第一鉄(Fe²⁺)は2価の鉄イオンとして存在し、金属化合物の命名において低原子価を有する鉄を示すために「第一」という接頭語が使用されます 。この化学的特性により、第一鉄は酸化還元反応において電子を供与しやすく、生体内での鉄代謝において重要な役割を果たします 。鉄は遷移元素として2価(Fe²⁺)と3価(Fe³⁺)の原子価状態を容易に取るため、酸化還元反応における電子授受媒体として生命現象に欠かせない元素となっています 。
参考)https://www.fpa.or.jp/johocenter/yakuji-main/_1635.html?blockId=38984amp;dbMode=article
第一鉄化合物は医療現場では主に鉄欠乏性貧血の治療薬として広く使用されており、特にクエン酸第一鉄ナトリウム(フェロミア)は経口鉄剤の代表的な薬剤として知られています 。この化合物は酸性から塩基性に至る広いpH域で溶解する特性を持ち、中性から塩基性溶液中でも腸管からの吸収が可能な溶けやすい低分子鉄として存在します 。
参考)https://ueno-okachimachi-cocoromi-cl.jp/knowledge/ferromia/
医療用の第一鉄化合物には複数の種類があり、それぞれ異なる特性を持っています 。クエン酸第一鉄ナトリウム(フェロミア)は2価の有機鉄として分類され、フィルムコート錠や顆粒剤の剤形で提供されています 。通常成人には鉄として1日100~200mgを1~2回に分けて食後経口投与し、年齢や症状により適宜増減します 。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=70380
乾燥硫酸鉄(フェロ・グラデュメット)は2価の無機鉄として徐放型製剤となっており、フマル酸第一鉄(フェルム)も2価の有機鉄として徐放カプセル形態で使用されています 。これらの第一鉄製剤は、第二鉄よりも吸収が良好であることが知られていますが、胃腸障害を起こしやすいという特徴もあります 。
参考)https://kanri.nkdesk.com/drags/hinketu.php
第一鉄の体内での吸収は、腸管における特殊なメカニズムによって調節されています 。二価金属輸送体-1(DMT1)を介して第一鉄は細胞内に取り込まれ、鉄の供給が少ない時は鉄調整タンパク質(IRP)がトランスフェリン受容体の合成を促進し、細胞への鉄の取り込みを増やします 。
参考)https://lpi.oregonstate.edu/jp/mic/%E3%83%9F%E3%83%8D%E3%83%A9%E3%83%AB/%E9%89%84
鉄のバイオアベイラビリティは食事の内容によって大きく影響を受け、相当量の食肉、魚介類、ビタミンCを含む混合食から約14~18%、ベジタリアン食から5~12%程度となります 。第一鉄は第二鉄(Fe³⁺)よりも吸収性に優れているため、鉄欠乏性貧血の治療において第一選択薬として使用されています 。
参考)https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c03/07.html
第一鉄製剤の使用に際しては、消化器系の副作用に注意が必要です 。主な副作用として吐き気、下痢、便秘などの消化器症状や黒色便が知られており、これらは第一鉄が消化管で酸化される過程で生じます 。特に第一鉄は3価から2価への変換時に細胞内で「むかつき」の原因となるため、胃腸障害を起こしやすい特徴があります 。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/kurumi/2913
副作用軽減のための対策として、食後服用や分割投与が推奨されており、患者の状態に応じて用量調整を行います 。また、お茶やコーヒーに含まれるタンニンは非ヘム鉄の吸収を阻害するため、サプリメント服用時は避けることが重要です 。腸内環境を整えることで副作用を軽減できる場合もあり、総合的な治療アプローチが求められます 。
参考)https://brand.taisho.co.jp/contents/beauty/533/
鉄欠乏性貧血の治療において、第一鉄製剤は基本的な治療薬として位置づけられています 。経口鉄剤での治療開始が原則とされ、クエン酸第一鉄ナトリウム(フェロミア)、乾燥硫酸鉄(フェロ・グラデュメット)、フマル酸第一鉄(フェルム)などの第一鉄製剤が使用されます 。
参考)https://credentials.jp/2023-05/special/
治療効果は通常2~3週間で症状の改善が見られ、多くの患者では1~2ヶ月で症状が改善します 。しかし、鉄剤による治療は症状改善後も鉄貯蔵量の回復まで継続する必要があり、長期間の服薬継続が重要となります 。最近では、従来の第一鉄製剤で胃腸障害が問題となる患者に対して、悪心や嘔気などの胃腸障害が比較的少ないクエン酸第二鉄水和物(リオナ)も選択肢として使用されています 。
参考)https://daini-hattoriiin.jp/blog/%E9%89%84%E3%81%8C%E8%B6%B3%E3%82%8A%E3%81%AA%E3%81%84%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%81%AE%E6%B2%BB%E7%99%82%E8%96%AC%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E3%80%82