血液ガス分析の読み方において最も重要な項目は、pH、PaCO2、PaO2、HCO3-です。これらの基本項目を正確に理解することが、適切な解釈の第一歩となります。[1][2]
pHの正常値は7.35~7.45であり、7.34以下をアシドーシス(酸血症)、7.46以上をアルカローシス(アルカリ血症)と定義します。pHは血液が酸性かアルカリ性かを示す最も重要な指標で、患者の酸塩基平衡状態を直接反映します。
PaCO2(動脈血二酸化炭素分圧)の正常値は35.0~45.0mmHgで、34mmHg以下は低炭酸ガス(過換気)、46mmHg以上は高炭酸ガス(低換気)を示します。二酸化炭素は酸性であるため、PaCO2が上昇するとpHは低下し、逆にPaCO2が低下するとpHは上昇します。
🩸 重要な覚え方のポイント
HCO3-(重炭酸イオン)の正常値は24mmol/Lで、主に腎臓で産生される酸を中和させる最大の物質です。BE(Base Excess)の正常値は-2~+2mmol/Lで、HCO3-が正常値からどれだけ過剰になっているかを示します。[2]
代謝性の変化を評価する際、HCO3-とBEの両方を確認することが重要です。HCO3-が24mmol/L未満では代謝性アシドーシス、24mmol/L超過では代謝性アルカローシスの可能性を示唆します。BEは「+」の場合は過剰、「-」の場合は不足を表します。
AG(アニオンギャップ)の計算も重要で、正常値は8~16mEq/Lです。AG開大性代謝性アシドーシスでは、乳酸、ケトン体、尿毒素、中毒物質などが原因として考えられます。一方、AG正常性代謝性アシドーシスでは、下痢、腎尿細管性アシドーシスなどが原因となります。
🔬 AG計算式
AG = Na+ - (Cl- + HCO3-)
代償機転の理解は、血液ガス分析の読み方において最も複雑な部分です。人体のホメオスタシス機能により、原発性の障害に対して他の臓器系が代償的に反応します。[2]
呼吸性アシドーシス(PaCO2 45mmHg以上)では、急性期(BE -2~+2mmol/L)と慢性期(BE +2mmol/L以上)で代償の程度が異なります。急性呼吸性アシドーシスでは腎臓による代償が不十分ですが、慢性期では腎臓がHCO3-を増加させて代償します。
代謝性アシドーシス(BE -2以下)では、急性期(PaCO2 35~45mmHg)と慢性期(PaCO2 35mmHg未満)で呼吸による代償の程度が変化します。慢性期では呼吸性アルカローシスによる代償が明確に現れます。
⚖️ 代償の基本原理
臨床現場での血液ガス分析の読み方には、系統的なアプローチが必要です。5つの基本ステップを順序立てて実行することで、見落としなく解釈できます。[4][3]
Step 1: pHによるアシデミア/アルカレミアの判定
Step 2: 一次性障害の特定(呼吸性 vs 代謝性)
Step 3: 代償の有無と程度の評価
Step 4: アニオンギャップの計算
Step 5: 補正HCO3-の計算(AG開大時のみ)
混合性障害の診断では、予想される代償範囲を超えた変化があるかを確認します。例えば、代謝性アシドーシスでPaCO2の低下が不十分な場合、同時に呼吸性アシドーシスが存在する可能性があります。
🎯 実践的なコツ
血液ガス分析の読み方では、特殊な状況や見落としやすいポイントがあります。検体採取の条件や異常ヘモグロビンの影響も考慮する必要があります。[5][6]
検体の取り扱いでは、時間と温度の影響が重要です。室温(22°C)では30分以内、4°C保存でも90分以内に測定することが推奨されます。空気の混入により、PaO2は上昇し、PaCO2は低下する可能性があります。
異常ヘモグロビンの存在では、PaO2が正常でもSaO2が低値を示すことがあります。一酸化炭素中毒やメトヘモグロビン血症では、パルスオキシメーターの値と血液ガス分析の結果に乖離が生じます。
デジタル診断支援システムの活用も注目されています。自動解釈アルゴリズムは、経験豊富な臨床医と高い一致率を示し、リアルタイムでの診断支援が可能です。
⚠️ 注意すべき特殊な状況