附子1.0gでも誤証投与すると、30分以内に動悸・舌しびれが起きることがあります。
附子理中湯は、ツムラの医療用漢方エキス製剤には収載がなく、三和生薬の410番として流通しています。 生薬構成は人参3.0g・甘草3.0g・白朮3.0g・乾姜3.0g・附子1.0gで、人参湯(別名:理中湯)に附子を1.0g加えた処方です。
参考)【漢方:410番】附子理中湯(ぶしりちゅうとう)の効果や副作…
用法・用量は成人1日4.5gを3回分割で食前または食間経口投与とされています。 つまり1回1.5gが標準量です。
参考)http://www.sanwashoyaku.co.jp/products/upload_docs/%E9%99%84%E5%AD%90%E7%90%86%E4%B8%AD%E6%B9%AF.pdf
効能・効果は「胃腸虚弱で血色悪く、顔に生気なく、尿量多く手足に冷感あり、下痢の傾向あり、しばしばはき気、めまい、頭重、胃痛をうったえるものの諸症:慢性の胃腸カタル、胃アトニー症」です。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=46749
| 構成生薬 | 用量 | 主な働き |
|---|---|---|
| 人参 | 3.0g | 利水健脾・気の補充 |
| 白朮 | 3.0g | 利水健脾・水分代謝 |
| 乾姜 | 3.0g | 温裏・胃腸を温める |
| 甘草 | 3.0g | 緩和・調和 |
| 附子 | 1.0g | 温裏・強力な温陽 |
本処方の要となる適応患者像は、全体から「生気がない」印象を受けるものです。 具体的には、青白い顔色、尿が水様透明で量が多い、口の中にうすいツバがたまる、腹証での腹力の弱さがキーポイントです。
参考)健康情報: 附子理中湯(ぶしりちゅうとう&#6…
四肢厥冷(四逆)まで進んだ裏寒が本処方の核心適応です。 手首・足首まで冷えが及ぶ、顔の中心部が青黒い等の所見が強い場合は、人参湯ではなく附子理中湯を選択します。
食欲の有無も重要な鑑別指標です。 脾胃虚弱が甚だしく食欲が消失している患者が本処方の対象で、まだ食欲が残っている場合は真武湯等の選択を検討します。
附子理中湯は、医療用漢方エキス製剤の中で四逆湯の代わりができる唯一の処方とも言われます。 裏寒が甚だしい場合、真っ先に想起すべき処方です。
附子の主要成分「アコニチン」は、細胞膜のナトリウムチャネルに作用して神経細胞の機能不全をもたらします。 その結果、動悸・のぼせ・舌のしびれ・吐き気などの中毒症状が現れます。
参考)https://www.qlife-kampo.jp/study/effect/story276.html
附子中毒は服用後30分前後で起きることがあります。 厳しいですね。
中毒をきたしやすい条件として以下が挙げられています。
エキス製剤に含まれる附子はすべて滅毒(減毒)処理済みです。 通常量で使用していれば中毒の心配は低いとされますが、体力充実・赤ら顔・のぼせが強いなどの実証・熱証の患者に誤投与した場合には、附子1.0gの量でも中毒症状が出現する可能性があります。pins.japic+1
重大な副作用としてアナフィラキシー・偽アルドステロン症が報告されています。 偽アルドステロン症は、甘草3.0gの配合量に起因し、利尿剤との併用でカリウム排泄促進が加速されるため特に注意が必要です。kegg+1
高齢者は生理機能が低下しているため、減量等の注意が必要です。 これが原則です。
附子を含む他の漢方薬との重複投与は禁忌に準ずる対応が必要です。 同一患者が八味地黄丸などの附子含有製剤をすでに服用中の場合は、附子の総量を必ずチェックしてください。
参考)桂枝加朮附湯(ケイシカジュツブトウ):ツムラ18番の効能・効…
参考:附子(ぶし)の副作用・作用機序について詳しい解説はこちら。
附子理中湯の鑑別対象は主に人参湯・真武湯・桂枝人参湯の3処方です。 鑑別を誤ると証に反した投与となり、副作用リスクが高まります。
| 処方名 | 裏寒の程度 | 食欲 | 水滞 | 特徴的な所見 |
|---|---|---|---|---|
| 附子理中湯 | 甚だしい(四逆) | 消失 | なし | 手首足首まで冷え・顔中心が青黒い |
| 人参湯(32番) | 中等度 | やや低下 | なし | みぞおちのつかえ・水様下痢 |
| 真武湯(30番) | 甚だしい | あり | あり | 浮腫・心不全徴候・芍薬証 |
| 桂枝人参湯(82番) | 中等度 | やや低下 | なし | 裏寒+表の症状(頭痛・発熱) |
人参湯との最大の違いは附子の有無です。 四逆状態まで進んでいるかどうかが、附子理中湯を選択する最大の判断基準です。
真武湯との鑑別は「芍薬の有無=食欲の有無」で覚えるのが実践的です。 真武湯は芍薬を含むため多少胃腸に重く、脾虚が甚だしい患者には不向きです。
桂枝人参湯との違いは「温める方向」にあります。 桂枝は裏のエネルギーを表に回す生薬であるため、表の症状(頭痛・軽度の発熱など)が併存する場合に選択します。附子理中湯はひたすら裏(内部)を温める処方です。これだけ覚えておけばOKです。
附子理中湯は一般的に「冷え・下痢の薬」と認識されがちですが、実際には緩和ケア・老年医学領域での末期・衰弱患者のQOL改善においても注目されています。 西洋医学的に「治すものがない」とされた慢性消耗性疾患・老衰に近い状態でも、附子理中湯の「生気の回復」という作用が臨床で観察されています。
薬学的管理で見落とされやすいのが、甘草3.0gという配合量の高さです。 一般的に甘草の1日量が2.5gを超えると偽アルドステロン症のリスクが高まるとされており、本処方の3.0gは基準を超えています。利尿剤・グリチルリチン製剤との併用患者では、定期的な血清カリウム値のモニタリングが必要です。
参考)医療用医薬品 : 附子理中湯 (三和附子理中湯エキス細粒)
また、乾姜と人参の組み合わせも浮腫の原因になりえます。 これは意外ですね。甘草による偽アルドステロン症と、乾姜・人参による浮腫は別メカニズムであるため、両方を念頭に置いた観察が求められます。
処方変更時(例:人参湯→附子理中湯)には、附子量の変化によるアコニチン中毒リスクが高まります。 変更後2週間は特に患者の口唇・舌のしびれ、動悸の有無を確認するよう服薬指導に加えることが推奨されます。
以下の参考資料は、附子を含む漢方薬の薬学的管理・リスク区分を確認するために有用です。
PMDA 附子理中湯 添付文書(EK-410)
和漢医薬学会:附子中毒33症例の検討(副作用事例の実態)