アシデミアとアシドーシスは、医療現場でよく混同される用語ですが、明確な違いがあります。
**アシデミア(acidemia)**は、血液の実際のpH値が7.35未満になった状態を指します。これは純粋に血液検査の結果として表れる客観的な数値です。一方、**アシドーシス(acidosis)**は、体内で酸の蓄積またはアルカリの欠乏を引き起こす生理的過程そのものを指します。
この概念を理解するために、綱引きの例えがよく用いられます。綱を酸性方向に引っ張る力がアシドーシス、その結果として綱がpH7.35未満の位置にある状態がアシデミアです。つまり。
重要な点として、アシドーシスの病態があっても、代償機転によってpHが正常範囲に保たれている場合はアシデミアとは呼びません。例えば、慢性呼吸性アシドーシスでは、腎臓による代償により重炭酸イオン(HCO₃⁻)が上昇してpHが正常化することがあります。
血液ガス分析は、アシデミアとアシドーシスの診断において最も重要な検査です。まずpH値の評価から開始します。
血液ガス分析の読み方には基本的なステップがあります。
Step 1: pH評価
Step 2: 一次障害の同定
Step 3: 代償機転の評価
代謝性アシドーシスの場合、呼吸による代償でPCO₂が低下します。呼吸性アシドーシスの場合、腎臓による代償でHCO₃⁻が上昇します。
MSDマニュアル:酸塩基平衡障害の詳細な解説
臨床現場では、これらの数値を総合的に評価することで、患者の病態を正確に把握できます。単にpHが低いからアシドーシスと判断するのではなく、背景にある病態を理解することが重要です。
代謝性アシドーシスは、アシデミアの主要な原因の一つです。この病態では、固定酸の増加または重炭酸イオンの過剰な損失により、血中HCO₃⁻濃度が一次的に低下します。
代謝性アシドーシスはアニオンギャップにより分類されます。
アニオンギャップ開大型
アニオンギャップ正常型
特に注目すべきは、SGLT2阻害薬による正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス(EDKA)の増加です。この病態では、血糖値が正常でもアシデミアを呈することがあり、見逃されやすい病態として注意が必要です。
糖尿病性ケトアシドーシスの症例報告では、アルカレミアを呈することもあり、過換気による代償機転により複雑な酸塩基平衡異常を示すことがあります。
呼吸性アシドーシスは、PCO₂の上昇により起こる病態です。主な原因には以下があります。
急性呼吸性アシドーシス
慢性呼吸性アシドーシス
混合性酸塩基平衡障害も重要な概念です。複数の病態が同時に存在することがあり、例えば。
臨床例として、敗血症性ショックでは乳酸アシドーシス(AG開大性)と同時に、下痢による重炭酸イオン喪失(AG正常性)が併存することがあります。
これらの複合的な病態を理解することで、より適切な治療方針を立てることができます。
臨床現場では、アシデミアとアシドーシスの概念を正しく理解することで、適切な治療選択が可能になります。
治療方針の決定要因
重症アシデミア(pH < 7.20)の対応
重篤なアシデミアでは迅速な介入が必要です。
代謝性アシドーシスの治療アプローチ
特殊な病態への対応
正常血糖糖尿病性ケトアシドーシス(EDKA)では。
小児の場合、乳酸アシドーシスが急性リンパ性白血病の初発症状として現れることもあり、幅広い視点での鑑別診断が重要です。
近年、重症患者でのアルカレミア(pH > 7.55)も予後不良因子として注目されており、適切な酸塩基平衡の維持の重要性が再認識されています。
患者の病態を正確に把握し、「アシドーシスの病態があるか」「実際にアシデミアになっているか」「どの程度の重症度か」を段階的に評価することで、最適な治療戦略を構築することができます。