられるためです。

 

一方で、心筋梗塞初期における使用については議論があり、心筋梗塞だけですぐに心不全とは限らないため、病態の正確な評価が重要です。

 

5%ブドウ糖点滴使用時の電解質管理

心不全患者での5%ブドウ糖液使用において、電解質バランスの管理は極めて重要です。特に低ナトリウム血症低カリウム血症に注意が必要です。

 

⚖️ 電解質管理のポイント

  • 尿Na+K濃度の定期的測定
  • フロセミド使用時:尿Na+K濃度約75mEq/L
  • In-Outバランスの詳細な記録

心不全患者では、Kのバランスも重要で、低カリウム血症は心室性不整脈や心房細動など致死性の不整脈のリスクとなります。特にジギタリス服用患者では、ジギタリス中毒のハイリスク因子となるため、カリウム値の厳重な監視が必要です。

 

点滴投与速度と糖尿病合併症への配慮

5%ブドウ糖液の投与速度は、通常成人でブドウ糖として1時間当たり0.5g/kg体重以下とする必要があります。糖尿病患者では血糖値上昇により症状悪化のおそれがあるため、より慎重な管理が求められます。

 

📊 投与管理の実際

  • 標準投与量:500~1000mL/回
  • 投与速度:0.5g/kg/hr以下のブドウ糖量
  • 糖尿病患者:血糖値の厳密な監視

重症心不全患者では、和温療法との併用も検討されます。和温療法では点滴用のラインを通す小孔が付属した装置があり、点滴中の重症例でも和温療法を受けることが可能です。2020年に新規保険収載された重症心不全に対する和温療法は、標準治療として承認されています。

 

5%ブドウ糖点滴による心不全悪化回避の実践的対策

心不全患者における5%ブドウ糖液の使用では、循環動態の悪化を防ぐための実践的な対策が重要です。特に、体液過剰状態の心不全患者では、In<Outの関係を維持することが望ましいとされています。

 

🎯 実践的管理のポイント

  • 1日の水分バランス計算
  • 食事からのNa摂取量(塩分6g/日≒100mEq/L)
  • 尿量と尿電解質濃度の測定
  • 不感蒸散量の考慮(約1000mL/日)

臨床現場では、5%ブドウ糖液を20mL/時程度の低速度で投与し、血管確保のためのつなぎとして使用することが多いです。この投与方法により、必要最小限の循環血液量負荷で血管ルートを維持できます。

 

心不全の病態によっては、相対的に高張な1号液のような製剤が適切な場合もあります。患者の尿Na+K濃度を考慮したIn-Outバランスによって、至適な輸液製剤は変化するため、画一的な使用ではなく個別化した治療戦略が重要です。

 

大阪大学医学部附属病院の輸液療法レクチャー:心不全における輸液選択の詳細なガイドライン
日本循環器学会誌:重症心不全に対する和温療法と輸液管理の併用に関する最新の研究成果