代謝性アルカローシスをわかりやすく解説【症状・原因・治療・検査値】

代謝性アルカローシスとはなにか、症状や原因を医療従事者向けにわかりやすく解説。嘔吐や利尿薬使用による重炭酸イオンの蓄積が主な原因。血ガス分析での診断や治療法を詳しく知りたくありませんか?

代謝性アルカローシス わかりやすい解説

代謝性アルカローシスの概要
🩺
病態理解

重炭酸イオン(HCO3-)の蓄積による血液pHの上昇

⚠️
主な症状

筋痙攣、筋力低下、不整脈、意識障害

🔍
診断の要点

血ガス分析でpH>7.45、HCO3->24mEq/L

代謝性アルカローシスは、酸塩基平衡の異常の中でも特に理解が困難とされる病態の一つです。体内の重炭酸イオン(HCO₃⁻)が蓄積することで血液のpHが上昇し、アルカリ性に傾いた状態を指します。
この病態の特徴は、単に重炭酸イオンが増加するだけでなく、その状態が持続するために腎臓でのHCO₃⁻排泄機能に障害が生じている点にあります。正常な腎機能であれば過剰なHCO₃⁻は容易に排泄されるため、代謝性アルカローシスの持続には必ず何らかの排泄障害が関与しています。

代謝性アルカローシスの主要な原因と病態生理

代謝性アルカローシスの原因は大きく以下の4つのメカニズムに分類されます:
1. 酸の喪失

  • 胃酸の喪失(嘔吐、経鼻胃管吸引)
  • 先天性クロール下痢症での塩化物喪失

2. アルカリの投与

  • 重炭酸ナトリウム製剤の過剰投与
  • 制酸薬の慢性的摂取(炭酸カルシウム製剤など)

3. 水素イオンの細胞内移動

  • 低カリウム血症時の代償機序
  • 細胞外カリウムが低下すると、水素イオンが細胞内に移動

4. 腎臓でのHCO₃⁻貯留

  • ミネラルコルチコイド過剰症
  • 利尿薬使用による電解質異常

最も頻繁に遭遇する原因は利尿薬の使用体液量減少を伴う嘔吐です。これらの病態では、体液量減少に対する代償機序として二次性アルドステロン症が惹起され、ナトリウム再吸収と引き換えにカリウムと水素イオンの排泄が促進されます。

代謝性アルカローシスの症状と臨床所見

代謝性アルカローシスの症状は、pH上昇の程度と血清電解質異常の重篤度により決定されます。軽症例では無症状のことも多いですが、重症化すると以下のような症状が現れます:
筋骨格系症状 💪

  • 筋痙攣(特に下肢)
  • 筋力低下
  • テタニー様症状
  • 深部腱反射亢進

循環器症状 ❤️

  • 不整脈(特に心房性不整脈)
  • 心電図変化(T波平低化、U波出現)
  • 血圧上昇(体液量過剰例)

神経症状 🧠

  • 意識レベル低下
  • 混乱・見当識障害
  • 頭痛
  • 嗜眠

呼吸器症状 🫁

  • 代償性の呼吸抑制(PCO₂上昇)
  • 軽度の呼吸困難

これらの症状の多くは、pH上昇に伴うイオン化カルシウムの減少が主因とされています。血液がアルカリ性に傾くと、カルシウムとアルブミンの結合が増強され、生理活性を持つイオン化カルシウムが減少するためです。
興味深いことに、代謝性アルカローシスでは低カリウム血症が高頻度で合併しますが、これは原因であると同時に結果でもあるという特徴があります。低カリウム血症により代謝性アルカローシスが惹起される一方で、アルカローシス自体も腎でのカリウム排泄を促進するためです。

代謝性アルカローシスの診断法と血ガス分析の読み方

代謝性アルカローシスの診断は、動脈血ガス分析と血清電解質検査を組み合わせて行います。診断の基準となる検査値は以下の通りです:
血ガス分析での診断基準 📊

  • pH > 7.45
  • HCO₃⁻ > 24 mEq/L
  • 代償性のPCO₂上昇(通常40-50 mmHg)

補助的な検査値

  • 血清カリウム:多くの場合低値(< 3.5 mEq/L)
  • 血清塩化物:しばしば低値
  • 血清マグネシウム:低値のことが多い

診断において重要なのは、代謝性アルカローシスをCl反応性とCl不応性に分類することです:

分類 尿中塩化物 主な原因 治療反応性
Cl反応性 < 10-20 mEq/L 嘔吐、利尿薬、体液量減少 NaCl輸液で改善
Cl不応性 > 20 mEq/L ミネラルコルチコイド過剰、重度のK/Mg欠乏 NaCl輸液では改善しない

この分類は治療方針の決定に極めて重要で、尿中塩化物濃度の測定により簡便に鑑別可能です。Cl反応性の場合は体液量減少が主因であることが多く、適切な輸液療法で改善が期待できます。
Winter式による代償の評価も診断の一助となります。

 

予測PCO₂ = 0.7 × (HCO₃⁻ - 24) + 40 ± 5
実測PCO₂がこの予測値の範囲内にあれば、単純な代謝性アルカローシスと判断できます。

代謝性アルカローシスの治療戦略と管理のポイント

代謝性アルカローシスの治療は原因に応じたアプローチが必要で、画一的な治療法は存在しません。治療の基本原則は以下の通りです:
基本的治療アプローチ 🎯

  1. 原因疾患の治療
    • 嘔吐の制御(制吐薬、基礎疾患治療)
    • 利尿薬の中止または減量
    • ミネラルコルチコイド過剰症の治療
  2. 電解質補正
    • カリウム補充(経口または静脈内)
    • マグネシウム補充(特にCl不応性例)
    • 塩化物補充
  3. 体液管理
    • 体液量減少例:等張性生理食塩水
    • 体液量過剰例:利尿薬調整

Cl反応性代謝性アルカローシスの治療
生理食塩水の投与が第一選択となります。塩化ナトリウムの補給により、腎でのHCO₃⁻排泄が促進され、アルカローシスの改善が期待できます。同時にカリウムとマグネシウムの補充も必須です。
Cl不応性代謝性アルカローシスの治療
この場合、生理食塩水単独では改善しないため、より複雑な管理が必要です:

薬物療法の選択肢 💊

  • アセタゾラミド炭酸脱水酵素阻害薬で、腎でのHCO₃⁻排泄を促進
  • 塩酸アルギニンまたは塩酸リジン:重篤例での酸負荷
  • 希塩酸静注:最重症例での最終手段(リスクが高い)

治療効果の判定は動脈血ガス分析の改善と症状の軽減により行います。通常、適切な治療により24-48時間でpHとHCO₃⁻の改善がみられます。

 

代謝性アルカローシス患者の看護・管理における注意点

代謝性アルカローシス患者の看護においては、症状の早期発見と安全管理が最も重要です。特に以下の点に注意が必要です:
バイタルサイン監視のポイント 📈

  • 心電図モニタリング(不整脈の早期発見)
  • 血圧測定(体液バランス評価)
  • 呼吸数・呼吸パターンの観察
  • 意識レベルの定期的評価

転倒・外傷予防対策 ⚠️
筋力低下や意識障害により転倒リスクが高まるため。

 

  • ベッド柵の使用
  • 移動時の介助
  • 履物の選択(滑り止め付き)
  • 環境整備(床の濡れ、障害物除去)

電解質管理の重要性
カリウムとマグネシウムの補正は段階的に行う必要があります。

 

  • 急激な補正は避ける(不整脈誘発リスク)
  • 定期的な血液検査でのモニタリング
  • 補正速度:カリウムは10-20 mEq/時を超えない

合併症の予防と早期発見 🔍

  • テタニー発作の兆候(Chvostek徴候、Trousseau徴候)
  • 呼吸抑制の監視(PCO₂上昇による)
  • 腎機能障害の評価(クレアチニン、尿量)

代謝性アルカローシスは他の酸塩基平衡異常と比較して、慢性経過を辿ることが多い特徴があります。そのため、長期的な管理計画を立て、患者・家族への教育も重要な看護介入となります。

 

患者教育のポイント

  • 症状の自己チェック法
  • 処方薬の適切な服用(特に利尿薬)
  • 脱水予防の重要性
  • 定期的な外来受診の必要性

代謝性アルカローシスは適切な診断と治療により改善可能な病態ですが、原因が多様で病態生理が複雑なため、医療従事者には幅広い知識と継続的な学習が求められます。患者の安全を第一に考え、チーム医療により最適な管理を提供することが重要です。