HBs抗原が陰性でも、あなたが処方した薬で患者が劇症肝炎を起こす可能性があります。

B型肝炎ウイルス(HBV)再活性化とは、免疫抑制・化学療法によってウイルスの増殖抑制が解除され、肝炎が再燃する状態のことです。 キャリア(HBs抗原陽性)からの再活性化に加え、HBs抗原が陰性であっても過去に感染歴のある「既往感染者」から再活性化した場合は、特に「de novo B型肝炎」と呼ばれます。 haart-support(https://haart-support.jp/guideline2021/part12_10/)
重要なのは、de novo B型肝炎は通常のキャリアからの再活性化よりも重症化しやすいという点です。 原疾患の治療を中断せざるを得ない状況にもなり得るため、予防対策は早期から徹底することが原則です。 haart-support(https://haart-support.jp/guideline2021/part12_10/)
つまり「HBs抗原陰性=安全」という認識は危険ということですね。
日本肝臓学会の「B型肝炎治療ガイドライン」は第4版まで改訂が重ねられており、免疫チェックポイント阻害薬など新規薬剤への対応も追記されています。 現場での実践には最新版の参照が欠かせません。 jsh.or(https://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b.html)
参考:日本肝臓学会による免疫抑制・化学療法によるB型肝炎対策ガイドライン(スクリーニング・予防投与のフローチャートを含む)
日本肝臓学会 B型肝炎治療ガイドライン(最新版)
ガイドラインではHBV再活性化リスクを「高リスク(10%超)」「中リスク(1〜10%)」「低リスク(1%未満)」の3段階で分類しています。 この分類を把握しているかどうかで、予防投与の適否判断が大きく変わります。 hinyan1016.hatenablog(https://hinyan1016.hatenablog.com/entry/2025/05/29/083319)
最もリスクが高い薬剤は抗CD20モノクローナル抗体(リツキシマブ・オファトムマブ等)で、HBs抗原陽性患者における再活性化率は38〜73%に達します。 造血幹細胞移植においては66〜81%という数字も報告されており、これは化学療法単独の2倍以上のリスクです。 kenpoku-creative(https://kenpoku-creative.com/hbv-zai-huo-xing-hua-sheng-wu-xue-de-zhi-ji-hua-xue-liao-fa-yu-fangno-zui-xingaido)
これは使えそうです。
| リスク分類 | 代表的な薬剤・治療 | HBsAg陽性での再活性化率 | 予防投与の必要性 |
|---|---|---|---|
| 高リスク | リツキシマブ、オファトムマブ | 38〜73% | HBsAg陽性・既往感染者ともに必須 |
| 高リスク | 造血幹細胞移植 | 66〜81% | 必須 |
| 高リスク | アントラサイクリン系化学療法 | 25〜40% | HBsAg陽性で必須 |
| 中リスク | 免疫チェックポイント阻害薬 | 約21% | 必須 |
kenpoku-creative(https://kenpoku-creative.com/hbv-zai-huo-xing-hua-sheng-wu-xue-de-zhi-ji-hua-xue-liao-fa-yu-fangno-zui-xingaido)
本邦の化学療法施行例でHBs抗原陽性割合は1〜3%、HBs抗体またはHBc抗体の陽性割合は20〜30%前後とされています。 患者数が多い施設ほど、見落としが起きやすい構造的なリスクがあります。 id-info.jihs.go(https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/6680-438r07.html)
参考:化学療法施行時のHBV再活性化リスクと薬剤別分類の詳細
国立健康危機管理研究機構 IASR:B型肝炎ウイルス再活性化について
免疫抑制・化学療法を開始する前に行うべきスクリーニングは、HBs抗原・HBc抗体・HBs抗体の3マーカーセットです。 HBs抗原だけを確認して「陰性だから問題なし」と判断するのは、ガイドラインが想定する確認の半分にも満たない対応です。 hinyan1016.hatenablog(https://hinyan1016.hatenablog.com/entry/2025/05/29/083319)
注意が必要な点として、HBs抗体陽性であっても、それがワクチン接種によるものか自然感染によるものかを区別する必要があります。 自然感染による既往感染者は、強力な免疫抑制下では抗体価が低下して再活性化が起こり得るためです。これが条件です。 hinyan1016.hatenablog(https://hinyan1016.hatenablog.com/entry/2025/05/29/083319)
参考:スクリーニング結果の解釈とフローチャートの詳細
免疫抑制療法中のB型肝炎ウイルス再活性化対策(フロー解説付き)
高リスク薬剤(リツキシマブ等)を使用した場合、治療終了後も少なくとも12か月間はHBV DNAモニタリングの継続が必要です。 造血幹細胞移植例については、さらに長期間のモニタリングが求められます。厳しいところですね。 jsh.or(https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/B_document-3_20200716.pdf)
通常リスクの免疫抑制療法では、1〜3か月ごとにHBV DNAを測定し、20 IU/mL以上に上昇した時点で即座に核酸アナログを開始するという「先制治療」戦略が日本肝臓学会ガイドラインで示されています。 この「検出されたら即開始」のルールだけ覚えておけばOKです。 hinyan1016.hatenablog(https://hinyan1016.hatenablog.com/entry/2025/05/29/083319)
核酸アナログの予防投与終了を検討できるのは、「投与開始から2年以上経過」「中止時にHBV DNAが検出感度以下」「中止時にHBe抗原陰性」という3条件を満たす場合です。 勝手に中断すると再活性化が起こり得るため、条件確認は必須です。 jsh.or(https://www.jsh.or.jp/lib/files/medical/guidelines/jsh_guidlines/B_v4_20220817.pdf)
参考:核酸アナログ投与終了基準の詳細と注意事項
日本肝臓学会 B型肝炎治療ガイドライン第4版(PDF)
日本医療機能評価機構は、HBV再活性化による医療事故をくり返し報告書で取り上げています。 2024年7月〜9月の3か月間だけでも類似事例が3件報告されており、決して「過去の問題」ではありません。 med-safe(https://www.med-safe.jp/pdf/report_79_R001.pdf)
医療事故の原因として最も多いのは、「免疫抑制剤投与前のHBs抗原スクリーニング未実施」です。 さらに、スクリーニングを行ったとしても3マーカーではなくHBs抗原単独での確認にとどまった事例や、核酸アナログ投与を開始すべきタイミングで処方が抜けていた事例も報告されています。 これが繰り返される原因です。 jshp.or(https://www.jshp.or.jp/content/2025/0106-1.pdf)
院内体制の整備として、以下の3点が機構から求められています。 tkhs.co(https://www.tkhs.co.jp/medical/news/detail.html?CMS_FRONT_INFO_ID=915)
個人の注意だけに頼る体制は限界があります。HBV再活性化リスクがある薬剤の処方時に自動でスクリーニング確認を促す電子カルテのアラート設定は、多忙な臨床現場で最も実効性の高い対策の一つです。院内の薬剤部・感染管理チームと連携してシステムを整備することで、見落としを構造的に防ぐことができます。
参考:医療機能評価機構による再発・類似事例の分析報告(2024年版)
医療安全情報 第79回報告書:HBV再活性化の再発事例分析(PDF)