経過措置が終わった翌日に処方した分は、保険請求が全額自費扱いになります。
2025年4月、日本臓器製薬株式会社はジクロフェナクNaゲル1%「日本臓器」を含む計12品目について、「諸般の事情により製造販売を終了する」と医療機関向けに通知しました。公式文書では理由を「諸般の事情」とのみ記載しており、具体的な事由は公表されていません。これは近年ジェネリック医薬品メーカーで相次いだ品質問題・製造ライン見直しの波が日本臓器グループにも及んだ結果とみられています。
製造元は東光薬品工業株式会社、販売元が日本臓器製薬株式会社というスキームで長年供給されてきた製品です。2023年4月にはまず25g規格(25g×10・25g×50)が中止となり、当初50g規格は継続販売されていました。しかし2025年4月の通知で50g×10・50g×50も含めた全規格の終了が確定し、最終供給時期は50g×10が2025年10月、50g×50が2025年8月とされています。
つまり段階的な縮小を経て、全規格が消滅した形です。
今回の販売終了は「ゲル」単体にとどまりません。同時期にジクロフェナクNaクリーム1%・テープ15mg・テープ30mg・パップ70mg・パップ140mg・ローション1%、さらにはレボセチリジン塩酸塩錠・モンテルカストチュアブル錠・ケトコナゾール外用スプレー・トアラセット配合錠も終了対象です。日本臓器製薬の採用品目を複数持つ薬局や医療機関では、一度に複数の採用変更作業が求められる状況となっています。
採用変更の優先度を見誤ると、現場が混乱します。
薬価(1gあたり3.00円)は後発品の中では標準的な水準でした。50g×10の包装薬価は1,500円、50g×50の包装薬価は7,500円です。在庫消尽後の販売終了であるため、卸在庫が底をつくタイミングは施設ごとに異なります。まだ入庫できている施設も油断は禁物で、早めの対応計画が求められます。
参考:日本臓器製薬公式の製造販売終了に関する案内PDF(12品目・経過措置期限を含む詳細情報)
製造販売終了のご案内(日本臓器製薬公式PDF、2025年4月)
医療従事者にとって最も注意が必要なのが、経過措置の期限です。日本臓器製薬の公式案内によれば、今回終了する全12品目の経過措置は2026年3月31日を予定しています。現在(2026年3月12日)は、まさにその期限の約3週間前という極めて緊迫したタイミングです。
経過措置とは何か、整理します。
医薬品が薬価基準から削除される際には、一定期間「経過措置」として保険請求を認める猶予期間が設けられます。この期間中に施設が代替品への切り替えを完了できるよう配慮された仕組みです。しかし経過措置終了日(ここでは2026年3月31日)を過ぎた翌日からは、当該品目を調剤・使用しても保険請求は認められません。
つまり、2026年4月1日以降に「ジクロフェナクNaゲル1%「日本臓器」」の在庫が残っていてそれを調剤した場合、その調剤分は保険点数として請求できず、全額が医療機関または薬局の持ち出しになるリスクがあります。これは小さくない金額的損失です。
期限は条件なしに2026年3月31日です。
社会保険診療報酬支払基金でも、誤請求防止のために経過措置品目一覧を公表しています。請求システムが経過措置終了品のレセコード入力を弾かないケースもあるため、請求側での確認が必須です。電子処方箋を運用している薬局では、経過措置終了品の調剤結果登録ができないシステム制御があるものの、経過措置内の調剤でも登録日が期限外になるとエラーになるケースが報告されています。システムに頼りきるのは危険です。
参考:経過措置医薬品の誤請求防止に関する情報(社会保険診療報酬支払基金)
経過措置医薬品情報(社会保険診療報酬支払基金)
在庫管理の観点からは、今月中(2026年3月中)に残存在庫の使用見込みを確認し、4月以降に持ち越す可能性がある場合は早急に代替品への切り替えを進める必要があります。経過措置切れの品目を誤って調剤したという報告は現場で毎年発生しており、他人事ではありません。
日本臓器製薬の公式案内では、ジクロフェナクNaゲル1%「日本臓器」の代替品として、「ジクロフェナクNaゲル1%「ラクール」(製造販売元:三友薬品株式会社、発売元:ラクール薬品販売株式会社)」が指定されています。
代替品は同一成分・同一濃度です。
ジクロフェナクNaゲル1%「ラクール」は、主成分がジクロフェナクナトリウム1%という点で「日本臓器」と一致しており、後発品同士の切り替えにあたります。先発品はボルタレンゲル1%(ノバルティスファーマ)ですが、薬価差を考えると後発品から後発品への切り替えが現実的です。処方せんに「変更不可」の指示がなければ、薬局が銘柄変更対応することも可能です。
| 項目 | ジクロフェナクNaゲル1%「日本臓器」 | ジクロフェナクNaゲル1%「ラクール」 |
|---|---|---|
| 成分・含量 | ジクロフェナクナトリウム 1% | ジクロフェナクナトリウム 1% |
| 製造販売元 | 東光薬品工業 | 三友薬品 |
| 販売元 | 日本臓器製薬 | ラクール薬品販売 |
| 薬価 | 3.00円/g | 3.00円/g(同水準) |
| 状況 | 販売終了・経過措置中 | 現在供給中 |
なお、ロキソプロフェンNaゲル1%(ロキソニンゲルの後発品)が2024年10月に複数ブランドで販売中止となり需要が急増した際、その代替として「ジクロフェナクNaゲル1%「ラクール」」が処方切り替え先として選ばれるケースが増加しました。日経メディカルの調査では、2025年5月時点でジクロフェナクNaゲル1%「ラクール」がDSJP(医療用医薬品供給状況データベース)の需要増加ランキングで上位に入っています。需要が集中すると供給がひっ迫する懸念もあるため、早めの発注・在庫確認が推奨されます。
参考:ジクロフェナクNaゲル1%「ラクール」への需要集中の背景(日経メディカル)
ロキソニンゲル、後発品の販売中止で限定出荷に(日経メディカル、2025年5月)
切り替えに際して処方医への連絡が必要かという問いについては、銘柄処方ではなく一般名処方(【般】ジクロフェナクNaゲル1%)であれば、同成分・同規格の後発品に薬局が自由に変更できます。銘柄指定処方の場合は、患者への説明と同意のうえで変更するか、処方医への疑義照会を行う必要があります。一般名処方への移行が現場の混乱を減らす近道です。
ここでは、販売中止に際して改めて確認すべきジクロフェナクゲルの薬理特性と、代替品を選ぶ際の独自視点を整理します。
ジクロフェナクナトリウムはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の一種で、COX-1・COX-2を阻害することでプロスタグランジン合成を抑制し、炎症・疼痛・腫脹を軽減します。外用ゲル剤は経皮吸収によって患部に局所的に作用するため、内服薬と比較して胃腸障害や腎障害のリスクが低いとされてきました。これは事実です。
ただし、「外用だから全身影響ゼロ」は誤りです。
PMDAの審査報告書では、ジクロフェナクの反復経皮投与によってNSAIDsのクラスエフェクトである腎障害が動物実験で確認されています。長期使用や広範囲への大量塗布では全身血中濃度が上昇し、腎機能障害患者や高齢者では特に注意が必要です。腎機能に問題のある患者に対して「塗り薬だから安全」という判断で漫然と継続処方するのは、臨床的に誤った対応になりかねません。
代替品を選ぶ際に見落とされがちな視点として、「剤形の使用感」があります。ゲル剤は水性基剤で伸びが良く、乾燥後のべたつきが少ないため、特に手指や膝など関節周囲への使用で患者から好まれます。一方テープ・パップへの切り替えは貼付部位の皮膚状態(発汗・毛など)によって固定性が変わるため、患者QOLに影響が出ることがあります。代替品を選ぶ際は剤形の特性まで含めて患者と相談するのが原則です。
また、ジクロフェナク外用剤の使用に際して軽視されがちな禁忌として、「アスピリン喘息(NSAIDs不耐症)の患者」への使用があります。外用剤でも経皮吸収により喘息発作を誘発した症例が報告されており、特に内科・呼吸器科との連携が乏しい整形外科外来では見落とされるリスクがあります。
参考:ジクロフェナクNaに関する全日本民医連の副作用モニター情報
副作用モニター情報〈384〉 ジクロフェナクナトリウムによる腎障害(全日本民医連)
参考:PMDAのジクロフェナクNaゲル1%「日本臓器」添付文書・審査情報
ジクロフェナクNaゲル1%「日本臓器」添付文書・審査情報(PMDA)
ここまでの内容を踏まえ、医療従事者・薬局薬剤師が今すぐ取るべき実務対応を具体的に整理します。
まず最初にやるべきは在庫の確認です。
ステップ1:在庫の棚卸しと消費見込みの確認
現時点(2026年3月)で施設内・薬局内に「ジクロフェナクNaゲル1%「日本臓器」」の在庫が残っている場合、2026年3月31日(経過措置終了日)までに消費できる量かを確認します。消費しきれない量が残っている場合は、保険請求できない在庫を抱えるリスクが発生します。廃棄処理の手続きも視野に入れた判断が必要です。
ステップ2:処方データの確認と代替品採用
定期処方で当該品目が含まれている患者を特定し、代替品への切り替えを処方医と連携して進めます。ジクロフェナクNaゲル1%「ラクール」または他のジクロフェナクNa外用剤(テイコク製のクリーム・テープなど)のうち、患者の患部・使用実態に合った剤形を選定します。一般名処方に変更してもらえると、薬局側の柔軟性が高まります。
一般名処方への切り替えが最も実務的です。
ステップ3:レセコン・薬歴システムの設定確認
レセコンや薬歴システムに「ジクロフェナクNaゲル1%「日本臓器」」が採用品目として登録されている場合、経過措置終了後も誤って入力・請求できてしまうシステムがあります。システムベンダーに対して、2026年3月31日以降の入力ブロック設定の確認・依頼を行うことが推奨されます。
ステップ4:患者への説明
同一成分・同一効能の代替品への切り替えであることを丁寧に説明することで、患者の不安を解消できます。「成分は同じで、製造メーカーが変わります」という一言が、患者の理解と信頼を維持するうえで効果的です。
また、今回の日本臓器製薬の販売終了は12品目に及んでいます。ジクロフェナク外用剤だけでなく、採用しているレボセチリジンやモンテルカストなど他品目についても同様の対応が必要かを確認するのが、実務効率の面でも合理的です。一品目ずつ対応するより、一括で処理する方が現場負担を減らせます。
参考:DSJP(医療用医薬品供給状況データベース)でのジクロフェナクNaゲル「日本臓器」の告知履歴
ジクロフェナクNaゲル1%「日本臓器」50g×10 供給状況(DSJP)
ジクロフェナクNaゲル1%「日本臓器」50g×50 供給状況(DSJP)