脱水症状点滴種類選択法
脱水症状の点滴治療ガイド
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等張電解質輸液(細胞外液補充液)
出血・嘔吐・下痢による脱水時の第一選択。生理食塩水や乳酸リンゲル液が代表的
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低張電解質輸液(維持液類)
1~4号液に分類。水分欠乏性脱水や電解質バランス調整に使用
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脱水タイプ別選択
高張性・等張性・低張性脱水の特徴を理解し、適切な輸液を選択することが重要
脱水症状に使用する等張電解質輸液の特徴
等張電解質輸液は、細胞外液補充液とも呼ばれ、電解質濃度が細胞外液とほぼ同じであることが特徴です。主に下痢や嘔吐、発汗などによる脱水状態の際に投与されます。
代表的な等張電解質輸液には以下があります。
- 生理食塩水:0.9%の塩化ナトリウム溶液
- 乳酸リンゲル液:ナトリウム、カリウム、カルシウム、クロール、乳酸を含有
- 酢酸リンゲル液:乳酸リンゲル液の乳酸を酢酸に置き換えた製剤
これらの輸液は、ナトリウム欠乏型脱水に対して特に効果的です。多量の出血や嘔吐・下痢などが原因で起こる脱水で、循環血液量が減少し、血圧が低下している状態に対して使用されます。
投与の際は、通常0.9%生理食塩液を1,000mL/hrの速度で開始し、2~3時間で3L程度投与することが推奨されています。
大塚製薬工場の水・電解質輸液に関する詳細情報
脱水症状対応の低張電解質輸液4つの分類
低張電解質輸液は維持液類とも呼ばれ、生理食塩水と5%ブドウ糖が混合された輸液製剤です。水分と電解質の割合によって1号液から4号液まで4つの種類に分けられます。
1号液(開始液) 🔵
- カリウムを含まないため、カリウムを投与したくない患者に使用
- 救命救急など病態がはっきりしていない患者の初期治療
- 高カリウムを伴う脱水の電解質初期補給に使用
2号液(脱水補給液) 🟢
- ナトリウムとともにカリウムも投与したい脱水時に使用
- ナトリウムイオン、クロールイオン、カリウムイオン、乳酸が添加
- 水分と電解質を同時に補給する目的で投与
3号液(維持液) 🟡
- 1日に必要な水分・電解質が補給できるよう調整された輸液
- 体重50kgで2000mLを投与すれば、必要なナトリウムやカリウム量を投与可能
- 経口摂取が困難な患者に対して使用
4号液(術後回復液) 🔴
- 5%ブドウ糖液の割合が最も多く、電解質濃度が低い
- カリウムが含まれていないため、腎機能が低下している患者に使用
- 腎機能が未熟な新生児の術後に用いることがある
脱水症状のタイプ別点滴選択基準
脱水症状は、血清ナトリウム値によって3つのタイプに分類され、それぞれ異なる点滴治療が必要です。
高張性脱水(水分欠乏性脱水) 💧
- 血清ナトリウム値:145mEq/L以上
- のどの渇き、体温上昇、発熱を伴う
- 尿量が著しく減少し、舌や腋の下などが乾燥
- 治療:5%ブドウ糖溶液の点滴治療が行われる
- 自由水を血管内・間質・細胞内すべてに入れることが目的
等張性脱水 ⚖️
- 血清ナトリウム値:135-145mEq/L(正常範囲)
- 水分とナトリウムが同程度に失われた状態
- 最も一般的な脱水のタイプ
- 治療:等張電解質輸液(生理食塩水、乳酸リンゲル液)が第一選択
低張性脱水(ナトリウム欠乏性脱水) ⚡
- 血清ナトリウム値:135mEq/L未満
- のどの渇きはないが、嘔吐や頭痛を伴う
- 循環血液量の減少が大きく、ショックを起こしやすい
- 治療:高張食塩水や等張電解質輸液を慎重に投与
重要なのは、低張性脱水では一見軽度に見えても、実際には心血管虚脱に近づいていることです。そのため、外見に惑わされず、血液検査による正確な診断が必要になります。
脱水症状の重症度と点滴投与速度の調整
脱水の重症度は体重に対する水分欠乏量の割合で評価され、点滴の投与速度と総量を決定する重要な指標です。
軽度脱水(5%)。
- 乳児:50mL/kg、青年:30mL/kg(3%)の水分欠乏
- 症状:頬粘膜のわずかな乾燥、口渇の増加、尿量のわずかな減少
- 治療:経口補水療法を優先、必要に応じて低速度での点滴
中等度脱水(10%)。
- 乳児:100mL/kg、青年:50-60mL/kg(5-6%)の水分欠乏
- 症状:頬粘膜の乾燥、頻脈、尿量減少、嗜眠、眼の陥凹
- 治療:静脈内輸液が必要、1-2時間で欠乏量の半分を補充
重度脱水(15%)。
- 乳児:150mL/kg、青年:70-90mL/kg(7-9%)の水分欠乏
- 症状:速くて弱い脈、涙液欠乏、チアノーゼ、低血圧、昏睡
- 治療:緊急輸液、初期は20mL/kgのボーラス投与を繰り返し
特に小児の場合、代謝率が高く、体表面積に対する容量比が大きいため、成人よりも脱水の影響を受けやすくなります。そのため、より慎重な観察と迅速な治療開始が必要です。
投与速度は患者の状態によって調整しますが、心不全や腎不全がある場合は過度の輸液による循環負荷に注意が必要です。
MSDマニュアルの小児における脱水の詳細な病態と治療法
脱水症状の特殊な点滴治療とモニタリング方法
一般的な脱水治療に加えて、特殊な病態や併存疾患がある場合は、標準的な点滴治療を調整する必要があります。
糖尿病性ケトアシドーシスに伴う脱水 🩸
- 高血糖による浸透圧利尿で重度脱水が発生
- インスリン治療と並行した輸液療法が必要
- 急激な血糖低下を避けるため、ブドウ糖含有輸液への切り替えタイミングが重要
腎機能低下患者の脱水治療 🏥
- カリウム含有輸液の使用制限
- **4号液(術後回復液)**の選択が安全
- 尿量や血清クレアチニン値の厳密なモニタリングが必須
心不全合併患者の輸液管理 ❤️
- 過度の輸液による循環負荷のリスク
- 中心静脈圧(CVP)や肺動脈楔入圧の監視下での慎重な投与
- 利尿薬との併用による水分バランス調整
モニタリング項目と頻度。
重要なモニタリング項目は以下の通りです。
- バイタルサイン:血圧、心拍数、呼吸数(15分毎)
- 尿量:時間尿量50mL/h以上を維持目標
- 血液検査:Na、K、Cl、BUN、Cr(4-6時間毎)
- 体重変化:1日2回測定で水分バランス評価
- 皮膚ツルゴール:脱水改善の臨床的指標
意外な事実として、経口補水療法(ORS)は軽度から中等度の脱水に対して点滴と同等の効果があることが研究で示されています。WHOも推奨する治療法で、胃腸管機能が保たれている場合は点滴よりも生理的で安全な選択肢となります。
特に高齢者では、脱水の初期症状が分かりにくく、転倒や認知機能低下として現れることがあるため、日常的な水分摂取量の確認と予防的なアプローチが重要です。
ナース専科の輸液製剤の詳細な使い分けガイド