血液学の基礎知識と診断法

血液学は赤血球、白血球、血小板の構成要素から血液疾患の診断治療まで幅広い医学分野です。診断法や治療法の進歩により、かつて不治の病とされた白血病なども根治可能となってきました。血液学の基礎から最新治療まで、どのように理解すべきでしょうか?

血液学と診断法

血液学の概要
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血液の基本構成

赤血球、白血球、血小板の血球成分と血漿から構成される体循環システム

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診断技術の進歩

自動血球分析装置と血液像検査による精密な病態評価

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治療の発展

造血幹細胞移植と分子標的療法による根治療法の実現

血液学の血球成分と機能

血液学における基本要素は、赤血球、白血球、血小板の3つの血球成分から成り立っています 。赤血球は全身への酸素運搬を担い、血液1μL中に男性で400-539×10⁴個、女性で360-489×10⁴個存在し、約120日の寿命を持っています 。
参考)https://www.behealth.jp/column-ketsuekikensa-kekkanomikata/

 

白血球は体内の免疫防御システムの中核を担い、血液1μL中に4,000-9,000個程度存在します 。顆粒球、単球、リンパ球の3種類に分類され、それぞれが貪食作用と免疫作用という重要な役割を果たしています 。T細胞、B細胞、NK細胞などのリンパ球は、細胞性免疫と液性免疫を担当し、病原体の排除に重要な機能を発揮します 。
参考)http://www.ketsukyo.or.jp/blood/blo_01.html

 

血小板は血液1μL中に15-40万個存在し、止血機能を担う重要な血球成分です 。血小板は細胞ではなく粒子であり、赤血球約20個に対して1個の割合で存在し、出血時の凝固反応において中心的な役割を果たします 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/13-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%81%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%81%AE%E6%A7%8B%E6%88%90%E8%A6%81%E7%B4%A0

 

血液学的検査による診断法

血液学的検査は、赤血球、白血球、血小板の数や形態を調べ、炎症や貧血、血液疾患の有無を診断する重要な検査法です 。現代の血液学検査では、自動血球分析装置によるCBC(Complete Blood Count)検査が中心となっており、コールター原理を基盤とした精密な測定が可能になっています 。
参考)https://www.beckmancoulter.co.jp/dx/product/hematology/

 

血液像検査では、血液塗抹標本を顕微鏡で観察し、白血球の分類(好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球)や細胞形態の異常を詳細に評価します 。特に好中球パラメーター(NE-WY、NE-SFL等)の解析により、敗血症などの重篤な感染症の早期診断が可能となっています 。
参考)https://www.riasbt.jp/pages/116/

 

血液学検査の基本項目には、血色素量(ヘモグロビン)、ヘマトクリット値、平均赤血球容積(MCV)、平均赤血球血色素量(MCH)、平均赤血球血色素濃度(MCHC)などがあり、これらの数値から貧血の種類や重症度を判定できます 。
参考)https://www.c-takinogawa.jp/outpatient/value/anemia.html

 

血液疾患の分類と診断

血液学における疾患は大きく造血器悪性腫瘍と非悪性血液疾患に分類されます。造血器悪性腫瘍には、急性白血病、慢性白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などが含まれます 。悪性リンパ腫は主にリンパ節やリンパ組織に発症し、リンパ球のがん化により異常増殖する疾患です 。
参考)https://www.jichi.ac.jp/usr/hema/about.html

 

白血病は骨髄内の白血球ががん化する疾患で、急性型では血液中に花びら様の異常リンパ球が多数出現し、急速に進行する特徴があります 。成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)では、急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型、予後不良因子を有するくすぶり型の5つの病型に分類されます 。
参考)https://www.uwajima-mh.jp/cancer/03info/index19b.html

 

非悪性血液疾患には、各種貧血(鉄欠乏性貧血巨赤芽球性貧血、再生不良性貧血等)、血小板減少症、凝固線溶系疾患などが含まれます 。鉄欠乏性貧血は最も頻度の高い貧血で、ヘモグロビン濃度の低下(男性13.0g/dl未満、女性12.1g/dl未満)により診断されます 。

血液学における造血システム

造血は主に骨髄で行われ、造血幹細胞から全ての血球が分化・成熟していくシステムです 。骨髄中の幹細胞は未分化の多能性細胞で、分裂により未成熟な赤血球、白血球、血小板産生細胞となり、最終的に成熟した血球になります 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/home/13-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%81%AE%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%AD%A6/%E8%A1%80%E7%90%83%E3%81%AE%E5%BD%A2%E6%88%90

 

造血の調節は体の需要に応じて精密にコントロールされています。酸素不足や赤血球減少時には腎臓からエリスロポエチンが分泌され、骨髄の赤血球産生を促進します 。感染時には骨髄が白血球産生を増加させ、出血時には血小板産生が亢進するなど、恒常性維持機構が働いています 。
白血球のうちT細胞とB細胞は骨髄以外にリンパ節や脾臓でも産生され、T細胞の一部は胸腺で成熟します 。この複雑な造血システムの理解は、血液疾患の病態解明と治療法開発において極めて重要です 。
参考)https://www.med.oita-u.ac.jp/syuyou/custom8.html

 

血液学治療法の進歩と造血細胞移植

血液学領域では治療法が劇的に進歩し、かつて不治の病とされた白血病なども根治可能な疾患となっています 。化学療法、分子標的療法、免疫療法の発展により、個々の患者に最適化された治療戦略の構築が可能になりました 。
参考)https://www.twmu.ac.jp/univ/graduate/medical/field/detail.php?id=04008

 

造血幹細胞移植は難治性血液疾患に対する根治的治療法として確立されています 。自家移植では患者自身の造血幹細胞を使用し、悪性リンパ腫や多発性骨髄腫の治療に用いられます 。同種移植では他人の造血幹細胞を使用し、白血病患者によく適応されます 。
参考)https://www.gan.med.kyushu-u.ac.jp/result/hematological_malignancies/index6

 

移植前処置として大量化学療法や全身放射線照射を行い、患者の腫瘍細胞と免疫細胞を減少させた後、造血幹細胞を静脈内投与します 。移植された造血幹細胞は自然に骨髄に到達し、そこで造血を開始して正常な血液細胞の産生を回復させます 。
参考)https://yuketsu.jstmct.or.jp/general/cell_therapy/

 

近年では遺伝子治療も実用化されており、2022年に血友病AとBに対するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子治療薬が承認されました 。この治療により約9割の患者で凝固因子製剤の投与が不要となり、出血回数も著明に減少する画期的な成果が得られています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/browse/rinketsu/66/6/_contents/-char/ja