急性中耳炎は中耳の細菌感染症またはウイルス感染症であり、通常は上気道感染に併発します。診断には以下の3つの要素が必要です。
🔸 急性症状の発症(48時間以内)
🔸 中耳滲出液の存在
🔸 中耳炎症の徴候
小児では症状の訴えが困難なため、以下の間接的徴候に注意が必要です。
年齢別の発症頻度として、3カ月から3歳の間で最も多く、この年齢層では耳管が構造的・機能的に未熟で、耳管の角度が比較的水平であることが発症リスクを高めています。1歳までに約60%、3歳までに約80%の子どもが少なくとも1回は罹患すると報告されています。
急性中耳炎の薬物療法は、重症度と患者の年齢に応じて決定されます。日本では小児急性中耳炎診療ガイドラインに基づいた治療が推奨されています。
💊 第一選択薬:アモキシシリン
本邦における小児の急性中耳炎の第一選択抗菌薬は、ペニシリン系のアモキシシリン(サワシリン®、ワイドシリン®など)です。投与量は以下の通りです。
耐性菌が疑われる場合は高用量レジメン(125mg/kg/日を8時間毎に分割投与)を使用します。
🔄 難治例への対応
48-72時間の治療後に改善がない、または過去の治療抵抗性感染がある場合は以下を検討します。
⚠️ ペニシリンアレルギー患者への対応
第2世代・第3世代セファロスポリン系薬剤が使用されます。
治療期間は一般的に2歳未満の小児では10日間、より年長の小児では7日間が推奨されています。
急性中耳炎の治療戦略は重症度分類に基づいて決定されます。現在の診療ガイドラインでは、症状の程度と鼓膜所見から重症度を判定します。
🟢 軽症の場合
軽症例では鼓膜の軽度充血のみが認められ、強い耳痛や発熱がない状態です。この場合。
🟡 中等症の場合
中等度の鼓膜膨隆や中等度の耳痛・発熱がある状態です。
🔴 重症の場合
高度の鼓膜膨隆、強い耳痛、高熱(39℃以上)がある状態です。
症例の約80%は自然に回復しますが、症状の軽減を早め、難聴の残遺や内耳内・頭蓋内続発症の可能性を低下させるため、適切な抗菌薬治療が重要です。
近年、抗菌薬耐性菌の増加により、急性中耳炎における抗菌薬の適正使用がより重要になっています。年齢と症状に基づいた投与基準が確立されています。
📋 年齢別抗菌薬投与基準
年齢 | 耳漏 | 重度症状 | 両側性 | 片側性・軽症 |
---|---|---|---|---|
6カ月未満 | 抗菌薬 | 抗菌薬 | 抗菌薬 | 抗菌薬 |
6カ月-2歳 | 抗菌薬 | 抗菌薬 | 抗菌薬 | 抗菌薬または観察 |
2歳以上 | 抗菌薬 | 抗菌薬 | 抗菌薬または観察 | 抗菌薬または観察 |
重度症状の定義。
🔍 観察療法の条件
観察療法を選択する場合は以下の条件が必要です。
最近の研究では、症状のみならず厳格な鼓膜所見に基づいて診断した小児急性中耳炎患者において、クラブラン酸アモキシシリン投与群ではプラセボ群と比較して治療失敗が62%減少し、救済治療の必要性が81%減少したと報告されています。
⚕️ 補助療法の重要性
抗菌薬治療と併用して以下の補助療法も重要です。
急性中耳炎は適切な治療により多くの症例で完治しますが、重篤な合併症や長期的な影響について医療従事者は十分に理解しておく必要があります。
⚠️ 急性期合併症
急性乳突洞炎
中耳の炎症が乳突洞に波及し、以下の症状が出現します。
治療には抗菌薬の点滴投与が必要で、まれに手術治療(乳突削開術)が必要となります。
頭蓋内合併症
稀ですが重篤な合併症として以下があります。
これらの症状がある場合は早急な専門医への紹介が必要です。
🔄 慢性化への移行
適切な治療を行わない場合、以下への移行リスクがあります。
滲出性中耳炎
反復性中耳炎
半年間に3回以上(または1年間に4回以上)の急性中耳炎を繰り返す状態です。リスクファクターには以下があります。
📊 予後と長期管理
急性中耳炎の長期予後は一般的に良好ですが、以下の点に注意が必要です。
内耳への影響として、tympanogenic labyrinthitisという合併症も報告されており、急性中耳炎後に突発性感音難聴を呈した症例も存在します。このような稀な合併症についても認識しておくことが重要です。
急性中耳炎の適切な診断と治療により、ほとんどの症例で完全治癒が期待できますが、重症度に応じた適切な治療選択と十分な経過観察が患者の予後改善に不可欠です。
MSDマニュアル 急性中耳炎
急性中耳炎の診断基準と治療薬の詳細な投与方法について
Otitis Media - PMC
中耳炎の病態生理と治療に関する最新の知見について