葛根湯は風邪の初期症状に広く処方される代表的な漢方薬ですが、近年副作用報告が増加しており、医療従事者として適切な知識が必要です。厚生労働省の副作用情報では、一般用漢方製剤において葛根湯は防風通聖散に次いで2番目に多い副作用報告数を記録しています。
葛根湯の副作用で最も頻度が高いのが薬疹・過敏症です。一般用漢方製剤の調査では、葛根湯の副作用の約46.7%が薬疹・過敏症であったと報告されています。これらの症状は以下のような特徴を示します:
主要症状
発症機序と診断
薬疹の診断には好塩基球活性化試験(BAT)が有用とされており、葛根湯による薬剤性肺障害の診断でも効果が報告されています。BATは好塩基球の活性化により細胞表面のCD203c発現量が増加することを利用した検査法で、従来のDLSTより特異度が高いことが期待されています。
対処法
カンゾウ(甘草)に含まれるグリチルリチン酸による偽アルドステロン症は、葛根湯の最も重篤な副作用の一つです。葛根湯7.5g中にカンゾウが2g含まれており、長期服用や大量摂取により発症リスクが高まります。
病態生理
偽アルドステロン症は、グリチルリチン酸が11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素2型を阻害することで、コルチゾールがミネラルコルチコイド受容体を活性化することにより発症します。これにより以下の症状が出現。
臨床症状
検査所見
ハイリスク患者
マオウ(麻黄)に含まれるエフェドリン類は強力な交感神経刺激作用を有し、様々な副作用を引き起こします。これらの症状は特に体力が中等度以上の患者で発現しやすいとされています。
循環器系症状
中枢神経系症状
その他の症状
作用機序
エフェドリンはアドレナリン受容体を直接刺激するとともに、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害することで交感神経系を活性化します。これにより心拍数増加、血管収縮、気管支拡張などの作用が現れます。
葛根湯は体力中等度以上の患者に適応される処方のため、胃腸の弱い患者では消化器症状が出現しやすくなります。
主要症状
発症要因
予防策
葛根湯による間質性肺炎は稀な副作用ですが、重篤な転帰を辿る可能性があり注意が必要です。これまでに複数の症例報告があり、好塩基球活性化試験による診断の有用性も示されています。
臨床症状
画像所見
診断と治療
注意すべき患者背景
葛根湯による間質性肺炎は、服用開始から数日から数週間で発症することが多く、早期の診断と治療介入が予後を左右します。特に咳嗽や息切れなどの呼吸器症状を訴える患者では、胸部画像検査を含めた精査を行う必要があります。
漢方薬に対する好塩基球活性化試験の偽陽性回避に関する研究
また、医療従事者として理解すべき重要な点は、これらの副作用が必ずしも用量依存性ではなく、個人の体質や併用薬、基礎疾患によって発症リスクが大きく異なることです。特に一般用医薬品として市販されている葛根湯では、患者の自己判断による不適切な使用により副作用リスクが高まる可能性があるため、適切な服薬指導が重要になります。