胆汁酸は、肝臓でコレステロールから複数のシトクロームP450系酵素による反応を経て合成される両親媒性の有機化合物です。ステロイド骨格を有したコラン酸骨格を持つのが特徴で、哺乳類の胆汁に広範に認められるコレステロールの排泄形態として機能します。wikipedia+1
ヒトでは、一次胆汁酸としてコール酸とケノデオキシコール酸の2種類が肝臓で生合成されます。これらの一次胆汁酸は、さらにアミノ酸のグリシンあるいはタウリンとの抱合体を形成して抱合胆汁酸となり、胆汁成分として十二指腸に分泌されます。institute.yakult+2
腸管内に分泌された抱合胆汁酸は、腸内細菌の働きにより脱抱合され、さらにデオキシコール酸やリトコール酸などの二次胆汁酸へと変換されます。胆汁酸合成の初期反応を触媒するコレステロール7α-水酸化酵素(CYP7A1)は、その発現の増減によって胆汁酸の生合成量を調節する律速酵素として重要な役割を果たしています。seikagaku.jbsoc+2
胆汁は黄色透明の液体で、肝臓で1日に約500~800ml生成されます。胆汁の組成を詳細に見ると、約97%が水分であり、残りの固形分の主な成分が胆汁酸です。mt-pharma+3
胆汁の固形成分には、胆汁酸塩、ビリルビン、コレステロール、レシチンを中心とするリン脂質が含まれています。胆嚢胆汁の典型的な組成は、胆汁酸塩が約300mM/l、ビリルビンが約300mg/dl、コレステロールが約500mg/dl、レシチンが約3000mg/dlとなっています。tohokuh.johas+2
さらに、ナトリウムイオン(約210meq/l)、カリウムイオン(約13meq/l)、塩化物イオン(約25meq/l)、炭酸イオン(約10meq/l)などの電解質も含まれます。胆嚢では肝臓で作られた胆汁を貯蔵し、水分を吸収して約8倍程度に濃縮することで、これらの成分濃度を高めています。junshinbile+2
胆汁酸の最も重要な機能は、強力な界面活性作用により食物中の脂質を乳化してミセル形成を促進することです。この作用によって、水に溶けにくい脂溶性物質を水分中で可溶化し、リパーゼなどの加水分解酵素を作用させやすくします。magokoro-bento+2
胆汁酸の界面活性作用は、屠殺した哺乳類の胆汁が石鹸の原料になるほど強力です。食物中のトリグリセライドなどにリパーゼを作用させやすくすることで、十二指腸よりも先の消化管での食物消化を促進し、特に脂肪の吸収を助けています。kobepharma-u+1
胆汁酸はコレステロールや脂肪消化物と混合ミセルを形成し、それらの吸収を促進します。また、ビタミンAやビタミンDなどの脂溶性ビタミンを吸収しやすくする働きも持っており、脂質代謝全般において中心的な役割を担っています。nutri+2
胆汁は脂肪の消化・吸収を助けるだけでなく、体内の老廃物を排泄する重要な機能も持っています。血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンは、古くなると肝臓で分解されてビリルビンという物質に変化します。wizoo+2
このビリルビンは胆汁中に含まれ、胆汁が分泌される過程で十二指腸に送られて便とともに体外へ排泄されます。また、胆汁に含まれる胆汁酸はコレステロールから合成されているため、肝臓で余剰となったコレステロールを排泄する役割も果たしています。med.teikyo-u+2
肝細胞内で生成した胆汁酸は毛細胆管に分泌され胆汁の主成分となり、胆汁分泌を決定する最も重要な因子として機能します。胆汁酸は水分やレシチン、コレステロール、胆汁色素などの固形成分の胆汁への分泌を促進しており、肝臓の解毒作用と協力して老廃物を体外へ排泄する働きを担っています。wakunaga+1
胆汁酸には、体内で効率的に再利用される独特な腸肝循環システムが存在します。小腸下部の回腸に局在する胆汁酸トランスポーター(IBAT)の働きにより、分泌された胆汁酸の約95%が効率的に再吸収され、門脈を経由して肝臓へと戻ります。wikipedia+3
腸内細菌による代謝を受けた二次胆汁酸も、一次胆汁酸と同様に小腸で再吸収され、合わせて胆汁酸全体の約95%が門脈経由で肝臓に戻り、再び胆汁中に分泌されます。この腸肝循環の実質効率は非常に高く、抱合胆汁酸が約20回も再利用されることになります。jstage.jst+2
一方、再吸収されなかった残りの約5%の胆汁酸は大腸へ到達し、便として体外に排泄されます。肝細胞は胆汁酸を極めて効率良く回収し、肝臓は胆汁酸をこの大循環から少しも逃がさないように機能しています。もし胆汁が血中に逃げ出せば黄疸が認められることになります。takayama-naika+1
医療従事者として胆汁酸と胆汁を識別する際、測定方法と臨床的意義の違いを理解することが重要です。血清総胆汁酸(TBA)の測定は肝機能評価において重要な指標となり、肝細胞障害や胆汁うっ滞の診断に活用されています。semanticscholar+1
胆汁酸は単独で生理活性を持つ分子として、薬理学的な標的にもなります。ウルソデオキシコール酸(UDCA)のような胆汁酸製剤は、その界面活性作用により肝疾患や胆石症の治療に用いられています。一方、胆汁全体の異常は胆石症などの病態に関連し、胆汁成分の偏りや細菌感染により成分が結晶化して結石を形成します。keijinkai-hp+3
胆汁中のコレステロール濃度が高くなると、過剰なコレステロールが溶かされないまま結晶化してコレステロール結石を形成し、胆石症の70%以上を占めます。胆汁酸とリン脂質(主にレシチン)は、胆汁中でミセルを形成してコレステロールを可溶化しており、胆汁酸濃度が低下するとコレステロール胆石が形成されやすくなります。minamitohoku+3
このように、胆汁酸は測定可能な生化学的マーカーであり特定の生理機能を持つのに対し、胆汁は複数の成分からなる混合液として総合的な消化機能と老廃物排泄を担っているという点で、医療現場での理解と応用が異なります。