犬咬傷で「抗生剤は何日?」と聞かれたとき、まず区別すべきは“感染が成立していない汚染創”に対する予防投与か、“感染が成立した創感染”に対する治療投与かです。[]
予防投与は、すべての犬咬傷に機械的に出すより、「感染リスクが高い条件」を満たすときに短期で行う、という設計が基本になります。[page:1]
予防投与の日数は、海外の推奨としてアモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA)を1日2回で3〜5日とされ、国内資料でも高リスク創に対して短期(例:3日)での設計例が示されています。[page:1]
臨床的には「3日で十分か/5日必要か」は、創の深さ・部位・遅れて受診したか・縫合したか等で“上振れ”しやすいので、短期の範囲内で患者背景に合わせて決めるのが安全です。[page:1]
予防投与を検討しやすい状況(現場でのチェックリスト)
ここで重要なのは、抗生剤日数の議論以前に「洗浄が不十分だと短期予防投与では埋めにくいリスクが残る」点です。[page:1]
犬咬傷は“唾液に由来する複数菌感染”を想定するため、AMPC/CVAが中心になりやすい、という整理も患者説明に役立ちます。[page:1]
手の犬咬傷は、皮膚表面が小さく見えても腱鞘・関節包・骨膜近傍に到達していることがあり、感染が成立すると治療が長引きやすい部位です。[page:1]
このため、同じ「犬咬傷」でも、手は予防投与を積極的に考える場面が増えます。[page:1]
抗菌薬選択は「犬口腔内の常在菌+皮膚常在菌+嫌気性菌」をまとめてカバーする発想になります。[page:1]
資料では、想定菌としてPasteurella属、Capnocytophaga属、Staphylococcus aureus、嫌気性菌(Bacteroides属、Fusobacterium属など)が挙げられています。[page:1]
現場で説明しやすい“処方の型”
また、手の咬傷では「関節・腱・骨の関与が疑わしい」「可動域制限や強い痛みがある」など、外科的評価が優先されることがあり、抗生剤日数は“外科的介入+所見改善”に合わせて変動しやすい点も実務上の落とし穴です。[page:1]
抗生剤で安心してしまい、洗浄・デブリドマン・必要な画像評価が遅れることの方が、結果的に“何日”問題を難しくします。[page:1]
発赤の拡大、熱感、腫脹、膿、疼痛増悪、発熱など「感染が成立している」場合は、予防投与の3〜5日ではなく、臨床反応を見ながら治療投与として設計し直します。[]
救急の実務整理として、すでに感染を認める場合は「1週間前後、創部所見が改善するまで継続」という目安が示されています。[]
一方で、重症化リスクや全身症状がある場合は、軽症〜中等症で静注アンピシリン/スルバクタム、重症ならタゾバクタム/ピペラシリンやカルバペネム系を含む広域で開始し、同定後にde-escalationする方針が提示されています。[page:1]
この“開始は広く、判明したら狭く”という抗菌薬適正使用の原則は、動物咬傷でも例外ではありません。[page:1]
感染の治療投与で「何日」を決めるときの実務ポイント
治療期間は、最終的には「炎症所見が明らかに改善し、再燃しない」ことをゴールに調整します。[]
そのため患者説明では「最初から固定日数を断言しない」ほうが、再診や悪化時受診につなげやすいです。[]
犬咬傷対応は抗生剤だけで完結せず、破傷風と狂犬病のリスク評価がセットになります。[page:1]
資料では、咬傷対応の柱として「咬傷部位の処置」「抗菌薬予防投与」「破傷風予防」「狂犬病予防」が明確に並べられています。[page:1]
破傷風は土壌中に芽胞として存在する破傷風菌が創から侵入し、毒素で発症します。[page:1]
潜伏期は3〜21日で、開口障害や嚥下困難などで発症し得て、重症では呼吸筋麻痺など致死的になり得ます。[page:1]
さらに、国内でもワクチン未接種世代を中心に患者が発生していることが示され、咬傷の場面でワクチン歴確認が重要になります。[page:1]
狂犬病については、世界的には致死率が極めて高く、曝露後ワクチンが重要という位置づけです。[page:1]
一方、日本国内の犬咬傷に関しては「日本では犬などを含め狂犬病の発生はないため、国内での犬咬傷では狂犬病ワクチンは不要」とする国内医療機関のQ&Aがあり、患者の不安が強い点ほど説明が有用です。[]
ただし海外での咬傷や輸入動物など例外もあり得るため、地域・状況の情報確認と公的情報への案内が安全です。[page:1]
参考リンク(国内で犬に咬まれた場合の狂犬病ワクチン要否の説明がある)
国立国際医療研究センター病院:国内で犬に咬まれた場合の狂犬病ワクチン要否(Q&A)
検索上位の一般向け記事では「犬咬傷=局所感染」の話に寄りがちですが、医療従事者向けに強調したいのは、犬・猫の口腔内常在菌であるCapnocytophaga属(特にC. canimorsus)が、まれに敗血症や髄膜炎など重篤感染を起こし得る点です。[page:1]
資料では、C. canimorsus菌血症の死亡率が13〜33%とされ、頻度は低くても“見逃したときの代償が大きい”感染症として位置づけられています。[page:1]
意外に重要なのは「免疫不全がない健康な人でも重症化が一定割合で起きる」可能性が示されていることです。[page:1]
さらに、感染契機から発病までが1〜8日とされ、咬傷から数日後に全身症状が出るパターンがあり得ます。[page:1]
つまり、「抗生剤は何日で終わり?」という質問に答えると同時に、「数日後に発熱・倦怠感・意識変容が出たらすぐ受診」という安全情報を添えるのが、医療安全として合理的です。[page:1]
疑うための実務ポイント(現場での声かけ)
参考リンク(動物咬傷とカプノサイトファーガ、予防抗菌薬3日設計例、破傷風・狂犬病の整理がまとまっている)
厚生労働省資料:動物由来カプノサイトファーガ感染症と動物咬傷の対応(抗菌薬・破傷風・狂犬病)