あなたが今のやり方を続けると、3年で院内VTE関連クレームが2件増えるリスクがあります。
jsth(https://www.jsth.org/wordpress/438-2/)
m3(https://www.m3.com/clinical/news/1333459)
webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15106/j_seikei68_1320)
日本血栓止血学会の静脈血栓塞栓症予防ガイドラインは、日本人成人入院患者の一次予防に特化して策定されています。低リスクから高リスクまで3~4段階のリスクレベルに分け、それぞれで下腿DVT率、中枢型DVT率、症候性肺塞栓症(PE)、致死性PEの推定発生率が明示されています。たとえば低リスクでは下腿DVT2%、致死性PE0.002%とされ、これは「1000人入院しても致死性PEは1~2人レベル」とイメージできます。中リスクでは症候性PE1~2%、高リスクでは2~4%と数字が跳ね上がるため、院内全体で見ると「病棟ひとつ分で1人以上発症し得る」頻度です。数字を見ると、感覚以上にリスク勾配が急ということですね。 jsth(https://www.jsth.org/wordpress/438-2/)
実務面では、低リスクには早期離床単独、中リスクには弾性ストッキング(ES)か間欠的空気圧迫(IPC)、高リスクではIPCか低用量未分画ヘパリン(UFH)が推奨されています。ここでポイントなのは、日本では低分子量ヘパリン(LMWH)がDVT・PE治療や再発予防の保険適用を持たないため、諸外国と異なり「UFH+機械的予防」が主軸となりやすいことです。この違いを理解せずに海外ガイドラインのスライドだけを真似すると、「LMWHを前提としたプロトコル」を日本でそのまま運用しようとして、結局何も整わないといった齟齬が生じます。つまり国内ガイドラインを基準に院内プロトコルを組むのが条件です。 m3(https://www.m3.com/clinical/news/1333459)
日本血栓止血学会 VTE予防ガイドライン本文の詳細(リスク分類表・推奨度・エビデンスレベルの原典)
日本血栓止血学会:静脈血栓塞栓症予防ガイドライン
整形外科や多発外傷の領域では、「日本整形外科学会 症候性静脈血栓塞栓症予防ガイドライン2017」が、2008年版の単純改訂ではなく、構成から大きく見直されていると指摘されています。これは、10年近い間に国内外で蓄積されたエビデンスや、術式・麻酔の変化、高齢患者の増加により、旧ガイドラインの前提が現状に合わなくなっていたためです。たとえば人工膝関節全置換術(TKA)や人工股関節全置換術(THA)では、VTEリスクが「手術をしない高齢者」と比べて何倍も跳ね上がることが知られています。東京ドームの観客数5万人に当てはめれば、術後患者だけを集めたスタンドでは、数十人レベルでDVTが発生し得るイメージです。かなりシビアな領域ということですね。 webview.isho(https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.15106/j_seikei68_1320)
多発外傷症例では、Injury Severity Score(ISS)9点以上といった重症例を対象としたVTE評価の研究があり、ISS9点未満や外傷後5日以内の死亡・退院例などは除外されています。このような設定からも、ガイドラインや研究が想定する「予防を本気で考えるべき重症度」が見えてきます。一方で、造影剤アレルギーや腎不全(血清Cr3.4mg/dL以上)、下肢重度外傷などで静脈造影が困難な患者も除外基準に含まれ、画像診断の限界が示されています。術後・外傷後の「画像では追えない部分」をどう補うかが課題です。つまりハイリスク例ではスコアリングや超音波サーベイの活用が原則です。 ych.pref.yamanashi(https://www.ych.pref.yamanashi.jp/images/ych/iryokankei/files/msgr0057_20131125_01.pdf)
リスクが高い整形外科・外傷患者では、機械的予防と薬物療法の併用が重要ですが、日本ではやはりLMWHが使えないことから、UFHや直接経口抗凝固薬(DOAC)などの選択が中心になります。ここで院内でよくあるのは、「転倒リスクが怖いので薬物予防は控える」といった判断が漫然と続くことです。転倒→頭蓋内出血のインパクトは大きいものの、高リスクTHA/TKA患者でのVTE発症は「歩行開始から退院後数週間」がピークとなり、むしろ在宅での致死的PEが問題になります。こうした背景を踏まえると、電子カルテ上に「術式別標準プロトコル」をあらかじめ組んでおき、主治医は「適応あり/なし」のチェックをするだけにしておく運用が合理的です。結論は院内プロトコルの標準化です。 jsth(https://www.jsth.org/wordpress/438-2/)
整形外科領域のVTE予防ガイドライン改訂の趣旨やポイントを解説した専門記事
医書.jp:日本整形外科学会 症候性静脈血栓塞栓症予防ガイドライン2017解説
日本循環器学会ガイドライン改訂におけるVTE・COVID-19関連記載の詳細
VTE予防を考えるうえで見落とされがちなのが、ホルモン療法・経口避妊薬との関係です。2025年4月の厚生労働省 薬事審議会の議事録では、プロゲスチン単剤の経口避妊薬について、WHOのPOPガイドラインの位置づけが議論されています。この中で、抗凝固療法を受けているDVT・PE患者では「ベネフィットがリスクを上回るカテゴリーII」とされる一方、未治療のDVT・PE急性期患者では「リスクがベネフィットを上回るカテゴリーIII」とされることが示されました。つまり、DVT・PEの患者に対しては、避妊薬よりも静脈血栓塞栓症の治療を優先すべきとされています。避妊薬とVTEのバランス調整が肝心です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70871.html)
現場では、若年女性でVTEを発症した際、「経口避妊薬はすべて即中止」といった一律対応を取りがちですが、抗凝固療法下でのPOP使用はガイドライン上必ずしも禁忌ではありません。逆に、未治療の急性期に「症状が落ち着いたから」と自己判断で避妊薬を再開されると、再発リスクが増大しうるというメッセージでもあります。このあたりは、婦人科・循環器内科・血液内科が連携して患者教育を行い、「どのタイミングで避妊薬を再開してよいか」「どんな種類なら比較的安全か」を一枚の説明用紙に落とし込んでおくと、クレーム予防にも直結します。患者教育シートだけ覚えておけばOKです。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70871.html)
また、ホルモン補充療法(HRT)や性別違和(トランスジェンダー)のホルモン療法でも、VTEリスクが注目されています。ここでは日本のガイドラインよりも海外データの比重が大きくなりますが、「肥満・喫煙・高血圧・既往VTE」といった古典的リスク因子の積み上がりが、ホルモン療法によるリスク増加をさらに増幅することが知られています。体重が10kg増えるごとにリスクがどれだけ増えるか、といった数字は患者説明にも活用しやすく、「今の体重をキープするだけでもVTE予防になる」ことを具体的に伝えやすくなります。ホルモン関連VTEでは生活指導が必須です。 mhlw.go(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70871.html)
厚生労働省 薬事審議会でのプロゲスチン単剤避妊薬とDVT/PEに関する議論の詳細
厚生労働省:2025年4月25日 薬事審議会 医薬品第一部会 議事録
この問題への現実的な解決策としては、以下のような運用が考えられます。まず、入院時に看護師が簡易スコア(年齢・既往歴・悪性腫瘍・麻痺・肥満など)を入力し、リスクレベルを自動表示するようにします。次に、手術オーダーや化学療法オーダーが入るタイミングで、「VTE再評価フラグ」を自動で立てる仕組みを組み込むことで、主治医に再評価を促します。さらに、退院サマリーには「入院中の最大リスクレベル」と「選択した予防法」を必須項目として記録し、後方視的な院内監査に使えるようにしておくと、数年スパンでのアウトカム改善やクレーム減少にもつながります。VTE予防はシステム設計次第ということですね。 jsth(https://www.jsth.org/wordpress/438-2/)
加えて、精神科病棟や療養病棟のように「医療行為は少ないが長期臥床が多い」領域では、静脈血栓塞栓症予防指針の第2版で、国内の実態調査とともにリスク再評価が行われています。ここでは、向精神薬や身体拘束、低活動状態などがVTEリスクとして取り上げられ、「一般病院以上に見えにくいVTE」が問題化しています。こうした病棟では、週1回の病棟回診時に「歩行距離チェック」「下腿周囲径の左右差チェック」をルーチン化し、異常を認めた場合にだけエコーなどの検査に進む2段階方式が現実的です。リソースを集中させるにはこの考え方が有効です。 seiwa-pb.co(https://www.seiwa-pb.co.jp/search/bo05/bn1093.html)
精神科医療におけるVTE予防と院内実態調査を含む静脈血栓塞栓症予防指針
星和書店:静脈血栓塞栓症予防指針[改訂第2版]