FRAXスコアが高くても、実際には治療不要なケースが約4割存在します。
FRAX(Fracture Risk Assessment Tool)は、WHO(世界保健機関)が2008年に公開した骨折リスク評価ツールです。10年間における主要骨粗鬆症性骨折(椎体・前腕・上腕・大腿骨近位部)の発生確率と、大腿骨近位部骨折単独の発生確率を、それぞれパーセンテージで算出します。
計算に使われるリスク因子は以下の12項目です。
重要なのは、BMDの入力は必須ではないという点です。つまり、DXA測定ができない環境でも計算可能です。これは現場での使い勝手が高い理由の一つですね。
各リスク因子はロジスティック回帰モデルに組み込まれ、各国の骨折疫学データと死亡率データを組み合わせてリスクが算出されます。日本版FRAXは日本人の骨折発生率・死亡率データに基づいて校正されているため、他国版と数値が異なる場合があります。
つまり「日本版FRAX」を使うことが原則です。
BMDなしのFRAXとBMDありのFRAXは、どれほど結果が変わるのでしょうか?
臨床研究では、大腿骨頸部BMDを追加することで、骨折リスクの識別能(AUC)が約5〜10%向上することが示されています。特にBMIが低い高齢女性では、BMDなし計算式がリスクを過小評価しやすい傾向があります。
一方で、BMDを入力した場合でも、T-scoreが-2.5以下(骨粗鬆症域)であれば主要骨折リスクは大幅に上昇します。例えば70歳日本人女性でT-score -2.5の場合、主要骨折の10年リスクは約20〜25%に達することがあります。これは介入閾値を上回る値です。
BMDなしでも日常診療での一次スクリーニングとして活用できます。
| 条件 | 主要骨折リスク(例:70歳女性) | 用途 |
|---|---|---|
| BMDなし | 約10〜14% | 一次スクリーニング |
| BMD T-score -1.0 | 約13〜17% | 精密評価 |
| BMD T-score -2.5 | 約20〜26% | 治療判断根拠 |
BMDありの方が精度は高いです。ただし、FRAXが唯一の判断根拠になるわけではなく、臨床所見や転倒リスクと組み合わせることが前提です。これだけ覚えておけばOKです。
日本骨粗鬆症学会 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版(PDF)
FRAXには構造的な限界があります。見落とすと診断精度が落ちます。
現行のFRAX計算式が十分に反映できていない因子として、以下が挙げられています。
特にグルココルチコイドについては、日本骨粗鬆症学会ガイドラインで補正方法が示されています。経口ステロイドをPSL換算で7.5mg/日以上使用している場合、FRAXで算出された主要骨折リスクに1.15倍、大腿骨骨折リスクに1.20倍を乗じる補正が推奨されています。
補正は面倒ですが、見落としは大きなリスクにつながります。
また、2型糖尿病患者では骨密度が正常範囲でも骨折リスクが1.5〜2倍高いとされており、FRAXを使う場合はBMIが高め(≧25)のためにリスクが過小評価されやすい点にも注意が必要です。こうした患者では臨床的判断でFRAXスコアに補正を加えることが、骨粗鬆症の専門学会からも提唱されています。
FRAXの数値をどう治療に結びつけるかが、実臨床での核心です。
日本骨粗鬆症学会(JSBMR)が定める介入閾値は以下の通りです。
| 評価項目 | 介入を考慮する閾値 |
|---|---|
| 主要骨粗鬆症性骨折(10年リスク) | 15%以上 |
| 大腿骨近位部骨折(10年リスク) | 3%以上(米国NOF基準)/日本では参考値として使用 |
日本では主要骨折リスク15%が一つの目安です。
ただし、この閾値はあくまで「治療を考慮する」水準であり、FRAXスコアだけで処方を決定することは適切ではありません。例えば、リスクが14%でも脆弱性骨折の既往があれば積極的治療の対象となります。逆に、16%でも患者のアドヒアランスや腎機能・消化管リスクを踏まえれば治療薬の選択が変わります。
実際には「FRAXスコア+臨床判断」が基本です。
また、骨粗鬆症診断の3つのルート(①骨密度基準②脆弱性骨折③FRAXによるリスク評価)のうち、FRAX単独での診断確定はできない点も重要です。FRAXはスクリーニングと治療優先度づけのツールと位置づけるのが正確な理解です。
FRAXにBMDを加えるだけでなく、TBS(Trabecular Bone Score:海綿骨構造スコア)との組み合わせが注目されています。意外な視点ですね。
TBSはDXAの腰椎画像データから算出される骨梁の質の指標で、骨密度が正常でも骨質が低下している患者(糖尿病、ステロイド使用者など)のリスクを補完できます。FRAXとTBSを統合した「FRAX-TBS補正モデル」では、通常のFRAXよりも骨折予測精度が有意に向上することが複数のコホート研究で示されています。
TBSは骨密度とは独立した予測因子です。
具体的には、TBS値が1.230未満(骨梁構造の劣化)の患者では、FRAXスコアにTBSによる補正係数を乗じてリスクを上方修正します。この補正はFRAX公式サイト上でも「TBS iNsight」ソフトウェアとの連携で実施可能です。
日本の骨粗鬆症診療においてTBSの普及はまだ途上にありますが、特に2型糖尿病・ステロイド長期使用患者の管理においては、TBSを活用したFRAX補正が見落とされがちなリスクを捉える有効な手段となります。骨折リスク評価の精度を一段上げたい場合は、TBSの導入を検討する価値があります。