ピペラシリンの作用機序と医療現場での適応

ピペラシリンは感染症治療で重要な役割を担う抗生物質です。作用機序から適応症、副作用まで医療従事者が知るべき基本情報を詳しく解説します。医療現場での適切な使用法についても知りたくありませんか?

ピペラシリンの薬理学的特徴と臨床応用

ピペラシリンの基本特性
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作用機序

細菌の細胞壁合成を阻害し、殺菌的抗菌作用を発揮

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抗菌スペクトラム

グラム陽性菌、グラム陰性菌、嫌気性菌に幅広く有効

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配合製剤

タゾバクタムとの配合により β-ラクタマーゼ産生菌にも対応

ピペラシリンの作用機序と抗菌スペクトラム

ピペラシリンは、合成ペニシリン系抗生物質の一種であり、細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌的な抗菌作用を発揮します 。その作用機序は、細菌のペプチドグリカン層の形成に必要な酵素であるペニシリン結合タンパク質(PBPs)に結合し、その機能を阻害することにあります 。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/piperacillin-sodium/

 

ピペラシリンの最大の特徴は、その広範な抗菌スペクトラムです。グラム陰性菌のインフルエンザ菌に対するMIC90は2μg/mL、グラム陽性菌肺炎球菌に対するMIC90は2μg/mLを示し、セフェム系のフロモキセフより優れた抗菌力を有しています 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%94%E3%83%9A%E3%83%A9%E3%82%B7%E3%83%AA%E3%83%B3

 

緑膿菌を含むグラム陰性菌、腸球菌属を含むグラム陽性菌、またバクテロイデス属を含む嫌気性菌に対し効果があり、幅広い抗菌スペクトルを有することが確認されています 。この特性により、複雑な混合感染症にも対応可能となっています 。

ピペラシリン単独療法の適応症と効果

ピペラシリン単独での適応症は多岐にわたり、敗血症、急性気管支炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸、慢性呼吸器病変の二次感染などの呼吸器感染症が主要な対象となります 。また、膀胱炎腎盂腎炎といった泌尿器感染症にも広く使用されています 。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/kouseibussitu/JY-00700.pdf

 

さらに、胆嚢炎胆管炎、バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、子宮旁結合織炎といった婦人科領域の感染症にも有効性を示します 。化膿性髄膜炎のような重篤な中枢神経系感染症に対しても適応があります 。
特に肺炎などの重症呼吸器系感染症に対して効果的であり、主に呼吸器系の感染症に対して効果を発揮し、肺炎や気管支炎などの治療に広く使用されています 。臨床試験では、ピペラシリン単独療法が従来のカルボキシペニシリン-アミノグリコシド併用療法と同等の77%の臨床効果を示すことが確認されています 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC185330/

 

ピペラシリンとタゾバクタム配合製剤の優位性

ピペラシリンは、β-ラクタマーゼ阻害剤タゾバクタムとの配合剤として使用されることが多く、この組み合わせにより耐性菌に対する効果が大幅に向上します 。タゾバクタムは、それ自体の抗菌作用は弱いものの、β-ラクタマーゼに対して不可逆的阻害作用を示すため、β-ラクタム系抗生物質と組み合わせて使用されます 。
参考)http://www.antibiotic-books.jp/drugs/94

 

この配合剤は、各種β-ラクタマーゼ産生菌に対するin vitro抗菌力がピペラシリン単独より強く、β-ラクタマーゼ産生菌による感染症モデル実験において、ピペラシリンより強い治療効果を示しています 。β-ラクタマーゼを産生しピペラシリン耐性菌による複雑性膀胱炎では77.8%(175/225例)、腎盂腎炎では80.3%(57/71例)、敗血症では75.0%(3/4例)の高い有効性を示しました 。
タゾバクタムは、細菌が産生するβ-ラクタマーゼと複合体を形成することによりβ-ラクタマーゼを不可逆的に不活性化させることにより、ピペラシリンがβ-ラクタマーゼによる捕捉・破壊を受けることを防ぎ、β-ラクタマーゼ産生ピペラシリン耐性株に対しても抗菌作用を発揮します 。

ピペラシリンの用法・用量と投与方法の最適化

ピペラシリンナトリウムの標準的な用法・用量は、成人の場合、通常1日2〜4g(力価)を2〜4回に分けて静脈内に投与します 。難治性または重症感染症では症状に応じて1回4g(力価)を1日4回まで増量して静脈内に投与することが可能です 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00059542.pdf

 

小児に対しては、通常1日50〜125mg(力価)/kgを2〜4回に分けて静脈内に投与し、難治性または重症感染症では症状に応じて1日300mg(力価)/kgまで増量して3回に分けて静脈内に投与します 。投与経路は静脈内投与が基本ですが、筋肉内投与も可能とされています 。
タゾバクタム・ピペラシリン配合剤の場合、深在性皮膚感染症、びらん・潰瘍の二次感染では通常、成人にはタゾバクタム・ピペラシリンとして1回4.5g(力価)を1日3回点滴静注します 。血中半減期は、1時間点滴(投与量2.5g)でタゾバクタム0.68時間、ピペラシリン0.58時間と短いため、頻回投与が必要となります 。
参考)https://med.daiichisankyo-ep.co.jp/products/files/1172/430773_6139505F3054_1_11.pdf

 

ピペラシリン治療における薬物相互作用と注意点

ピペラシリンの使用において、特に注意すべき薬物相互作用がいくつか存在します。アミノグリコシド系抗生物質(トブラマイシン等)と配合すると、アミノグリコシド系抗生物質の活性低下をきたすため、併用する場合には注意が必要です 。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00062323

 

メトトレキサートとの併用では血中濃度上昇、毒性増強が起こり、併用を避けることが推奨されています 。プロベネシドとの併用によりピペラシリンの血中濃度上昇が起こるため、用量調整が必要となります 。アミノグリコシド系薬剤との併用では腎毒性の相加・相乗効果により、急性腎障害のリスクが上昇するため、腎機能モニタリングが重要です 。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/tazobactam-piperacillin-hydrate/

 

抗凝固薬ワルファリン等)との併用では抗凝固作用が増強し、出血リスクが上昇するため、PT-INR測定頻度を増加させる必要があります 。外国においては嚢胞性線維症の患者でピペラシリンの過敏症状の発現頻度が高いとの報告があります 。
また、ベクロニウムとの併用により、ベクロニウムの筋弛緩作用を延長させるとの報告があるため、麻酔時には注意が必要です 。これらの相互作用を考慮し、必要に応じて投与計画の調整や代替薬の検討を行うことが重要です 。

ピペラシリンの副作用と安全性プロファイル

ピペラシリンの副作用は、多臓器にわたって現れる可能性があります。タゾバクタム・ピペラシリン配合剤の臨床試験における副作用発現率は4.64%(103/2221例)で、主要な副作用として下痢・軟便(2.03%)、発疹(0.99%)、発熱(0.59%)、発赤(0.23%)、悪心・嘔吐(0.18%)、腹痛(0.18%)などが報告されています 。
消化器系副作用は比較的頻度が高く、腸内細菌叢の乱れが原因と考えられており、下痢(5-10%)、悪心(3-7%)、嘔吐(2-5%)、腹痛(1-3%)が見られます 。これらの症状は投与終了後に改善することが多いですが、重症化する場合もあるため注意が必要です 。
アレルギー反応は稀ですが重篤な可能性があり、皮疹、蕁麻疹、発熱、呼吸困難、アナフィラキシーショックなどが現れることがあります 。過去のペニシリン系抗生物質使用歴や既往歴の確認が重要で、アレルギー反応が疑われる際は直ちに投与を中止し適切な処置を行う必要があります 。
血液系副作用として、好中球減少症(1-5%)、血小板減少症(0.5-2%)、貧血(1-3%)、好酸球増多症(0.1-1%)が報告されており 、定期的な血液検査による早期発見・早期対応が重要です 。臨床検査値の変動としては、γ-GTP上昇(10%)、ALT上昇(5.05%)、好酸球増多(3.82%)、AST上昇(3.69%)などが見られています 。