劇症肝炎の初期症状は、一般的な急性肝炎と類似していますが、短期間で急速に重篤化するのが特徴です。初期段階では全身倦怠感、発熱、食欲不振、吐き気・嘔吐、右上腹部の違和感や痛みなどの非特異的な症状が現れます。
参考)https://cloud-dr.jp/medical-navi/disease/1644/
症状が進行すると、皮膚や白目の黄疸、尿の色が濃くなる、便の色が白っぽくなるなどの肝機能障害による症状が現れます。さらに重篤になると、歯ぐきや鼻からの出血、皮下出血などの出血傾向、肝性脳症による軽度の眠気から判断力低下、昏睡へと進行します。
特に注意すべきは、急に話がかみ合わなくなる、意味のない行動をするなどの精神神経症状が現れた場合で、これは肝性脳症の初期症状であり、早急な対応が必要です。腹部膨満感(腹水の貯留)、腎機能低下、呼吸不全など多臓器不全の兆候も現れることがあります。
劇症肝炎の原因として最も多いのはウイルス性肝炎です。B型肝炎ウイルスは劇症肝炎の重要な原因であり、劇症肝炎症例の最大50%でD型肝炎ウイルスの同時感染が見られます。A型肝炎ウイルスによる劇症肝炎はまれですが、肝疾患の既往がある場合に可能性が高くなります。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E5%8A%87%E7%97%87%E8%82%9D%E7%82%8E
E型肝炎ウイルスも劇症肝炎を引き起こすことがあり、特に妊婦で多く発症し、胎児死亡、肝不全、死亡につながる可能性があります。C型肝炎ウイルスの役割は依然として不明ですが、関与が指摘されています。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/02-%E8%82%9D%E8%83%86%E9%81%93%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%82%9D%E7%82%8E/%E5%8A%87%E7%97%87%E8%82%9D%E7%82%8E
薬物性肝障害も重要な原因の一つで、米国では薬物(特にアセトアミノフェン)が劇症肝炎の最も一般的な原因となっています。自己免疫性肝炎、代謝異常なども原因となることがあり、これらにより肝細胞が広範に壊死し、解毒・代謝・血液凝固といった肝臓の基本機能が著しく低下します。
劇症肝炎の診断基準は厚生労働省により明確に定められています。診断には「肝炎のうち初発症状出現後8週以内に高度の肝機能異常に基づいて昏睡II度以上の肝性脳症をきたし、プロトロンビン時間が40%以下を示すもの」という条件を満たす必要があります。
参考)http://www.hepatobiliary.jp/uploads/files/%E8%A1%A8%EF%BC%91(3).pdf
プロトロンビン時間(PT)は劇症肝炎の診断において極めて重要な指標です。肝臓で合成される凝固因子の低下を反映し、特に第7因子の欠乏による凝固障害を評価します。PT%と肝性脳症の頻度は強い関連性があることが知られており、診断と予後判定の重要な指標となります。
参考)https://www.skgp.jp/lecture/%E6%80%A5%E6%80%A7%E8%82%9D%E4%B8%8D%E5%85%A8%E3%81%A8%E5%87%9D%E5%9B%BA%E5%9B%A0%E5%AD%90%E3%80%8Cpt%E3%81%A8%E7%AC%AC7%E5%9B%A0%E5%AD%90%E3%80%8D/
診断確定のための臨床検査として、肝機能検査(アミノトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ)、PT/INR、ビリルビン、アルブミンなどの測定が必要です。また、A型、B型、C型肝炎ウイルスの検査だけでなく、サイトメガロウイルス、エプスタイン-バーウイルス、単純ヘルペスウイルスなど他のウイルスについても検査を行います。
劇症肝炎では高率に全身の合併症を併発し、多臓器不全(MOF)に陥る場合があります。合併症としてDIC(播種性血管内凝固症候群)と腎不全が約40%で最も多く、感染症は約30%、脳浮腫と消化管出血は約15%に併発しています。
参考)http://www.hepatobiliary.jp/modules/medical/index.php?content_id=13
腎不全の合併は劇症肝炎39例における18例(46.2%)と高率にみられ、合併症数の増加に伴い救命率は低下します。DICは血液凝固系の異常により血栓形成と出血傾向の両方を引き起こし、劇症肝炎の予後を大きく左右する重要な合併症です。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1402907133
感染症対策も極めて重要で、劇症肝炎患者では免疫機能の低下により細菌感染が起こりやすく、発熱、呼吸困難、むくみ、下血、口腔内や注射針で刺した部位からの出血など、様々な症状が次々と現れることになります。全身管理や合併症に対する治療が劇症肝炎の治療において不可欠です。
参考)http://www.hepatobiliary.jp/modules/disease/index.php?content_id=7
劇症肝炎の治療は原因に対する治療と肝保護療法の2つのアプローチが重要です。B型肝炎ウイルスが原因の場合、エンテカビルなどの核酸アナログ製剤の経口投与やインターフェロン アルファを併用した抗ウイルス療法を行います。薬物性肝障害や自己免疫性肝炎では、副腎ステロイド薬を点滴により短期的に大量投与します。
肝保護療法として、血漿交換療法や血液透析療法を行い、体外に血液を循環させて体に必要な物質を補充し有害物質を除去します。肝臓の機能が低下すると体に必要な物質が十分に合成されず、有害物質を解毒できなくなるため、この治療が重要です。
内科的治療で救命不能な劇症肝炎患者の予後は極めて不良で、その唯一の救命手段は肝移植です。肝移植適応ガイドラインと難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究班が作成したスコアシステムを用いて初回の予後予測を行い、移植適応を決定します。急性型の内科的救命率は50%、亜急性型は20%と低く、適切なタイミングでの肝移植判断が重要です。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/kenkyuhan_pdf2012/s-syoukaki2.pdf