アンドロゲンの作用機序と健康への影響

アンドロゲンは男性ホルモンの総称で、男性の第二次性徴や筋骨格系の維持など重要な生理作用を担っています。体内でのアンドロゲンの合成・分泌メカニズムや、欠乏時の症状、関連疾患について詳しく解説します。アンドロゲンが私たちの健康に与える影響とは?

アンドロゲンとは何か

アンドロゲンの概要と特徴
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男性ホルモンの総称

テストステロン、DHT、アンドロステンジオンなど複数のホルモンを含む

広範囲な生理作用

筋肉・骨・脳・前立腺・皮膚など全身の組織に影響

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受容体を介した作用

アンドロゲン受容体と結合し遺伝子転写を調節

アンドロゲンの定義と分類

アンドロゲンは男性ホルモンの総称であり、男性の第二次性徴を促すステロイドホルモンです 。主要なアンドロゲンにはテストステロン、ジヒドロテストステロン(DHT)、アンドロステンジオン、デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)などがあります 。これらのホルモンは男性だけでなく女性の体内にも存在し、ホルモンバランスの調整に重要な役割を果たしています 。
参考)https://oki.or.jp/aga-usuge/dht/testosterone-vs-androgen/

 

アンドロゲンの中でも、テストステロンは「男性ホルモンの代表格」として位置づけられ、精巣の間質細胞で主に産生されます 。一方、DHTはテストステロンよりも髪の成長抑制作用が強く、毛髪サイクルを短縮させる特徴があります 。副腎で分泌されるDHEAは加齢とともに減少しやすいアンドロゲンとして知られています 。

アンドロゲンの合成と分泌メカニズム

アンドロゲンの主要な産生部位は、男性では精巣(ライディッヒ細胞)と副腎皮質です 。アンドロゲンの95%以上は精巣由来で、残りは主に副腎において生成されます 。精巣ではコレステロールを基質としてテストステロンが産生されますが、副腎では17β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼがないためテストステロンは産生されません 。
参考)https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/44_loh.pdf

 

アンドロゲン生成は視床下部-下垂体-性腺軸(HPG軸)によって精密に調整されています 。視床下部から分泌されるGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)が下垂体を刺激し、ゴナドトロピン(LHとFSH)を放出します 。LHは精巣を刺激してアンドロゲン生成を促進し、フィードバック機構により過剰生成が防がれます 。
参考)https://www.nhtjapan.com/more/knowledge/androgen.html

 

アンドロゲン受容体の作用機序

アンドロゲンは標的細胞内のアンドロゲン受容体(AR)と結合することで生理作用を発揮します 。アンドロゲン受容体は生殖器だけでなく、脳、血管、末梢神経などに広く分布し、アンドロゲンの標的となっています 。受容体との結合後、ホルモン-受容体複合体は細胞核に移行し、アンドロゲン応答遺伝子の転写活性を制御します 。
参考)https://www.nhtjapan.com/more/knowledge/androgen-receptor.html

 

テストステロンの約98%は性ホルモン結合グロブリン(SHBG)やアルブミンと結合した蛋白結合型として存在し、1-2%のみが遊離型(フリーテストステロン)として生理活性を示します 。前立腺や精囊などの標的器官では、5α-還元酵素によりテストステロンがより強力なDHTに変換されます 。

アンドロゲンの主要な生理作用

アンドロゲンは男性生殖器の分化、第二次性徴の発現、精子形成、副生殖器の機能、筋力増強など多様な機能を持ちます 。具体的には、思春期における筋肉の発達、声変わり、体毛の増加、精巣や陰茎の成長などの男性の第二次性徴を促進します 。また、精巣での精子生成を促進し、男性の生殖機能維持に不可欠です 。
骨と筋肉の健康維持においても、アンドロゲンは重要な役割を担います 。筋肉量を増加させ、骨密度を維持する作用があり、男性において筋肉の発達が顕著なのは、アンドロゲン受容体がこれらの組織で強く作用するためです 。骨密度の低下は、アンドロゲン受容体の機能が低下した場合に見られることが多いのです 。

アンドロゲン欠乏の症状と診断

アンドロゲン欠乏症は体内のアンドロゲンホルモンレベルが正常範囲を下回る状態で、様々な健康問題を引き起こします 。主な症状として、性欲の低下、勃起不全、筋力の低下、骨密度の低下、気分の変動、体脂肪の増加、集中力の低下などが挙げられます 。これらの症状は、テストステロンの多様な生理作用が低下することで生じます 。
参考)https://westclinic.tokyo/qampaviagra/what-is-androgen-deficiency.html

 

診断には血液検査によるアンドロゲン(主にテストステロン)レベルの測定が用いられ、複数回の測定が推奨されます 。加齢、疾患や障害、ホルモンバランスの乱れ、生活習慣やストレス、薬剤や治療などが欠乏症の原因となることがあります 。視床下部、下垂体、精巣に関する疾患や障害、クラインフェルター症候群、アンドロゲン不全症候群なども原因疾患として知られています 。

アンドロゲン関連疾患との関係

アンドロゲンはAGA(男性型脱毛症)と密接な関係があり、特にDHTが毛髪の成長を阻害する主要因子として作用します 。前立腺、精嚢、精巣上体、皮膚、毛包などの組織において5α-レダクターゼによってテストステロンからDHTに変換され、頭髪減少や皮脂増加と関連があります 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%92%E3%83%89%E3%83%AD%E3%83%86%E3%82%B9%E3%83%88%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%AD%E3%83%B3

 

前立腺がんとの関連では、アンドロゲンが前立腺がん細胞の成長を促進することが知られています 。頭頂部AGAは前立腺がんリスクの有意な増大と関連しているという研究結果も報告されており(OR:1.25)、アンドロゲンを介した共通のメカニズムが示唆されています 。また、前立腺がん治療では、アンドロゲン除去療法(ホルモン療法)が主要な治療法として用いられています 。
参考)https://www.cancercardio.net/news_from_ecancer/0013/index.html

 

興味深いことに、最近の研究では、アンドロゲンが膵臓β細胞で機能し、インスリン分泌をスムーズに行うことに貢献して2型糖尿病を予防する作用があることが発見されています 。これは従来の認識を超えた新たなアンドロゲンの生理作用として注目されています 。
参考)https://www.omu.ac.jp/agri/nc/research/index.html