マクロライド系抗生物質は、大分子量のラクトン環(マクロライド環)に中性糖またはアミノ糖が結合した化学構造を特徴とする抗生物質の総称です 。これらの抗生物質は、ラクトン環を構成する原子数によって分類され、それぞれ異なる特性を示します 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC175956/
14員環マクロライドは、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ロキシスロマイシンなどが代表的で、一般的に抗菌力が強いという特徴があります 。しかし、耐性を誘導されやすく、苦味が強く、消化器系の副作用も多いという欠点があります 。
参考)https://www.nite.go.jp/mifup/note/view/90
15員環マクロライドの代表はアジスロマイシンで、14員環に窒素を人工的に導入して開発された経緯から、アザライド(azalide)として分類される場合もあります 。16員環マクロライドには、ジョサマイシン、ロキタマイシン、ミデカマイシンなどがあり、日本では安全性を重視する観点から、これらの16員環マクロライドが汎用されてきました 。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9E%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%89%E7%B3%BB%E6%8A%97%E8%8F%8C%E8%96%AC
各マクロライド系抗生物質は、環構造の違いにより独特の薬理学的特性を持っています。エリスロマイシンは1952年に導入された最初のマクロライド系抗生物質で、Saccharopolyspora erythraea(旧名:Streptomyces erythreus)によって産生されます 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC89572/
クラリスロマイシンは、エリスロマイシンの改良型として開発され、胃酸に対する安定性と組織への浸透性が向上しています 。成人では通常1回200-400mg、1日2回の服用で、急性の細菌感染症では5日から2週間程度の投与期間が推奨されます 。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/erythromycin/
アジスロマイシンは、従来の抗菌薬と比べて著しく短い投与期間で効果を発揮し、多くの感染症では3日間の服用で十分な治療効果が得られます 。これは組織への浸透性が優れており、長時間にわたって有効濃度を保つためで、投薬終了後も数日間抗菌作用が持続します 。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/azithromycin-hydrate/
マクロライド系抗生物質は、細菌のリボソーム50Sサブユニットの23S rRNAに結合し、ペプチド転移反応を阻害することによりタンパク質合成を阻害して抗菌作用を示します 。この作用は静菌的であり、細菌の増殖を停止させることで感染の拡大を防ぎます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5573421/
具体的には、マクロライド系抗生物質が50S大サブユニットに結合することで、aminoacyl-tRNAの転位(translocation)を阻害し、ペプチド鎖の伸長を妨げます 。この独特な作用メカニズムにより、エリスロマイシンは広範囲の細菌に対して効果を発揮し、多様な呼吸器感染症の治療に活用されています 。
参考)https://www.aandt.co.jp/jpn/medical/tree/vol_2/
マクロライド系抗生物質の高い細菌リボソームへの親和性と、ほぼ全ての細菌種にわたって高度に保存されたリボソーム構造により、これらの薬剤は広スペクトラムの抗菌活性を示します 。
マクロライド系抗生物質は、β-ラクタム薬やアミノグリコシド薬では効果の低いマイコプラズマやクラミジアなどの非定型病原体に特に有効です 。マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラなどによる非定型肺炎患者に対して第一選択薬の一つとなっており、これらの病原体は通常のペニシリン系抗生物質に反応しにくいため、マクロライド系抗生物質が重要な役割を果たします 。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/post-3.html
特に若年者や学生、集団生活を送る人々に多く見られるマイコプラズマ肺炎の治療では、マクロライド系抗生物質の使用頻度が高くなります 。現在、マクロライド系以外の抗菌薬で小児のマイコプラズマ感染症への適応が認められているのはミノサイクリン(MINO)のみです 。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/clarithromycin/
しかし、近年マクロライド系薬に高度耐性化したマイコプラズマが流行しており、これらを投与しても臨床症状がなかなか改善せず、遷延化する例や入院する例も増加しています 。
参考)https://strep.umin.jp/mycoplasma/index.html
マクロライド系抗生物質耐性は、主に以下の5つの機序によって発現します:(1)マクロライド系抗生物質の標的である23S rRNAのメチル化、(2)排出タンパク質(efflux protein)によるマクロライドの排出、(3)マクロライド分解酵素による不活性化、(4)マクロライド修飾酵素による不活性化、(5)リボソームタンパク質の変異などです 。
最も重要な耐性機序は、メチル化酵素が23S rRNAの特定アデニンまたはグアニンをメチル化することにより、23S rRNAのマクロライド結合部位の構造変化を起こして、マクロライドの23S rRNAへの結合を阻害する機構です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/130/4/130_4_294/_pdf
薬剤相互作用の面では、14員環マクロライドは16員環と異なり肝代謝酵素を活性化し、チトクロームP-450と結合するという特徴があります 。特にクラリスロマイシンは肝臓のチトクロームで代謝されるため、同じ肝臓で代謝される薬剤との併用ができません 。一方、アジスロマイシンは相互作用が少なく、服用の手間も少ないという利点があります 。
参考)https://takaminedental.com/blog/blog_detail?actual_object_id=834