HAQスコアが0.5未満でも、日常生活に深刻な支障をきたしている患者が約3割存在します。

HAQスコア(Health Assessment Questionnaire)は、1978年にスタンフォード大学のFries博士らが開発した患者報告アウトカム(PRO)指標です。
関節リウマチ(RA)患者の身体機能障害を定量的に評価するために設計されており、現在では世界100か国以上で使用される標準的な評価ツールとなっています。つまり、臨床研究から日常診療まで幅広く通用する共通言語です。
開発の背景には、当時の医療評価が医師の主観的所見に依存しすぎていたという問題意識があります。Fries博士は「患者自身が感じる障害こそが最も重要なアウトカムである」という考えのもと、患者が自己記入できる形式を採用しました。患者中心の視点が基本です。
日本では厚生労働省の関節リウマチ診療ガイドラインでも活用が推奨されており、保険診療の場面でも使用されています。現在使用されている短縮版はHAQ-DI(Disability Index)と呼ばれ、これが臨床現場で最も普及しているバージョンです。
HAQスコアは20の質問項目から構成され、8つのカテゴリーに分類されています。各項目は「困難なく行える(0点)」「いくらか困難(1点)」「かなり困難(2点)」「まったくできない(3点)」の4段階で評価します。
8つのカテゴリーは以下の通りです。
各カテゴリーの質問の中で最も高いスコアを代表値とし、8カテゴリーの代表値を合計して8で割った値が最終的なHAQスコアになります。つまり、スコアは0〜3の連続値です。
さらに補助具や他者の助けを使用している場合は、該当カテゴリーのスコアを最低でも2点に引き上げるという補正ルールがあります。この補正を見落とすと過小評価になります。
例えば、歩行時に杖を使っている患者が「歩行」カテゴリーで1点と回答していた場合、補正により2点に修正されます。日常的に見落とされやすいポイントなので、補助具・介助の有無を必ず確認する習慣が必要です。
スコアの解釈には一定の基準があります。これが臨床判断の基礎になります。
| スコア範囲 | 機能障害の程度 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| 0〜0.5未満 | 軽微〜なし | ほぼ正常な日常機能 |
| 0.5〜1.0未満 | 軽度 | 一部のADLに軽い支障 |
| 1.0〜2.0未満 | 中等度 | 就労・社会活動に影響が出始める |
| 2.0〜3.0 | 重度 | 介助なしの生活が困難な状態 |
治療効果の判定において重要な概念がMCID(最小臨床的重要差)です。HAQにおけるMCIDは0.22とされており、この数値以上スコアが改善した場合に「臨床的に意味のある改善あり」と判断します。
0.22という数値はピンとこないかもしれませんが、例えば着替えや歩行において「かなり困難」だった動作が「いくらか困難」に改善したレベルに相当します。患者の実感に対応する数字です。
また、疾患活動性指標(DAS28など)が改善していてもHAQが改善しない「dissociation(乖離)」現象が一定頻度で観察されます。炎症がコントロールできていても、関節破壊や筋力低下によってADL障害が残存するためです。この乖離を見逃さないことが重要です。
DAS28は関節の腫れや圧痛、血液検査値(CRP・ESR)をもとに疾患活動性を評価する指標です。一方でHAQは患者が実際に「できること・できないこと」を反映します。これは二つで初めて全体が見える構造です。
DAS28が寛解基準(スコア2.6未満)を満たしているにもかかわらず、HAQが1.0以上を示す患者が全体の20〜30%程度存在することが研究で示されています。意外ですね。
このような患者には、炎症の制御とは別に、リハビリテーションや生活指導、補助具の導入を検討する必要があります。治療のゴールを「検査値の正常化」だけに置かないことが、患者QOL向上の鍵になります。
HAQはSDAI・CDAIとも組み合わせて使われることが多く、T2T(Treat to Target:目標達成に向けた治療)戦略の進捗管理ツールとして機能します。包括的な管理が基本です。
参考:日本リウマチ学会によるT2T推奨に関する解説
日本リウマチ学会公式サイト - 関節リウマチ診療ガイドライン・T2T推奨について
HAQの評価タイミングについて、多くの施設では「外来受診ごとに毎回実施」する運用が一般的です。しかし実際には、患者の回答疲れや記入漏れが生じやすく、データの質が低下するリスクがあります。
研究では3〜6か月ごとの定期評価でも治療効果の検出精度が外来毎評価とほぼ同等であることが示されており、頻度よりも「評価条件を統一すること」の方が再現性に寄与すると考えられています。結論は評価の質が条件です。
評価条件の統一として重要な点は以下の通りです。
近年はスマートフォンアプリやタブレットを使った電子的なPRO(ePRO)収集が普及しつつあります。日本国内でも関節リウマチ患者向けの自己管理アプリが複数リリースされており、HAQの継続的な収集・可視化を患者自身が行えるようになっています。これは使えそうです。
患者が自分のスコア推移をグラフで確認できることで、治療へのアドヒアランス向上にも寄与するという報告もあります。評価ツールは使い方次第で患者教育の道具にもなります。
参考:電子患者報告アウトカム(ePRO)の導入事例と有用性に関する情報
J-STAGE 日本臨床 - 患者報告アウトカムに関する研究論文一覧