少量投与でも、あなたが想定している以上の頻度で偽アルドステロン症が起きています。
グリチルリチン製剤を代表する2剤は、同じ「グリチルリチン酸」を主成分としながらも、正式な一般名(製剤名)は異なります。それぞれを正確に把握しておくことが、処方箋業務や疑義照会の際の基本になります。
強力ネオミノファーゲンシー(SNMC)の一般名は「グリチルリチン酸一アンモニウム・グリシン・L-システイン配合注射剤」です。 欧文一般名では「Monoammonium Glycyrrhizinate Glycine L-Cysteine」と表記されます。 主成分はグリチルリチン酸(グリチルリチン酸一アンモニウムとして)、グリシン、L-システインの3成分です。kegg+1
グリチロン配合錠の一般名は「グリチルリチン・グリシン・DL-メチオニン配合剤錠」です。 ケアネットの医薬品データベースでもこの表記が正式名称として登録されています。 注射剤がL-システインを含むのに対し、経口剤はDL-メチオニンを含む点が構造上の大きな違いです。eapharma.co+2
つまり「一般名はグリチルリチン酸です」という一言で済む話ではありません。 製剤として流通する際は複数成分の複合表記が正式であり、添付文書や処方箋でこの正式名称を確認する習慣が大切です。miraio+1
| 製品名 | 剤形 | 一般名(製剤名) | 主な配合成分 |
|---|---|---|---|
| 強力ネオミノファーゲンシー(SNMC) | 注射剤 | グリチルリチン酸一アンモニウム・グリシン・L-システイン配合注射剤 | グリチルリチン酸一アンモニウム、グリシン、L-システイン |
| グリチロン配合錠 | 錠剤 | グリチルリチン・グリシン・DL-メチオニン配合剤錠 | グリチルリチン酸一アンモニウム、グリシン、DL-メチオニン |
グリチルリチン酸は、カンゾウ(甘草)の根に含まれるトリテルペノイド系サポニンの一種です。 化学的には、グリチルリチン酸本体に2分子のグルクロン酸が結合した構造を持ちます。 分子式はC₄₂H₆₁O₁₆NH₄(アンモニウム塩として)、分子量は839.96です。webview.isho+1
肝保護作用の主な仕組みは、11β-水酸化ステロイド脱水素酵素(11β-HSD2)の阻害にあります。 コルチゾールの代謝を抑制することで抗炎症・免疫調節作用を発揮し、肝細胞の破壊を抑止します。 慢性肝炎患者に投与すると、ほぼ用量依存的にトランスアミナーゼ(GOT・GPT)を低下させることが広く確認されています。jsn+3
抗アレルギー作用も重要な特性です。 一般用点眼薬の有効成分「グリチルリチン酸二カリウム」がアレルギー性結膜炎の持続的炎症を抑える作用を持つことが研究で明らかにされており、即時型炎症とは異なる作用点が注目されています。 医療用製剤でも皮膚疾患(湿疹・皮膚炎、円形脱毛症)への適応があるのはこの抗アレルギー作用に基づきます。clinicalsup+1
これは作用機序が複数あるということですね。 肝庇護薬としての側面と皮膚科・アレルギー科での使用を兼ねている点は、処方を確認する際にも役立ちます。
参考)「強力ネオミノファーゲンシー®」「グリチロン®配合錠」販売移…
偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)は、グリチルリチン製剤の代表的かつ注意が必要な副作用です。 アルドステロン自体の分泌量は増加していないにもかかわらず、低カリウム血症・高血圧・浮腫・脱力感・筋力低下などアルドステロン過剰と同様の症状が出現します。pmda+1
重要なのは発症閾値です。かつては「大量投与で起きる」という認識が一般的でしたが、グリチルリチン酸150mg/日以下の比較的少量投与での発症例が近年多数確認されています。 カンゾウ含有量が2.5g(グリチルリチン酸100mg相当)を超えると低カリウム血症を発現しやすくなるとされています。 甘草を含む漢方薬と他の医薬品を併用している患者では、気づかないうちに合計摂取量が増えているケースも珍しくありません。mhlw.go+3
重篤化した症例も報告されています。静注グリチルリチン製剤による低カリウム血症から心室細動をきたした偽性アルドステロン症の症例が報告されており、 また過去にはジギタリス製剤との併用で低カリウム血症が誘引した心不全死亡例もあります。 高齢者・高CPK血症・心電図異常を伴う場合は急速に重篤化するリスクが高い点に注意が必要です。min-iren+2
低カリウム血症への注意が最重要です。 厚生労働省の通知でも、アルドステロン症患者・ミオパチーのある患者・低カリウム血症のある患者への投与は禁忌とされており、定期的な血清カリウム値の測定が求められています。
参考)エラー
「注射でも経口でも副作用リスクは同じ」と考えるのは誤りです。これが意外なポイントです。
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/10/dl/s1019-4d9.pdf
注射製剤では、グリチルリチン酸が腸管内でグリチルレチン酸(GA)に変換されにくいため、内服製剤と比べて偽アルドステロン症が起きにくいとされています。 腸内細菌によるGAへの代謝が主要な発症メカニズムの一つであり、静注では腸管を通過しないためこの変換が起きにくいという機序です。 また注射製剤に含まれるグリシンや含硫アミノ酸(L-システイン)が、グリチルリチン酸の電解質代謝作用を弱める働きをするという指摘もあります。
経口製剤(グリチロン配合錠)は1回2〜3錠を1日3回投与が標準用量であり、 長期投与では継続的にカリウム排泄が促進される点に注意が必要です。 高齢者には特に慎重な経過観察が必要です。clinicalsup+1
利尿薬との相互作用も見逃せません。ループ利尿薬(フロセミドなど)やチアジド系利尿薬と併用すると、カリウム排泄作用が増強され血清カリウム値が低下しやすくなります。 さらにモキシフロキサシン塩酸塩との併用では、低カリウム血症によってQT延長や心室性頻拍(Torsade de pointes)のリスクが高まることが添付文書に記載されています。
参考)医療用医薬品 : ネオファーゲン (ネオファーゲン静注20m…
薬剤の組み合わせが条件です。 複数の医薬品を処方する際は、グリチルリチン製剤が処方薬や市販薬・漢方薬を通じて重複投与になっていないか、オーダー時点で確認するフローを設けることが安全管理につながります。
グリチルリチン酸は医療用製剤だけに限らず、市販の風邪薬・鼻炎薬・胃腸薬・目薬など幅広いOTC医薬品にも配合されています。 さらにカンゾウを含む漢方薬の多くにもグリチルリチン酸が含まれており、患者が複数のルートから摂取しているケースが実臨床でよく見られます。miraio+1
重複摂取が問題になる理由は、患者自身が「漢方薬は自然のものだから別」「市販の目薬は薬ではない」と捉えて、問診で申告しないことが多いからです。 処方箋受付時や外来問診で「市販薬・漢方薬・目薬を使っていますか」と明示的に確認することが、偽アルドステロン症予防の第一歩になります。mhlw.go+1
類似薬名による取り違えにも注意が必要です。 PMDAの報告では、販売名の一部が省略された場合に他の製剤と混同されるリスクが指摘されており、 グリチルリチン酸製剤でも一般名の確認を怠ると、グリチルリチン酸一アンモニウム(SNMC)とグリチルリチン酸二カリウム(OTC製剤に多い)を誤認するリスクがあります。rikunabi-yakuzaishi+2
一般名の確認が原則です。 「グリチルリチン酸」の化合物形態(一アンモニウム・二カリウム・モノアンモニウムなど)を正確に把握し、特に電子処方箋や薬剤情報提供文書では正式な一般名を記載することで、安全管理の精度が高まります。
参考)https://www.pmda.go.jp/files/000272091.pdf
参考リンク(慢性肝疾患患者への投与注意事項・禁忌・相互作用の詳細)。
厚生労働省:グリチルリチン酸等を含有する医薬品の取扱いについて(薬発第158号)
参考リンク(偽アルドステロン症の症状・発症メカニズム・治療の詳細)。
PMDA:重篤副作用疾患別対応マニュアル「偽アルドステロン症」患者向け・医療従事者向け資料
参考リンク(グリチルリチン製剤内服中に著明な低カリウム血症を呈した5例の臨床的検討)。
日本腎臓学会誌:グリチルリチン製剤内服中に著明な低カリウム血症を呈した5例の検討(PDF)