リツキシマブは、B細胞表面に特異的に発現するCD20抗原を標的とするキメラ型モノクローナル抗体です 。CD20は29~33kDaの膜貫通糖蛋白質で、成熟したB細胞およびB細胞系腫瘍に発現しており、形質細胞には発現しないという特徴があります 。
参考)https://oncolo.jp/drugs/rituxan
この薬剤の分子量は144,510で、マウス由来の可変部領域とヒト由来の定常部領域(IgG1κ)から構成される1,328個のアミノ酸からなるキメラ型抗体として設計されています 。チャイニーズハムスター卵巣細胞で産生され、無色から淡黄色の澄明または微濁した液体として供給されています。
参考)http://www.nihs.go.jp/dbcb/Biologicals/rituximab.html
リツキシマブがCD20に結合すると、以下の3つの主要な作用機序により B細胞の除去が行われます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/7/97_1620/_pdf
リツキシマブは悪性リンパ腫治療において画期的な進歩をもたらしました 。特にCD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫に対して、従来の化学療法との併用により治療成績が大幅に向上しています。
びまん性大細胞型B細胞リンパ腫では、リツキシマブ併用CHOP療法(R-CHOP)が標準的な初回治療として確立されています 。この併用療法により、従来のCHOP療法単独と比較して、完全寛解率と全生存率の有意な改善が認められています。
ろ胞性リンパ腫では、化学療法との併用による寛解導入療法後に、リツキシマブ単剤による維持療法が行われます 。維持療法では2~3ヶ月間隔で投与を行い、長期間にわたって再発を抑制する効果が期待されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000111300.pdf
慢性リンパ球性白血病(CLL)においても、フルダラビンおよびシクロホスファミドとの併用療法(R-FC療法)により、無増悪生存期間の改善が認められています 。ただし、全生存期間の改善は証明されておらず、過去にR-FC療法歴のある患者への再投与効果は検討されていません。
リツキシマブは悪性リンパ腫以外にも、多数の自己免疫疾患治療に応用されています 。B細胞が病態形成に関与する自己免疫疾患において、B細胞除去によって症状改善が期待されるためです。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00067382
関節リウマチでは、メトトレキサートとの併用により、抗TNF製剤で効果不十分または忍容性が認められない患者の症状緩和に用いられます 。X線診断所見により、構造的関節破壊の進行を遅らせる効果も確認されています。
ANCA関連血管炎(多発血管炎性肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎)では、ANCAの産生源となるB細胞を除去することで治療効果を発揮します 。海外ではリツキシマブとシクロホスファミドを比較する臨床試験(RAVE試験)で有効性が証明されています。
参考)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_4748
全身性強皮症に対しては、2021年9月に日本で強皮症そのものに対する治療薬として初めて承認されました 。東京大学医学部附属病院の研究グループによる医師主導治験により、皮膚硬化の改善と肺線維症に対する有効性が科学的に証明されています。B細胞は強皮症の病態形成の根元に近いと考えられており、従来治療と比べてより根本的な治療法として期待されています。
参考)https://www.amed.go.jp/news/release_20211007.html
リツキシマブの投与は、緊急時の救命対応が可能な環境下において、重篤な輸注時反応への対処が可能な医師の管理のもとで行う必要があります 。専用ラインによる静脈内投与で、push投与やbolus投与は禁止されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000052884.pdf
標準的な投与方法として、B細胞性非ホジキンリンパ腫では通常成人に375mg/m²を1週間間隔で点滴静注します 。投与前には解熱鎮痛剤、抗ヒスタミン剤、副腎皮質ホルモン剤などの前投与により、頻発するinfusion reaction(発熱、悪寒、頭痛等)を軽減させます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000052881.pdf
初回投与時の注入速度は、最初の30分間は50mg/時で開始し、患者の状態を十分観察しながら、30分ごとに50mg/時ずつ段階的に上昇させます 。最大400mg/時まで上昇可能ですが、患者の反応に応じて慎重に調整する必要があります。
希釈は用時生理食塩液または5%ブドウ糖注射液で10倍希釈して使用し 、調製から投与開始まで24時間以内に使用することが推奨されています。
リツキシマブ治療で最も頻度の高い副作用は、infusion reaction(輸注時反応)です 。発熱(29.8%)、そう痒(14.0%)、発疹(13.6%)、悪寒(12.6%)などが主な症状として報告されています。これらの反応は通常、初回投与時に最も強く現れ、投与回数を重ねるごとに軽減する傾向があります。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00067174
血液学的副作用では、好中球減少症(20.8%)、白血球減少症(6.7%)が高頻度で認められます 。免疫抑制作用により感染症のリスクが高まるため、定期的な血液検査による監視と感染症対策が重要です。
参考)https://passmed.co.jp/di/archives/471
重大な副作用として特に注意が必要なのは、B型肝炎ウイルスの再活性化です 。HBs抗体陽性患者でも投与後にHBs抗体が陰性の急性B型肝炎を発症した症例が報告されており、治療前のHBV関連マーカーの確認と投与期間中の肝機能監視が必須です。
参考)https://chugai-pharm.jp/product/rit/div/
その他の重大な副作用には以下があります。
これらのリスクを最小限に抑えるため、投与前の十分な検査と投与中の厳重な監視体制が求められています。