アラキドン酸は、n-6系不飽和脂肪酸の一種で、4つのcis二重結合を有する20個の炭素鎖からなる脂肪酸です 。体内ではリノール酸からγ-リノレン酸、ジ・ホモγ-リノレン酸を経て生合成されますが、広義の必須脂肪酸に分類されています 。
参考)https://himitsu.wakasa.jp/contents/arachidonic-acid/
細胞膜を構成する主要な成分のひとつとして、脳、肝臓、皮膚などのあらゆる組織に存在し、特に脳の神経細胞の主要成分として重要な役割を担っています 。日本人の食生活に肉類の割合が増えるにともない、アラキドン酸の摂取量はこの50年で4倍になっています 。
参考)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%83%89%E3%83%B3%E9%85%B8
アラキドン酸は脳の神経細胞の主要成分となるため、学習力や記憶力を向上する効果があります。神経細胞間で伝達物質の放出が起こるときには、細胞膜が柔らかい方がスムーズに情報が伝達されることが報告されており、アラキドン酸は細胞膜を柔らかくする働きがあることから、学習力や集中力を向上させる効果があります 。
老齢ラットを対象とした研究では、アラキドン酸を含有した餌を摂取させたところ、学習・記憶の指標とされる海馬の長期増強の低下が抑制され、Morris型水迷路学習試験では加齢に伴う空間認知障害が改善されたことが報告されています 。野生型のラットを生後4週までアラキドン酸含有餌で飼育した研究では、対象群よりも約30%神経新生が向上することが確認されました 。
参考)https://www.jst.go.jp/pr/announce/20090408/index.html
アラキドン酸は、細胞膜から遊離される脂肪酸で、シクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼによって、それぞれプロスタグランジンやヒドロキエイコサテトラエン酸(HETE)に代謝されます 。細胞膜リン脂質から合成されたアラキドン酸は、主に3つの経路で代謝されます 。
第一の経路はCOXによりプロスタグランジンやトロンボキサンなどを合成するCOX経路、第二はリポキシゲナーゼによりロイコトリエンやリポキサンなどを合成するリポキシゲナーゼ経路、第三はチトクロームP450(CYP)によりエポキシエイコサトリエン酸などを合成するCYP経路です 。
プロスタグランジンとは生体調整ホルモンの一種で、免疫機能を調整する効果、血圧をコントロールする働き、コレステロール値を下げる効果があります 。
アラキドン酸は植物にはほとんど含まれておらず、主に動物性食品(肉、卵、魚)に含まれています 。代表的なものには、レバー(特に鶏レバー)、卵の黄身、肉類(特に赤身肉や鶏肉)、サバやイワシなどの青魚、バターやチーズなどの乳製品が挙げられます 。
参考)https://www.rakuten.ne.jp/gold/pycno/special/about_arachidonic-acid.html
具体的な含有量では、鶏卵の卵黄(生)で86mg(可食部18gあたり)、豚レバーで300mg(100gあたり)、鶏レバーで120mg(100gあたり)、さわら(生)で387mg(可食部90gあたり)となっています 。缶詰食品では、まいわし味付缶詰で200mg(100gあたり)、まさば味付缶詰で180mg(100gあたり)含有されています 。
参考)https://wholefoodcatalog.com/nutrient/arachidonic_acid/foods/
🥚 卵類:鶏卵(卵黄、乾燥卵黄)198mg、鶏卵(卵黄、生)86mg
🥩 肉類:豚レバー300mg、牛レバー170mg、鶏心臓150mg、鶏レバー120mg
🐟 魚類:さわら387mg、みなみまぐろ(脂身)190mg、はたはた(生干し)190mg
参考)https://wholefoodcatalog.com/nutrient/arachidonic_acid/foods/high/2/
アラキドン酸は胎児や乳児の脳や体の発達に欠かせない成分で、特に1歳未満の乳児では、体内でアラキドン酸を合成する力が弱いため重要とされています 。2007年、乳児用調製乳に関する世界的標準規格であるFAO/WHO Codex規格は、乳児用調製乳にDHAとともにアラキドン酸を同時に配合することを推奨しています 。
参考)https://www.morinagamilk.co.jp/release/0511_613.html
アラキドン酸とDHAは母乳に含まれる必須脂肪酸で、乳幼児の発育に重要な役割を果たしています。森永乳業では育児用ミルクに、DHAを2に対しアラキドン酸は1(DHA=70mg/100g、ARA=35mg/100g)の割合で配合しており、日本人の母乳の比率に近づけています 。
満期出生児を対象とした研究では、アラキドン酸とDHAを添加した調製乳を与えた群で、コントロール群と比べ精神発達指標が有意に向上したことが報告されています 。最近の研究では、長鎖脂肪酸であるアラキドン酸とDHAを一緒に摂取することで、幼児期の発達に長期的に良い影響を与えることが明らかになっています 。
参考)https://www.dsm-firmenich.com/ja-jp/businesses/health-nutrition-care/news/talking-nutrition/ara-dha-early-life-nutrition.html
アラキドン酸の代謝経路は心血管系疾患と密接な関係があります。アラキドン酸カスケードの代謝系で合成されるプロスタサイクリン(PGI2)は、主に血管内皮細胞で産生され、血小板凝集抑制、血管平滑筋の拡張作用を有し、循環動態のホメオスタシス維持に重要な役割を果たします 。
参考)https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/pathophysiology/2-70.html
心不全患者を対象とした研究では、エイコサペンタエン酸とアラキドン酸の比が予後に関連することが報告されています 。また、心不全の病態生理において、心臓における炎症の役割が注目されており、アラキドン酸から生成される12/15リポキシゲナーゼによる炎症反応が心不全に影響することが示されています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/138/5/138_5_187/_pdf
動脈硬化性疾患の基盤となる病態では、LDL-C以外の危険因子として、血漿中エイコサペンタエン酸/アラキドン酸比の重要性が指摘されており、虚血性心疾患の予防において重要な指標とされています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/43/3/43_345/_pdf/-char/ja