耐性菌の種類と感染対策の最新動向

抗菌薬が効かない耐性菌の増加により、医療現場では深刻な院内感染リスクが高まっています。MRSAやVREなどの代表的な耐性菌の特徴から、手指衛生を中心とした感染対策まで、最新の知見を交えて耐性菌問題の全体像をわかりやすく解説します。耐性菌とはどのような脅威なのでしょうか?

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10301835/

耐性菌の種類と感染対策

耐性菌の基本知識と主要な種類
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耐性菌の定義と耐性化メカニズム

抗菌薬の効果を回避する能力を持つ細菌で、膜変化や分解酵素産生により治療を困難にする

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代表的な耐性菌の種類と特徴

MRSA、VRE、カルバペネム耐性菌など、医療現場で問題となる主要な耐性菌の特性

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感染対策と予防策

手指衛生を中心とした標準予防策と接触予防策による感染拡大防止の取り組み

耐性菌の基本的なメカニズムと発生要因

抗菌薬に対する抵抗力を持った細菌である耐性菌は、薬剤の継続使用により細菌が生存戦略として獲得する能力です。細菌は抗菌薬という「毒」から逃れるために、膜を変化させて薬剤の侵入を防いだり、排出ポンプで薬剤を外に汲み出したり、分解酵素(ベータラクタマーゼ)で薬剤を化学分解するなど、巧妙な耐性メカニズムを発達させています。
参考)https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/medicine/body/body006.html

 

耐性菌の出現には「選択圧」という現象が関与しており、抗菌薬の投与により薬剤感受性菌が減少し、耐性を持つ菌が増殖しやすい環境が形成されます。さらに厄介なことに、薬剤耐性は耐性を持たない別の細菌に伝達され、連鎖的に耐性菌が拡散していく特性があります。
参考)https://amr.jihs.go.jp/general/1-2-1.html

 

このような耐性化は自然な生物学的現象であるため、適正使用のみでは完全な防止は困難とされており、新規抗菌薬の継続的な開発が必要な状況となっています。
参考)https://www.jpma.or.jp/information/international/stop_amr/initiative/tv28hf0000002ykb-att/2505_amr.pdf

 

耐性菌の主要な種類とその特徴

医療現場で特に問題となる代表的な耐性菌として、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)があります。MRSAは院内感染の起炎菌として位置づけられ、メチシリンなどのβ-ラクタム系抗菌薬に対する多剤耐性を獲得しています。
参考)https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2016.880386/data/index.html

 

世界保健機関(WHO)が初めて公表した緊急性の高い薬剤耐性菌リストでは、カルバペネム耐性のアシネトバクター、緑膿菌腸内細菌科細菌が最も緊急性の高い「重大」区分に分類されています。カルバペネム系抗菌薬は「切り札」的存在であるため、これらの耐性菌は"スーパー耐性菌"とも呼ばれ、治療選択肢が極めて限定される深刻な問題となっています。
参考)https://answers.ten-navi.com/pharmanews/9205/

 

その他の重要な耐性菌には、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性緑膿菌、多剤耐性アシネトバクターなどがあり、それぞれ免疫力の低下した高齢者において重篤な感染症を引き起こす可能性があります。これらの耐性菌は自然環境中にも存在し、長期間の生存が可能という特徴を持っています。
参考)https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/kansenshou/other.html

 

耐性菌の感染経路と院内感染対策

耐性菌の主な感染経路は接触感染であり、ヒトからヒトへの感染はもちろん、環境中にも存在する場合があります。医療施設では、免疫力が低下した多数の患者が集団生活を送る環境であるため、感染症が広がりやすく、常に感染リスクを念頭に置いた対策が必要です。
参考)https://fukushi.saraya.com/useful-information/column-onayami/backnumber/entry-686.html

 

院内感染対策の基本となるのは標準予防策であり、血液、喀痰、排泄物、胸水などすべての体液・分泌物・傷口・粘膜を介した感染リスクを考慮する必要があります。具体的な予防策として、手洗い、手袋、ガウン、マスクの着用が重要であり、一見単純ながらこれらの対策が院内感染防止の要となります。
参考)https://news.curon.co/term/8715/

 

感染経路別の対策では、空気感染、飛沫感染、接触感染の3つを念頭に予防策を講じる必要があります。特に接触感染を起こさない多剤耐性菌であっても、個室管理、医療者の手袋・ガウン着用、専用器具の使用などの接触感染予防策を徹底することが重要です。

耐性菌の手指衛生を中心とした感染対策

感染対策の一丁目一番地は「手指衛生」であり、産科医ゼンメルワイスが約180年前に手指衛生の有効性を証明して以降、現在でも最も基本的かつ重要な対策とされています。手指衛生は「耐性菌の運び屋」となることを防ぎ、薬剤耐性菌の水平伝播を減少させる最も効果的な手段です。
参考)https://amr.jihs.go.jp/medics/2-5-2-1.html

 

WHOの手指衛生5つのタイミングでは、「患者に触れる前」「清潔・無菌操作の前」「体液曝露の後」「患者に触れた後」「患者周辺の物品に触れた後」が設定されており、それぞれ病原体の伝播防止、侵入防止、自己・環境保護といった目的があります。
通常の場面では擦式アルコール手指消毒剤による手指消毒が推奨され、手が汚染された時や汚染が疑われる時には流水と石鹸による手洗いが必要です。耐性菌対策においては、アルコールなどの通常用いられる消毒薬が有効であることも確認されています。
参考)https://amr.jihs.go.jp/pdf/201812_nursinghomes_outline.pdf

 

耐性菌サーベイランスと新薬開発の最新動向

耐性菌対策において重要な役割を果たすのが、薬剤耐性菌サーベイランスシステムです。サーベイランスの目的は自施設の状況把握とアウトブレイクの早期察知であり、感染対策チームをはじめとする部署と相談して対象菌種や内容を決定します。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.030126110530040412

 

サーベイランスでは検出状況だけでなく、ラインリスト、菌株の相同性などの情報も活用し、曝露負荷、医療獲得、感染負荷などの指標を測定することで、効果的な感染対策につなげています。医療施設では月ごとの評価を基本とし、全ての培養検体を対象として継続的な監視を実施しています。
参考)http://www.kankyokansen.org/journal/full/03305/033050183.pdf

 

新薬開発においては、AI創薬による既存薬の再評価が注目されており、古い糖尿病治療薬候補「ハリシン」が多剤耐性菌に対する新たな治療選択肢として期待されています。従来の新規抗菌薬開発に加えて、既存薬の再評価というアプローチが、薬剤耐性問題への新たな解決策として位置づけられています。
参考)https://note.com/pharma_insight/n/ne197e02ca5cd

 

現在、効果的な薬剤併用療法、遺伝子工学を応用した薬物開発、生体防御機能を高める方法などの研究が活発に進められており、多角的なアプローチによる耐性菌対策が展開されています。