徐放薬の種類と一覧:医療現場での適正使用ガイド

徐放薬には多様な製剤技術と分類があり、それぞれ異なる放出制御機構を持っています。適切な選択と安全な使用のために、医療従事者が知っておくべき徐放薬の種類と特徴を詳しく解説します。あなたの処方選択は最適ですか?

徐放薬の種類と一覧

徐放薬の基本分類
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シングルユニット型

消化管内で投与剤形が保たれたまま徐々に薬物を放出する製剤

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マルチプルユニット型

錠剤やカプセルが崩壊して顆粒を放出し、顆粒が徐放性を示す製剤

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放出制御機構

リザーバー型とマトリックス型の2つの主要な制御システム

徐放薬の基本的分類と放出制御機構

徐放性製剤は、製剤からの有効成分の放出を遅くすることにより、服用回数を減らし、血中の有効成分濃度を一定に長時間保つことを目的とした製剤です。徐放薬は形態により大きく2つのタイプに分類されます。

 

シングルユニット型の特徴

  • 消化管内で投与剤形が保たれたまま徐々に薬物を放出
  • ワックスマトリックス型、グラデュメット型、レペタブ型、ロンタブ型、スパンタブ型などが含まれる
  • 製剤全体が一つの単位として機能

マルチプルユニット型の特徴

  • 投与された錠剤やカプセル剤が速やかに崩壊して顆粒を放出
  • 放出された顆粒が徐放性を示す
  • スパスタブ型、スパンスル型、顆粒型などが代表例

放出制御機構では、リザーバー型とマトリックス型に大別されます。リザーバー型は薬物を含有する錠剤または顆粒を高分子皮膜でコーティングしたもので、薬物の放出速度は皮膜の性質や厚さで決定されます。一方、マトリックス型は薬物を高分子やワックスなどの基剤中に分散させたもので、薬物分子のマトリックス内の拡散速度により放出速度が決まります。

 

シングルユニット型徐放薬の種類と特徴

シングルユニット型には複数の製剤技術が応用されており、それぞれ独特の放出制御機構を持っています。

 

ワックスマトリックス型
疎水性・親水性の放出抑制物質である基材(脂肪やロウ)のマトリックス中に薬物を分散させて錠剤とした製剤です。マトリックスからまたはその崩壊により徐々に薬物が放出されるよう調節されています。

 

グラデュメット型
多孔性の不溶性プラスチック格子間隙に包含された薬物が消化管液に拡散して放出される錠剤です。代表例としてフェロ・グラデュメット錠があり、鉄欠乏性貧血の治療に使用されます。

 

レペタブ型
腸溶性コーティング錠の外側を胃内で溶解する胃溶層で覆った複層錠です。胃で外層が溶け、腸で内核錠が溶けるため、薬効が持続します。

 

ロンタブ型
外層を速放性に、内層(核錠)を徐放性にした有核錠です。レペタブでは徐放性の部分がコーティングされていますが、ロンタブでは徐放性部がコーティングされていない構造となっています。

 

スパンタブ型
速放層や徐放層の部分に分け、2層または3層に打錠したものです。層ごとに異なる放出特性を持たせることで、複雑な血中濃度推移を実現できます。

 

マルチプルユニット型徐放薬の具体例

マルチプルユニット型は、顆粒レベルでの徐放制御により、より精密な薬物放出パターンを実現します。

 

スパンスル型
薬物を含有する顆粒を高分子皮膜でコーティングし、これをカプセル剤に充填した製剤です。コーティングの異なる顆粒を数種類充填することで薬物の放出速度を最適化しています。胃溶性顆粒と腸溶性顆粒、速溶性顆粒と徐放性顆粒を組み合わせたものが多く見られます。

 

スパスタブ型
速放性顆粒と徐放性皮膜でコーティングされた数種の徐放性顆粒を打錠した錠剤です。消化管内で速溶性顆粒が溶解した後、徐放性顆粒から薬物が徐々に放出されます。実質的にスパンスル型製剤を錠剤としたものです。

 

顆粒型
胃溶性顆粒と腸溶性顆粒を混合したもので、服用時期と消化管部位に応じた薬物放出が可能です。

 

主要な徐放薬一覧

  • モルヒネ硫酸塩水和物徐放錠(MSコンチン錠)- 持続性がん疼痛治療
  • アンブロキソール塩酸塩徐放性口腔内崩壊錠
  • テオフィリン徐放錠(テオドール錠、ユニフィルLA錠)- 気管支拡張
  • バルプロ酸ナトリウム(デパケンR錠、セレニカR錠)- 抗てんかん
  • メチルフェニデート塩酸塩(コンサータ錠)- 中枢神経刺激
  • ニフェジピンCR錠 - 降圧・狭心症治療

徐放薬の粉砕禁止と安全管理

徐放性製剤の最も重要な注意点は、粉砕や分割が絶対に禁止されていることです。日本医療機能評価機構の報告によると、2014年1月から2019年11月の間に、徐放性製剤を粉砕して投与したことにより患者に悪影響が出た事例が4件報告されています。

 

粉砕による危険性

  • 体内に有効成分が急速に吸収される
  • 血中濃度が想定より高くなり副作用のリスクが増大
  • 徐放効果が完全に失われる
  • 服用回数削減の利点が無効になる

徐放錠を噛んだり砕いたりすると、予定していたよりも短時間で薬の効果が出てしまい、血液中の濃度が急激に上がって副作用の危険性が増す可能性があります。

 

安全管理のポイント

  • 処方されていた錠剤を病棟で初めて粉砕する際は、薬剤師に問い合わせる
  • 添付文書で粉砕可否を必ず確認する
  • 徐放性製剤であることを示す「R」「SR」「CR」「LA」などの表示に注意
  • 患者・家族への適切な服薬指導を行う

参考リンク(PMDA作成の徐放性製剤取り扱い注意資料)。
https://www.pmda.go.jp/files/000251752.pdf

徐放薬選択時の患者別考慮事項

徐放薬の選択においては、患者の個別状況を十分に考慮する必要があります。これは従来の薬効や副作用プロファイルだけでなく、患者の生活パターンや身体機能に基づいた総合的判断が求められます。

 

高齢患者での考慮点

  • 嚥下機能低下の場合は口腔内崩壊錠タイプの徐放薬を検討
  • 消化管運動の変化により放出パターンが変わる可能性
  • 腎機能・肝機能低下による薬物動態の変化
  • 認知機能低下時の服薬コンプライアンス向上効果

消化管疾患患者での注意点

  • 消化管通過時間の変化による放出パターンへの影響
  • 炎症性腸疾患では腸溶性製剤の放出部位が不安定
  • 胃切除後患者ではpH依存性製剤の効果が変化

小児患者での選択基準

  • 体重あたりの用量調整が困難
  • 成長に伴う薬物動態の変化
  • 錠剤の大きさと嚥下能力のバランス

経済性と利便性の考慮
徐放薬は一般的に即放性製剤より高価ですが、服用回数の減少による患者の利便性向上、コンプライアンス改善による治療効果の最大化、副作用軽減による医療費削減効果を総合的に評価する必要があります。

 

ゴーストピル現象への対応
一部の徐放性製剤では、薬物が放出された後の製剤の殻が便中に排泄される「ゴーストピル」現象が見られます。これは正常な現象ですが、患者に事前説明を行い、薬が効いていないという誤解を防ぐことが重要です。

 

医療現場では、これらの多様な徐放薬の特性を理解し、個々の患者に最適な製剤選択を行うことで、治療効果の最大化と副作用の最小化を実現できます。徐放性製剤の適切な使用は、現代医療における重要な治療戦略の一つといえるでしょう。