カルニチンは、必須アミノ酸のリジンとメチオニンから生合成される分子量161.21の化合物で、主に骨格筋と心筋に存在する栄養素です 。この化合物は脂質代謝において極めて重要な役割を果たし、脂肪酸をミトコンドリア内に運搬してエネルギー変換を可能にします 。L-カルニチンは体内でアセチル-L-カルニチン(ALC)に変換され、特に脳組織で重要な機能を発揮することが知られています 。
参考)https://www.cyclochem.com/cyclochembio/watch/watch_001_07.html
近年、カルニチンは脂肪燃焼効果や運動機能向上を目的としたサプリメントとして注目を集めています 。しかし、その効果や安全性については科学的根拠に基づいた理解が必要です 。2002年より食品としての利用が認められて以来、多くの研究が行われ、その生理学的機能が詳細に解明されています 。
参考)https://j-jabs.umin.jp/35/35.275.pdf
カルニチンの最も重要な機能は、長鎖脂肪酸のミトコンドリア内膜通過を補助することです 。脂肪酸は単独ではミトコンドリアの膜を通過できないため、カルニチンと結合してアシルカルニチンとなることで、ミトコンドリア内でのβ酸化が可能になります 。
参考)http://www.ils.co.jp/functionalfoods/product/carnitine/
このプロセスは数段階に分かれており、脂肪酸結合に数秒、膜透過に1~2分、β酸化によるエネルギー産生に10~15分を要します 。カルニチンによる脂肪酸輸送は、糖質による瞬発的なエネルギー産生に対して、持続的なエネルギー供給を担う重要な機能です 。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/metabolism/metabolism-medicine/l-carnitine/
研究により、カルニチン投与後に運動負荷を加えると脂肪分解が増加することが確認されており、脂肪燃焼促進効果が科学的に裏付けられています 。健常者への投与試験では、全脂肪面積や皮下脂肪面積の減少も報告されています 。
参考)https://saurusjapan.com/knowledge/carnitine-effect-1/
カルニチン欠乏症は原発性と継発性に大別されます 。原発性カルニチン欠乏症は、OCTN2(カルニチントランスポーター)をコードするSLC22A5遺伝子の変異により生じる常染色体劣性疾患です 。この疾患では、カルニチンの細胞内取り込みと腎臓での再吸収が障害され、血漿カルニチン濃度が著しく低下します 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3495906/
原発性では、新生児期に低ケトン性低血糖、肝腫大、高アンモニア血症として発症し、重篤な場合は突然死や急性脳症を引き起こします 。継発性カルニチン欠乏症は、バルプロ酸などの抗けいれん薬、ピボキシル基含有抗菌薬、長期経腸栄養による医原性要因や、腎不全、肝不全、重症心身障害などの基礎疾患により生じます 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsmid/46/2/46_221/_pdf/-char/ja
Fanconi症候群や透析患者では、カルニチンの尿中排泄増加により二次性欠乏が生じやすくなります 。新生児マススクリーニングにより早期診断が可能で、レボカルニチン内服により予後の著しい改善が期待できます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC425435/
カルニチンサプリメントの摂取は、適切な用量であれば副作用の心配はほとんどありません 。しかし、1日3,000mgを超える過剰摂取では、吐き気、嘔吐、下痢、体臭などの副作用が報告されています 。特に5,000mg以上の摂取では、皮疹や食欲増加などの症状も現れる可能性があります 。
参考)https://www.bangkokhospital.com/ja/bangkok/content/lcar-increase-muscle-reduce-fat
運動機能への効果について、24週間のL-カルニチン補給により高齢女性の筋力には変化がないものの、筋肉量の増加と運動耐容能の改善が認められています 。アスリート対象の研究では、乳酸値と心拍数の減少、VO2maxの増加、パフォーマンス向上が報告される一方、効果が認められない研究も存在します 。
参考)https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c03/02.html
心血管疾患に対しては、慢性心不全患者での左室駆出率改善効果が確認されていますが、長期摂取によりトリメチルアミン-N-オキシド(TMAO)の血中濃度上昇により、心血管リスクが増加する可能性も指摘されています 。
カルニチンは主に動物性食品に含まれ、植物性食品にはほとんど含まれていません 。食品可食部100gあたりの含有量は、羊肉167.8mg、鶏レバー94mg、牛肉76mgと肉類が豊富で、野菜類にはわずか0.2mgしか含有されていません 。
参考)https://www.aaproject.co.jp/l-carnitine/health.html
日本人の通常の食事からのカルニチン摂取量は約48mg/日とされています 。推奨される最小レベルの200mgを牛肉から摂取するには、1日あたり約300gの牛肉を継続して摂取する必要があり、カロリーオーバーや飽和脂肪酸の過剰摂取のリスクがあります 。
このような理由から、効率的なカルニチン摂取にはサプリメントの利用が現実的な選択肢となります 。ただし、腎疾患を有する患者では主治医への相談が必要で、妊娠中・授乳中の安全性については十分な情報がないため使用を避けるべきとされています 。
参考)https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2005/058041/200501038B/200501038B0003.pdf
アセチル-L-カルニチン(ALC)は血液脳関門を通過し、脳組織に高濃度で存在する重要な化合物です 。脳内でのALC不足は脳細胞の破壊を促進し、認知症のリスクを高める可能性があります 。動物実験では、ALC投与により学習能力の向上と老齢マウスの記憶障害改善が確認されています 。
老化促進モデルマウス(SAMP8)を用いた研究では、ALC長期投与により学習障害・記憶障害の顕著な改善が観察され、脳内の脂質過酸化物量も減少しました 。これは、ALCが脂質過酸化反応を阻害することで細胞障害を改善し、認知能力を高めていることを示唆しています 。
臨床研究でも、うつ病治療におけるアセチル-L-カルニチンの有効性が報告されており、神経精神医学分野での応用が期待されています 。50歳以上の成人では1日100mgの摂取が認知症予防に推奨されており、高齢社会における重要な栄養素として注目されています 。
参考)https://www.alfresa-pharma.co.jp/general/utsu/news/201811a.html