浮腫がある患者さんのBIA測定値は、実際より筋肉量が多く見えることがあります。
BIA法(Bioelectrical Impedance Analysis、生体電気インピーダンス法)は、体内に微弱な交流電気を流し、生体組織の電気抵抗を計測することで体組成を推定する無侵襲の測定法です。組織の種類によって電気抵抗が異なることを利用しており、水分を多く含む筋肉は電流を通しやすく、脂肪組織は電流を通しにくいという特性を活用しています。 tateisi-f(https://www.tateisi-f.org/documents/reports/2013/2031014.pdf)
サルコペニア診断においてBIA法は、四肢骨格筋量(Appendicular Skeletal Muscle Mass)を身長の二乗で除した四肢骨格筋量指数(ASMI)を算出するために用いられます。この方法は簡便な機械で測定でき、DXA法(二重エネルギーX線吸収法)と比べて安価で安全、かつ即座に結果が得られるため汎用性が高いのが特徴です。 enjinkai(https://enjinkai.com/cms/wp-content/uploads/2021/11/%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%A2%EF%BC%88Web%E7%94%A8%EF%BC%89.pdf)
臨床現場でのサルコペニア診断に対する応用が期待されています。 tateisi-f(https://www.tateisi-f.org/documents/reports/2013/2031014.pdf)
日本人を含むアジア人集団を対象とした大規模研究により、BIA法を用いたサルコペニアの診断基準値が確立されました。具体的には、1719名の平均値からマイナス2標準偏差(SD)値を算出し、ASMIが男性7.0 kg/m²未満、女性5.8 kg/m²未満(または5.7 kg/m²未満)をサルコペニアの診断基準値としています。 activesenior-f-and-n(https://activesenior-f-and-n.com/sarcopenia/case.html)
2025年11月に公開されたAWGS 2025(Asian Working Group for Sarcopenia 2025)では、診断基準が一部見直されました。新基準ではBIA法によるカットオフ値が男性7.5 kg/m²、女性5.7 kg/m²とされ、さらにBMI補正のカットオフ値として65歳以上で男性0.83、女性0.57、50〜64歳で男性0.90、女性0.63という年齢別の基準が新設されています。 jasf(https://www.jasf.jp/pdf/revision_20251111.pdf)
低筋肉量と低筋力の両方を満たす場合にサルコペニアと診断することになりました。身体機能は診断基準から除外され、アウトカム評価として位置づけられています。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2026/3583_07)
特に問題となるのが浮腫の影響です。浮腫を伴う疾患(腎不全、心不全、肝硬変、糖尿病など)がある場合、筋組織に過剰な水分が貯留され、骨格筋量が過大評価されることがあります。これは水分は電流を通しやすいという特性から、細胞外水分量が増加すると筋肉量が実際より多く測定されてしまうためです。 inbody.co(https://www.inbody.co.jp/bia-technology1/)
細胞外水分比(ECW/TBW)が高値の患者では、サルコペニアであるはずの者が見逃される可能性があるという点に留意が必要です。高精度なBIA機器では多周波数測定により細胞内・外の水分バランスも確認できるため、ECW/TBWを考慮した評価が推奨されます。 kaken.nii.ac(https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K17843)
浮腫の影響を受けにくい超音波による筋厚測定などの補完的評価法との併用も検討すべきです。 kio.ac(https://www.kio.ac.jp/topics_press/85557/)
つまり測定法による違いを理解した上で活用することが重要です。BIA法は簡便性と汎用性に優れる一方、DXA法はより精密な測定が可能であり、必要に応じて両者を使い分けるか、BIA法の限界を補う他の評価法を組み合わせることが臨床的に推奨されます。 ccs.jihs.go(https://ccs.jihs.go.jp/120/060/pdf/pdf_info/4297_info.pdf)
BIA法による正確な測定を実現するためには、測定条件の標準化が不可欠です。測定前の食事や水分摂取、運動、排尿などの状態を統一することで、測定誤差を最小限に抑えることができます。
透析患者などの体水分管理が特に重要な集団では、透析前後での測定値の違いを考慮する必要があります。浮腫がある患者の場合は、ECW/TBWなどの水分バランス指標も同時に評価し、筋量が過大評価されていないか確認することが重要です。 nishinokyo.or(https://www.nishinokyo.or.jp/n_contents/touseki/pdf/tsishin_06.pdf)
BIA法は迅速かつ簡便な検査として、サルコペニアのスクリーニングや経時的な筋量変化の観察に非常に有効です。予備群の早期発見にも有効なツールとして示唆されており、定期的なモニタリングによる予防的介入が可能になります。 enjinkai(https://enjinkai.com/cms/wp-content/uploads/2021/11/%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%9A%E3%83%8B%E3%82%A2%EF%BC%88Web%E7%94%A8%EF%BC%89.pdf)
一方で、BIA法には明確な限界も存在します。補正式は式を作った集団と類似な人体のみで精度が保たれ、体成分の変化が正しく反映されない可能性があります。痩せている高齢者や浮腫を伴う疾患を持っている患者など、水分バランスが大きく崩れている方は全身の水分量や筋肉量が過大評価されるケースがあります。 inbody.co(https://www.inbody.co.jp/bia-technology1/)
こういった限界を踏まえ、BIA法単独ではなく、握力測定や歩行速度評価などの機能的評価と組み合わせた総合的な診断が推奨されます。
2025年11月4日にNature Aging誌で公開されたAWGS 2025は、WHO(世界保健機関)の高齢者のための統合ケア(ICOPE)との整合性を図った新しい診断基準です。今後のサルコペニア診断においては、AWGS 2019に代わりAWGS 2025の使用が推奨されます。 jadecom.or(https://www.jadecom.or.jp/upload/2025/12/12/%E6%96%B0%E3%81%97%E3%81%84%E3%82%B5%E3%83%AB%E3%82%B3%E3%83%98%E3%82%9A%E3%83%8B%E3%82%A2%E8%A8%BA%E6%96%AD%E5%9F%BA%E6%BA%96%E3%81%8B%E3%82%99%E5%85%AC%E9%96%8B%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%BE%E3%81%97%E3%81%9F_%E5%85%AD%E9%B9%BF%E5%81%A5%E5%85%90_20251119.pdf)
主要な変更点として、診断アルゴリズムが「低筋肉量+(低筋力または低身体機能)」から「低筋肉量+低筋力」へと変更されました。身体機能は診断基準から除外され、予後予測などのアウトカム評価として活用されることになります。 pt-ot-st(https://www.pt-ot-st.net/index.php/topics/detail/1801)
握力においては、サルコペニア診断の対象が50〜64歳に拡大され、年齢別のカットオフ値が新設されました。これらのカットオフ値はアジア人コホートに基づいて設定されており、より精緻な診断が可能になります。 igaku-shoin.co(https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2026/3583_07)
医療現場では新基準への円滑な移行が求められます。具体的には、BIA測定装置の設定やカットオフ値の更新、診断フローチャートの見直し、スタッフ教育などが必要になります。既存の患者データについても、新旧基準の違いを考慮した評価が求められるでしょう。
肝疾患患者におけるサルコペニアでは、2016年に日本肝臓学会から独自の判定基準が提唱されています。握力が男性26kg未満、女性18kg未満の場合に筋肉量を測定し、CT検査またはBIA法による測定値が基準を満たす場合にサルコペニアと診断されます。肝疾患では腹水や浮腫を伴うことが多いため、BIA法の解釈には特に慎重さが求められます。 patients.eisai(https://patients.eisai.jp/kanshikkan-support/exercise/sarcopenia-diagnosis.html)
透析患者の場合、BIA法による位相角とサルコペニア診断項目との相関が報告されています。インピーダンス分析法を用いた透析患者の骨格筋量は体水分などから乖離を示すことが多いため、サルコペニア診断の検査としては参考値として扱うべきとされています。それでも骨格筋量測定が診断に欠かせないのも現状です。 youtube(https://www.youtube.com/watch?v=pKpbkbnPI5M)
急性期運動器疾患患者では、浮腫の影響を比較的少なく測定できる超音波による筋厚評価がBIAの欠点を補える可能性があります。 kio.ac(https://www.kio.ac.jp/topics_press/85557/)
厳しいところですね。こうした特殊な病態では、BIA法の限界を理解した上で、複数の評価法を組み合わせた総合的判断が不可欠です。
特別な機器を用いることが困難な状況では、下腿周囲長(ふくらはぎの最も膨らんだ部分の周囲)が筋量評価の指標として有用です。BMI値が18.5未満、もしくは下腿周囲長が男性34cm未満、女性33cm未満の場合、サルコペニアのリスクが高いとされます。 geriatrics(https://geriatrics.jp/diagnosis-of-low-nutrition/%E4%B8%8B%E8%85%BF%E5%91%A8%E5%9B%B2%E9%95%B7-glim%E5%9F%BA%E6%BA%96%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E7%AD%8B%E9%87%8F%E8%A9%95%E4%BE%A1/)
下腿周囲長はDXA法やBIA法による筋肉量と相関が高く、サルコペニアのスクリーニングにも有用であることが確認されています。メジャーさえあれば測定できるため、在宅医療や施設での一次スクリーニングとして極めて実用的です。 geriatrics(https://geriatrics.jp/diagnosis-of-low-nutrition/%E4%B8%8B%E8%85%BF%E5%91%A8%E5%9B%B2%E9%95%B7-glim%E5%9F%BA%E6%BA%96%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E7%AD%8B%E9%87%8F%E8%A9%95%E4%BE%A1/)
下腿周囲長を筋量評価の第一選択と考えるべきです。測定は立位または座位で、最も太い部分を水平に測定します。 geriatrics(https://geriatrics.jp/diagnosis-of-low-nutrition/%E4%B8%8B%E8%85%BF%E5%91%A8%E5%9B%B2%E9%95%B7-glim%E5%9F%BA%E6%BA%96%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E7%AD%8B%E9%87%8F%E8%A9%95%E4%BE%A1/)
ただし、下腿周囲長も浮腫の影響を受けるため、浮腫の有無を確認してから解釈することが重要です。下腿周囲長でスクリーニング陽性となった場合に、BIA法などのより精密な測定へと進むという段階的アプローチが、医療資源の効率的活用につながります。