血液ガス分析は、血中に溶けている気体(酸素や二酸化炭素)の量を調べる検査で、医療現場において患者の状態を迅速に評価するための重要なツールです。主要な測定項目とその基準値は以下の通りです。
直接測定される基本項目
計算により求められる項目
これらの数値は、酸素化、換気、代謝(腎機能)、酸塩基平衡の4つの重要な生体機能を評価するために使用されます。血液ガス分析の最大の特徴は、一般的な血液検査よりも結果が早く得られ、多くの情報を短時間で把握できることです。
血液ガス分析を正確に読み取るためには、決められた順序で評価を行うことが重要です。大阪大学腎臓内科が推奨する4段階の読み方手順をご紹介します。
STEP 1: pHの評価
最初にpH値を確認し、酸塩基平衡異常の主体を判断します。
STEP 2: HCO3-とPaCO2の評価
次に、異常の原因が呼吸性か代謝性かを判断します。
STEP 3: アニオンギャップ(AG)の計算
代謝性アシドーシスの場合、以下の計算を行います。
AG = Na+ - Cl- - HCO3-
STEP 4: 代償性変化の評価
最後に、生体の代償機転が適切に働いているかを評価します。
酸素化の評価は、患者の呼吸機能と循環機能を総合的に判断するために極めて重要です。PaO2とSaO2の関係性を理解することで、より正確な病態把握が可能になります。
PaO2(動脈血酸素分圧)の解釈
ヘモグロビン酸素飽和度曲線の重要性
PaO2とSaO2の関係はS字カーブ(シグモイドカーブ)を描きます。この曲線の特徴として、PaO2が60mmHgまではSaO2は90%程度で維持されますが、それ以下では急激にSaO2が低下します。この60mmHg/90%という数値は、酸素投与の必要性を判断する重要な基準となります。
P/F比による重症度評価
P/F比(PaO2/FiO2)は、酸素化の重症度を評価する指標として広く使用されています:
A-aDO2(肺胞気-動脈血酸素分圧較差)
高炭酸ガス血症の評価や肺機能の詳細な評価に用いられ、肺胞でのガス交換効率を示す指標です。
生体には酸塩基平衡を維持するためのホメオスタシス機能があり、一つの系統に異常が生じると他の系統が代償的に働きます。この代償機転を正しく理解することが、複雑な血液ガス所見を読み解く鍵となります。
呼吸性アシドーシスの代償
代謝性アシドーシスの代償
代謝性アルカローシスの代償
混合性障害の見分け方
代償範囲を逸脱している場合、複数の病態が合併している可能性を考慮する必要があります。例えば。
実際の臨床現場では、患者の症状や病歴と血液ガス所見を総合的に判断することが重要です。ここでは代表的な疾患群における血液ガスパターンと読み方のポイントを解説します。
急性循環不全における血液ガス変化
循環機能障害が重篤な場合、代謝性アシドーシスが特徴的な所見として現れます。この病態では以下のパターンが見られます:
呼吸器疾患における典型的パターン
腎疾患における酸塩基平衡異常
内分泌・代謝疾患のパターン
これらの疾患群では、血液ガス所見と臨床症状を組み合わせることで、より迅速で正確な診断と治療方針の決定が可能になります。また、治療効果の判定や病状の経過観察においても、血液ガス分析は欠かせない検査となっています。