胆石溶解薬として40年以上使われてきたチノカプセルが、2025年に「脳腱黄色腫症」という全く異なる希少疾患の治療薬フジケノンとして再承認されています。
国内で流通するケノデオキシコール酸製剤は、現在2種類あります。
1つ目がチノカプセル125(藤本製薬)です。 薬効分類番号2362の「経口胆石溶解剤」に分類され、1984年4月に販売開始された歴史ある薬剤です。 薬価は1カプセルあたり21.8円と比較的安価な設定です。kegg+2
2つ目がフジケノン粒状錠125(藤本製薬)です。 薬効分類番号3999の「脳腱黄色腫症治療剤」に分類され、2025年9月に承認を取得したばかりの新規適応薬です。 同じ藤本製薬・同じ一般名ながら、製剤形態は粒状錠、薬効分類はまったく異なります。pha.medicalonline+1
商品名を間違えると用量設定が大きく変わるため注意が必要です。
なお、米国ではCTEXLI(Mirum Pharmaceuticals)やCHENODAL(Travere Therapeutics)という商品名で販売されており、 日本国内とは販売会社・商品名がまったく異なります。現時点で国内にジェネリック医薬品は存在しません。yakuten-ichiba+1
| 項目 | チノカプセル125 | フジケノン粒状錠125 |
|---|---|---|
| 製剤形態 | カプセル | 粒状錠 |
| 薬効分類 | 経口胆石溶解剤(2362) | 脳腱黄色腫症治療剤(3999) |
| 承認年 | 1984年 | 2025年9月 |
| 用法・用量(成人) | 300〜400mg 1日2〜3回分割・最大600mg/日 | 250mgから開始し維持量750mg/日・最大1000mg/日 |
| 薬価 | 21.8円/カプセル | 未掲載(2025年10月時点) |
| ジェネリック | なし | なし |
ケノデオキシコール酸は、体内の核内受容体ファルネソイドX受容体(FXR)を活性化する胆汁酸です。 FXRは胆汁酸代謝の中心的な調節因子であり、この受容体を最も強力に活性化するのがケノデオキシコール酸です。 コール酸やデオキシコール酸も活性化しますが、効力の強さはケノデオキシコール酸が最上位に位置づけられています。jstage.jst.go+1
つまり、作用の起点はFXRです。
FXRが活性化されると、コレステロール7α-水酸化酵素(CYP7A1)への負のフィードバックが働き、新たな胆汁酸合成が抑制されます。 この機序が、胆石溶解と脳腱黄色腫症治療の両方に効く共通の土台です。pmda.go+1
脳腱黄色腫症(CTX)では、CYP27A1遺伝子変異によって胆汁酸合成経路が障害され、本来産生されるべきケノデオキシコール酸が著明に減少します。 その結果、コレスタノールが体内に蓄積し、腱・脳・肺などに沈着します。ケノデオキシコール酸を外から補充することで、FXRを介した負のフィードバックが正常化し、コレスタノール産生が抑制されます。neurology-jp+2
これは補充療法が根治に近い働きをするということです。
一方、胆石溶解の場面では、FXR活性化による胆汁酸プールの変化と、外因性コレステロール吸収阻害によって胆汁中コレステロールの過飽和状態が是正され、コレステロール胆石が徐々に溶解します。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00052263.pdf
チノカプセルの適応は「外殻石灰化を認めないコレステロール系胆石の溶解」に限定されています。 すべての胆石に有効なわけではありません。大きな胆石・石灰化胆石・非コレステロール胆石には原則として適応外であり、胆嚢収縮能が温存されていることも前提条件です。jmedj.co+1
適応を正確に見極めることが原則です。
脳腱黄色腫症へのケノデオキシコール酸投与(フジケノン)では、成人に対して750mg/日が推奨投与量です。 小児例では体重あたり15mg/kg/日が推奨されており、 成人換算では体重50kgで750mg/日とほぼ一致します。投与継続により血中コレスタノール値が低下し、下痢の改善・腱黄色腫の縮小傾向が報告されています。ctx-guideline+2
また、CTXは国内で極めて希少な難病ですが、早期診断・早期投与によって神経症状の進行を抑制できるため、神経内科・小児科・内科を問わず、疑いのある患者には速やかな専門機関への紹介が求められます。
日本小児科学会薬事委員会も、小児期早期診断の重要性を発信しています。
参考)日本小児科学会薬事委員会より「脳腱黄色腫症の小児期診断の必要…
参考リンク(脳腱黄色腫症ガイドライン:ケノデオキシコール酸の推奨投与量・副作用・エビデンスを確認できます)。
副作用で最も頻度が高いのは消化器症状です。 5%以上で認められる副作用としてチノカプセルでは下痢、フジケノンでは鼓腸が報告されており、これ以外に軟便・悪心・嘔吐・食欲不振・腹痛なども発現します。kegg+1
肝機能異常も見逃せません。
ALT・AST・ALPの上昇が頻度不明〜0.1〜5%未満の範囲で認められます。 とくに脳腱黄色腫症の治療では長期投与が前提になるため、定期的な肝機能モニタリングが必須です。副作用による減量や中止を要するケースが報告されており、 漫然と投与を継続しないことが重要です。ctx-guideline+2
次に相互作用についてですが、チノカプセル・フジケノンに共通して注意が必要な薬剤がいくつかあります。
参考)医療用医薬品 : フジケノン (フジケノン粒状錠125)
「胆石もあってコレスチラミンも使っている」という患者には、この組み合わせはダメです。
参考リンク(添付文書・相互作用の詳細情報を確認できます)。
ここからは、検索上位にはあまり掲載されていない独自視点の情報です。
ケノデオキシコール酸には、褐色脂肪組織(BAT)の活動性を高める可能性が報告されています。 褐色脂肪は体熱産生と脂肪燃焼に関与するとされており、胆汁酸がそのスイッチになりうるという発見は2015年頃から注目されています。胆石や希少疾患の治療薬が、将来的に代謝疾患領域へ応用されるかもしれない——そういった視点です。
参考)ケノデオキシコール酸は褐色脂肪の活動性をふやすという報告 |…
これは使えそうな知識です。
また、FXR活性化は中性脂肪(TG)の合成抑制・インスリン感受性向上・β酸化の促進にも関与することが示されています。 ケノデオキシコール酸は最も強力なFXRリガンドであるため、 代謝症候群・非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の治療薬開発における「モデル分子」としても研究が進んでいます。dr-okudaira+1
もっとも、現時点ではこれらの代謝への応用は研究段階であり、臨床適応ではありません。処方の根拠は必ず承認された添付文書に基づく必要があります。
さらに興味深いのは、ビタミンD3がFXRによるケノデオキシコール酸依存性の転写活性化を阻害するという報告です。 ビタミンDを大量補充している患者では、ケノデオキシコール酸の効果が理論上干渉を受ける可能性があり、今後の臨床的な確認が期待される分野です。医療従事者として、こうした新しいエビデンスの動向を把握しておくことが、患者への説明の質を高めます。
参考)https://hama-med.repo.nii.ac.jp/record/2476/files/DT_ron482yousi.pdf
参考リンク(FXRと胆汁酸・代謝調節に関するレビュー)。