代謝性アルカローシスは、酸塩基平衡の異常の中でも特に理解が困難とされる病態の一つです。体内の重炭酸イオン(HCO₃⁻)が蓄積することで血液のpHが上昇し、アルカリ性に傾いた状態を指します。
この病態の特徴は、単に重炭酸イオンが増加するだけでなく、その状態が持続するために腎臓でのHCO₃⁻排泄機能に障害が生じている点にあります。正常な腎機能であれば過剰なHCO₃⁻は容易に排泄されるため、代謝性アルカローシスの持続には必ず何らかの排泄障害が関与しています。
代謝性アルカローシスの原因は大きく以下の4つのメカニズムに分類されます:
1. 酸の喪失
2. アルカリの投与
3. 水素イオンの細胞内移動
4. 腎臓でのHCO₃⁻貯留
最も頻繁に遭遇する原因は利尿薬の使用と体液量減少を伴う嘔吐です。これらの病態では、体液量減少に対する代償機序として二次性アルドステロン症が惹起され、ナトリウム再吸収と引き換えにカリウムと水素イオンの排泄が促進されます。
代謝性アルカローシスの症状は、pH上昇の程度と血清電解質異常の重篤度により決定されます。軽症例では無症状のことも多いですが、重症化すると以下のような症状が現れます:
筋骨格系症状 💪
循環器症状 ❤️
神経症状 🧠
呼吸器症状 🫁
これらの症状の多くは、pH上昇に伴うイオン化カルシウムの減少が主因とされています。血液がアルカリ性に傾くと、カルシウムとアルブミンの結合が増強され、生理活性を持つイオン化カルシウムが減少するためです。
興味深いことに、代謝性アルカローシスでは低カリウム血症が高頻度で合併しますが、これは原因であると同時に結果でもあるという特徴があります。低カリウム血症により代謝性アルカローシスが惹起される一方で、アルカローシス自体も腎でのカリウム排泄を促進するためです。
代謝性アルカローシスの診断は、動脈血ガス分析と血清電解質検査を組み合わせて行います。診断の基準となる検査値は以下の通りです:
血ガス分析での診断基準 📊
補助的な検査値
診断において重要なのは、代謝性アルカローシスをCl反応性とCl不応性に分類することです:
分類 | 尿中塩化物 | 主な原因 | 治療反応性 |
---|---|---|---|
Cl反応性 | < 10-20 mEq/L | 嘔吐、利尿薬、体液量減少 | NaCl輸液で改善 |
Cl不応性 | > 20 mEq/L | ミネラルコルチコイド過剰、重度のK/Mg欠乏 | NaCl輸液では改善しない |
この分類は治療方針の決定に極めて重要で、尿中塩化物濃度の測定により簡便に鑑別可能です。Cl反応性の場合は体液量減少が主因であることが多く、適切な輸液療法で改善が期待できます。
Winter式による代償の評価も診断の一助となります。
予測PCO₂ = 0.7 × (HCO₃⁻ - 24) + 40 ± 5
実測PCO₂がこの予測値の範囲内にあれば、単純な代謝性アルカローシスと判断できます。
代謝性アルカローシスの治療は原因に応じたアプローチが必要で、画一的な治療法は存在しません。治療の基本原則は以下の通りです:
基本的治療アプローチ 🎯
Cl反応性代謝性アルカローシスの治療
生理食塩水の投与が第一選択となります。塩化ナトリウムの補給により、腎でのHCO₃⁻排泄が促進され、アルカローシスの改善が期待できます。同時にカリウムとマグネシウムの補充も必須です。
Cl不応性代謝性アルカローシスの治療
この場合、生理食塩水単独では改善しないため、より複雑な管理が必要です:
薬物療法の選択肢 💊
治療効果の判定は動脈血ガス分析の改善と症状の軽減により行います。通常、適切な治療により24-48時間でpHとHCO₃⁻の改善がみられます。
代謝性アルカローシス患者の看護においては、症状の早期発見と安全管理が最も重要です。特に以下の点に注意が必要です:
バイタルサイン監視のポイント 📈
転倒・外傷予防対策 ⚠️
筋力低下や意識障害により転倒リスクが高まるため。
電解質管理の重要性
カリウムとマグネシウムの補正は段階的に行う必要があります。
合併症の予防と早期発見 🔍
代謝性アルカローシスは他の酸塩基平衡異常と比較して、慢性経過を辿ることが多い特徴があります。そのため、長期的な管理計画を立て、患者・家族への教育も重要な看護介入となります。
患者教育のポイント
代謝性アルカローシスは適切な診断と治療により改善可能な病態ですが、原因が多様で病態生理が複雑なため、医療従事者には幅広い知識と継続的な学習が求められます。患者の安全を第一に考え、チーム医療により最適な管理を提供することが重要です。