バイオアベイラビリティの測定方法と薬物動態における重要性

薬物がどの程度体内に吸収され利用されるかを示すバイオアベイラビリティの定義や測定方法、初回通過効果との関係、改善技術について詳しく解説します。薬物動態学においてなぜこの指標が重要なのでしょうか?

バイオアベイラビリティの基本概念と薬物動態

バイオアベイラビリティの重要な特徴
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生物学的利用率の指標

投与された薬物のうち全身循環に到達する割合を示す

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薬物動態への影響

治療効果と安全性を決定づける基本パラメータ

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測定方法の多様性

絶対的・相対的バイオアベイラビリティの評価技術

バイオアベイラビリティの定義と生物学的意義

バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)とは、投与された薬物のうち、未変化のまま全身の血液循環に実際に到達する割合を指します 。この概念は1984年のアメリカ食品医薬品局(FDA)が承認したジェネリック医薬品における薬物吸収の証拠として重要な位置を占めています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4157693/

 

薬物が静脈内に直接投与される場合、バイオアベイラビリティは100%になりますが、経口摂取など他の方法により投与される場合は、全身循環に至るまでに不完全な吸収や初回通過効果を受けるため、その分バイオアベイラビリティは低下します 。例えば、経口で100mgの薬を服用し、そのうち30mg相当が吸収されて血流に乗れば、生体利用率は30%となります 。
参考)https://answers.ten-navi.com/dictionary/cat04/3652/

 

この指標の重要性は、医薬品の効果と安全性を適切に評価・確保する上で極めて重要だという点です 。治療域の狭い薬剤では、生体利用率のわずかな差が効果不十分や毒性の発現といった重大な差につながることがあります。そのため医薬品開発において、生体利用率を正確に測定・理解することは欠かせません 。

バイオアベイラビリティの測定方法とAUC計算の実際

生体利用率の測定には、「絶対的バイオアベイラビリティ(absolute bioavailability)」と「相対的バイオアベイラビリティ(relative bioavailability)」の2つの指標があります 。
絶対的バイオアベイラビリティは、ある投与経路(例:経口)の薬物が静脈内投与(IV)と比較してどの程度全身循環に到達したかを示す値です 。具体的には、同一の薬物を静脈内投与した場合を基準(100%吸収されたとみなす)として、経口など別の経路で投与した際の血中薬物濃度–時間曲線下面積(AUC:Area Under the Curve)を比較することで算出します 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%90%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%82%A2%E3%83%99%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%93%E3%83%AA%E3%83%86%E3%82%A3

 

絶対的バイオアベイラビリティFの計算式は以下の通りです。
F = [AUC]po/DOSEpo / [AUC]iv/DOSEiv
AUC算出の計算方法としては、一般的に各時点の濃度を直線で結んだ台形の面積を用いる線形台形法(Linear trapezoidal method)が用いられます 。この方法により、薬物動態学において必須の薬物濃度データを得ることができます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjb/36/Special_Issue/36_S3/_pdf

 

バイオアベイラビリティに影響する初回通過効果と吸収過程

バイオアベイラビリティは、薬物動態を表すADME(Absorption吸収、Distribution分布、Metabolism代謝、Excretion排泄)の各過程と密接に関わっています 。特に「吸収(Absorption)」と「初回通過効果(First-pass Metabolism)」が生体利用率を決定づける主要因です。
経口投与された薬物は、消化管から吸収された後、門脈を通って肝臓を経て血液中に入ります 。しかし、消化管上皮細胞や肝臓で代謝を受けることにより、投与量の全てが生体内に利用されるわけではありません 。
参考)https://yakugai.akimasa21.net/bioavailability/

 

バイオアベイラビリティが70%の薬物は、投与量の30%がいろいろな機序で失われることを意味します 。すなわち、初回経口投与後、胃→腸管→肝→全身循環の間での薬物の消失が初回通過効果と定義されます 。初回通過効果が大きい薬物ほど、消失率が高く、バイオアベイラビリティが低いことになります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscpt/44/3/44_268/_pdf/-char/ja

 

つまり、「バイオアベイラビリティ」は、「消化管から吸収される割合」×「初回通過効果を受けない割合」で概算されます 。生物の身体は、毒物を摂取してしまった場合、その毒がいきなり心臓や脳など重要な組織に到達しないよう、必ず最初に「肝臓」という解毒・分解機構を通るようにできています 。
参考)https://www.fizz-di.jp/archives/1030212018.html

 

バイオアベイラビリティ向上のための製剤技術とプロドラッグ戦略

生体利用率が低い薬物であっても、製剤工夫や分子設計によってその値を改善できる可能性があります 。医薬品開発では、プロドラッグの設計、ナノ粒子化・微粒子化などの技術が用いられます。
プロドラッグとは、有効成分そのものでは吸収が悪い場合、一時的に化学構造を変換した薬物を設計する手法です 。体内で酵素などにより元の有効成分に変換されて初めて薬効を示す化合物です。例えば、抗ウイルス薬アシクロビルは経口生体利用率が約10~20%と低いのですが、これにL-バリル基を付加したバラシクロビル(アシクロビルのプロドラッグ)では腸からの吸収が飛躍的に改善し、投与後に肝臓で速やかにアシクロビルに変換されます 。その結果、バラシクロビル投与時のアシクロビル生体利用率は約54%にまで向上します。
生理活性分子の脂溶性/水溶性の調節およびバイオアベイラビリティの向上を目的として分子内にリン酸基を導入する手法も、プロドラッグの分野で広く用いられています 。リン酸クロロメチルジベンジルやリン酸クロロメチルジ-tert-ブチルなどの試薬を適切な求核剤に対して使用することで、簡便にリン酸エステル基を導入することができます 。
参考)https://www.tcichemicals.com/JP/ja/product/tci-topics/ProductHighlights_20220328

 

バイオアベイラビリティ評価における個体差と品質管理の課題

バイオアベイラビリティの評価において、個体内変動(individual variation)は重要な課題となります 。クリアランスの個体内変動が大きい薬物(通常、残差変動がCV にして25~30%以上)では、統計学的に生物学的同等性を示すことが困難になります 。
参考)https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/bbh7c90000001hqq-att/DS_202311_HVDBE.pdf

 

生物学的同等性試験では、試験製剤と標準製剤のAUC及びCmaxの対数値における平均値の差の90%信頼区間が、log 0.80~log 1.25の範囲に含まれたとき、生物学的に同等であると判定されます 。しかし、個体内変動が大きい薬物では、この基準を満たすことが統計学的に困難となる場合があります。
医薬品の適用集団が限られている場合、特定の年齢層や性別の患者に高い頻度で適用される場合を意味します 。特定されない集団から募った健康志願者と適用集団とでは、バイオアベイラビリティに影響を及ぼす因子が異なり、製剤間のバイオアベイラビリティの差も、両者間で異なる可能性があります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb8098amp;dataType=1amp;pageNo=1

 

生物学的同等性試験を行う目的は、先発医薬品のバイオアベイラビリティの80%(AUC及びCmaxの対数値の母平均の比として)に満たないバイオアベイラビリティを持つ製剤を排除することです 。このような厳密な品質管理により、患者に安全で有効な医薬品を提供することが可能となります。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000234569.pdf

 

バイオアベイラビリティの正確な評価は、医薬品の開発から製造販売後調査まで、医薬品のライフサイクル全体において重要な指標として活用されています 。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2017/P20171024001/17005000_22900AMX00969_K100_1.pdf