まず大前提として、同じ名前の医療用漢方薬であれば「メーカーによる効果の差はほとんどない」とする整理が実務的です。これは、医療用漢方製剤が「日本薬局方」等の枠組みの中で製造され、処方名が同一なら目標とする処方設計が近いこと、そして臨床では“メーカー違い”よりも“患者の証・病態と服用継続”の方がアウトカムに影響しやすいことが背景にあります。
ただし、ここで誤解が生まれます。「差がほとんどない」=「完全に同じ」ではありません。同名でも、メーカーが採用している製法が一つに限定されないため、生薬成分や成分量に差が出ることがある、という点が重要です。
医療従事者が患者から「クラシエとツムラ、どっちが効く?」と聞かれたときは、次のように言語化すると説明がぶれにくいです。
ここから先は「どっちが効く」を、①処方の中身、②医療用と一般用、③剤形・服用回数、の3層に分解して見ていきます。
同名処方でも差が見えやすいのが、生薬量や構成生薬です。代表例として、葛根湯・乙字湯・当帰芍薬散の比較が提示されています。
まず葛根湯です。ツムラの葛根湯エキス顆粒と、クラシエの葛根湯エキス細粒/錠で、生薬使用量が表で示されており、粉薬同士(ツムラ顆粒 vs クラシエ細粒)ではカッコン量に大きな差があると説明されています。
現場的には、カッコン量の差は「体感(温まり方、肩こりの抜け方、発汗の出方など)の違い」として語られやすいポイントです。ただし、漢方は単味ではなく複数生薬の総合作用であり、患者の病期(悪寒が強いのか、すでに熱感が主体なのか)や体力で反応は大きく変わります。よって「カッコンが多い=必ず効く」ではなく、体質・症状に当てはめて評価する必要があります。
次に乙字湯です。ツムラ乙字湯エキス顆粒とクラシエ乙字湯エキス細粒の比較では、ショウマとダイオウの使用量に差があるとされています。
痔疾患で乙字湯を使う患者は、便秘傾向や排便時の負荷が症状を左右することが多く、ダイオウ量の差は「便通への影響」の観点で相談が出やすい領域です。一方で、下し過ぎればQOLを落とし、肛門部の刺激にもつながり得るため、症状日誌(排便回数・性状・出血/疼痛)で早めにフィードバックを得る運用が安全です。
そして当帰芍薬散です。ツムラはソウジュツ、クラシエはビャクジュツを用いており、7種類中1種類が異なると明記されています。
記事では、ソウジュツとビャクジュツの効果はどちらも「胃腸機能の改善と水分代謝の調整」と整理されています。
ここは患者説明で役立つ“実務的な翻訳”ができます。たとえば、同じ当帰芍薬散でも「むくみ・冷え・月経トラブル」を訴える患者のうち、胃もたれ・食欲不振が強い人、あるいは下痢しやすい人では、どちらの製品が継続しやすいか(体感として合うか)に差が出ることがあります。メーカー差を“効く/効かない”で断定せず、“続けやすさ・副反応の出方”で評価するのが医療安全上も現実的です。
このように、クラシエとツムラは「同名だから同じ」ではなく、「同名でも微差があり得る」ため、患者の訴えを“処方選択の再評価”につなげる姿勢が、質問に最も誠実に答える方法になります。
「ツムラ=病院」「クラシエ=ドラッグストア」というイメージで語られがちですが、実際には両社とも医療用・一般用を持ち、ここを混同すると「どっちが効く」議論が崩れます。
一般用漢方薬(OTC)は、自己選択で購入される性質上、安全性を考慮して医療用より成分量が少なく作られていることが多く、「多くが医療用の1/2〜3/4程度」と説明されています。
そのため同名処方でも、医療用→OTCへ切り替えた途端に体感が弱くなるケースは十分にあり得ますし、それを「メーカーのせい」と誤認することが起こりやすいです。
一方で、クラシエの一般用漢方薬の中には「満量処方」があり、「承認基準における最大の成分量」で作られ、パッケージに「満量処方」と記載されているとされています。
満量処方は「効果はしっかり得られるが、体質に合わなかったときの副作用が強くあらわれる可能性があるため、購入前に薬剤師や登録販売者に相談」と注意喚起されています。
ここは意外と患者が知らないポイントです。「市販だから弱いはず」と自己判断して服用を増やしたり、複数の漢方を重ねたりする前に、“満量処方かどうか”の確認を促すと、リスクコミュニケーションとして有用です。
医療従事者向けの実務メモとしては、次の確認が早いです。
臨床の“効いた・効かない”は、薬理そのものだけでなく、服薬体験に強く左右されます。ツムラは顆粒(粒が荒い)を中心に作り、クラシエは細粒や錠剤もある、という剤形の違いが説明されています。
剤形の違いは、味・においの感じ方、口腔内での滞留感、溶け方、服用時のストレスに影響し、結果的に継続率(アドヒアランス)に直結します。「同じ名前でも味やにおいの感じ方が変わる可能性がある」とされている通り、患者の“拒否反応”が少ない方を選ぶのは、実は治療戦略として合理的です。
服用回数についても差があります。医療用では、ツムラは原則1日3回で、クラシエは細粒で1日2回/3回の製品があり、錠剤は1日3回のみ、と解説されています。
忙しい患者では「昼が飲めない」が頻出なので、もし対象処方に1日2回設計があるなら、それだけで治療成績が上がることがあります(薬理ではなく運用で勝つパターンです)。
このセクションは検索上位が“成分差”に寄りやすい一方で、現場の実感に合うのはむしろ“飲み続けられる設計か”です。医師・薬剤師・看護師がチームで介入できるなら、次のような小技が効きます。
最後に、検索上位では正面から語られにくい“独自視点”として、医療安全とトリアージの話を置きます。患者は「どっちが効く?」と聞きながら、実際には「早く楽になりたい」「副作用が怖い」「病院に行くべきか迷う」という複数の不安を一つの問いに圧縮しています。ここを読み解くと、メーカー比較より先にやるべきことが見えます。
実務で役立つチェック項目は次の通りです(メーカーに関係なく共通で重要)。
そして、患者の問いを「効く」に固定しないための返し方の例を載せます。
この一言で、比較が“メーカー論争”から“患者中心の適正使用”に戻ります。
参考:ツムラ・クラシエの違い(生薬量比較、OTCは医療用の1/2〜3/4が多い、満量処方の注意点)
https://oitr.jp/media/difference-between-kampo-tsumura-and-kracie/
参考:メーカーで剤形・用量・生薬配合比が異なること、葛根湯処方が複数あることの整理
https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/zcbgs/