呼吸器感染症の症状・原因・治療と予防

呼吸器感染症は細菌やウイルスによって引き起こされる感染症で、風邪から肺炎まで幅広い症状を呈します。マイコプラズマ、インフルエンザ、RSウイルスなど多様な病原体が関与し、年齢層によって重症度も変わります。適切な診断と治療法を知ることで重篤な合併症を防げるでしょうか?

呼吸器感染症の基本的理解

呼吸器感染症の基本的理解
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感染経路

飛沫感染と接触感染により、病原体が呼吸器系に侵入して発症

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感受性人口

乳幼児と高齢者で重症化リスクが高く、基礎疾患保有者も要注意

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季節性変動

秋から冬にかけて流行し、温度変化と空気質の悪化で感染率上昇

呼吸器感染症の定義と疫学的特徴

呼吸器感染症は、ウイルスや細菌などの病原微生物が呼吸器系(鼻、喉、気管支、肺)に感染して引き起こされる疾患群です 。これらの感染症は上気道感染症と下気道感染症に分類され、症状の重症度や治療法が異なります 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/13-%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E7%B3%BB%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9/%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%80%A7%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81

 

感染経路は主に飛沫感染と接触感染で、感染者の咳やくしゃみに含まれる病原体を含む飛沫を吸い込むことで感染します 。また、病原体で汚染された手で口や鼻を触ることでも感染が成立します 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/001316015.pdf

 

疫学的には、乳幼児と高齢者で重症化リスクが高く、特に2歳未満の乳児や65歳以上の高齢者では入院が必要となる場合があります 。慢性呼吸器疾患、心疾患、免疫低下状態の患者では、より深刻な症状を呈する傾向があります 。
参考)https://www.city.hokuto.hokkaido.jp/docs/5513.html

 

呼吸器感染症の主要病原体と分類

呼吸器感染症の原因となる病原体は、その性質によって以下の3つに大別されます。

 

細菌性感染症では、肺炎球菌、インフルエンザ菌、溶血性レンサ球菌などが主要な起因菌となります 。細菌性肺炎は高熱、膿性痰、呼吸困難が特徴的で、βラクタム系抗菌薬による治療が有効です 。
参考)https://www.aiko-naika.com/respiratory/pneumonia/

 

ウイルス性感染症では、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ライノウイルスなどが代表的です 。ウイルス感染では通常、対症療法が中心となり、抗菌薬は効果がありません 。
非定型感染症は、マイコプラズマ、クラミジア、レジオネラなどによる感染で、細菌とウイルスの中間的性質を持つ微生物が原因となります 。これらの感染症では、通常の細菌性肺炎とは異なる臨床経過を示し、マクロライド系抗菌薬による治療が第一選択となります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/mycoplasma.html

 

呼吸器感染症の年齢層別発症パターン

年齢層によって、呼吸器感染症の発症パターンと重症度に明確な違いがあります。

 

小児における特徴として、RSウイルスは2歳までにほぼ全ての小児が感染し、特に6カ月未満の乳児では細気管支炎や肺炎を引き起こして入院が必要になることがあります 。マイコプラズマ肺炎は学童期から青年期に多く、年間報告例の約80%が14歳以下となっています 。
参考)https://nishiharu-clinic.com/2024/05/07/rsvirus/

 

成人・高齢者における特徴では、RSウイルス感染症は軽症で風邪様症状にとどまることが多いものの、慢性呼吸器疾患や心疾患を合併する高齢者では下気道感染を引き起こし、入院や死亡の主要な原因となります 。高齢者の肺炎では典型的な発熱や咳などの症状が乏しく、食欲低下や意欲の低下が主症状となることがあり注意が必要です 。
参考)https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/4713-dj4127.html

 

興味深いことに、最近の研究では呼吸器ウイルスと細菌の同時感染率が20~77%と非常に高いことが報告されており、従来の単独感染という概念を見直す必要があることが示唆されています 。
参考)https://eharaclinic.com/topics/post/1272

 

呼吸器感染症の症状と病型による分類

呼吸器感染症の症状は、感染部位と病原体の種類によって多様な臨床像を呈します。

 

上気道感染症型では、鼻水、くしゃみ、軽い咳、喉の痛みなどの比較的軽微な症状が中心となります 。これらの症状は通常1週間程度で改善し、重篤な合併症は稀です。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/infection/infectious-diseases/human-metapneumovirus/

 

下気道感染症型では、より深刻な症状が現れます。強い咳、膿性痰、高熱、呼吸困難が特徴的で、特に気管支炎や肺炎を合併した場合は数週間の治療期間を要することがあります 。呼吸時のゼーゼー音(喘鳴)や胸部の陥没呼吸、顔色不良などの症状が見られる場合は、酸素投与や入院治療が必要となります 。
無症候感染型も存在し、この場合は症状がほとんど出現しないため感染に気づかず、周囲にウイルスを拡散してしまう可能性があります 。特に感染初期や軽微な症状の場合、知らぬ間に感染拡大の原因となることが懸念されます。

呼吸器感染症の診断方法と最新検査技術

呼吸器感染症の正確な診断には、臨床症状の評価に加えて各種検査が重要です。

 

基本的な診断アプローチでは、発熱や咳などの症状に加えて、胸部X線検査CT検査による画像診断が行われます 。血液検査では白血球数やC反応性蛋白(CRP)値の上昇を確認し、重症度判定にはA-DROPスコア(年齢、脱水、呼吸、見当識、血圧)が使用されます 。
参考)https://www.kamimutsukawa.com/blog2/kokyuuki/3207/

 

病原体特定検査として、痰の培養検査や尿中抗原検査が実施されますが、結果が出るまでに時間を要するため、多くの場合は臨床症状と経過から推定診断により治療が開始されます 。近年では、鼻咽頭ぬぐい液を用いた迅速診断キットや多項目同時検査技術の普及により、より早期に病原体を特定できるようになっています 。
参考)https://rcc.nms.ac.jp/visit/maincare/disease06/

 

重症度評価では、呼吸回数(小児では1分間30回以上)、血中酸素濃度、意識レベルの変化などを総合的に判断します 。特に高齢者では非典型的な症状を呈することが多く、普段と異なる食欲不振や活動性の低下にも注意を払う必要があります 。
近年注目されている診断上の課題として、インフルエンザとマイコプラズマの同時感染例では、通常の治療に反応せず重篤な肺炎に進行する症例が報告されており、適切な原因菌の特定と治療法の選択が重要となっています 。
参考)https://soujinkai.or.jp/himawariNaiHifu/influenza-mycoplasma-coinfection/

 

呼吸器感染症の治療戦略と薬物療法

呼吸器感染症の治療は、病原体の種類と重症度に応じて個別化された戦略が重要です。

 

細菌性感染症の治療では、原因菌に応じた抗菌薬の適正使用が基本となります。肺炎球菌やインフルエンザ菌による細菌性肺炎では、βラクタム系抗菌薬(ペニシリン系やセファロスポリン系)が第一選択薬として使用されます 。原因菌が特定できた場合は、その菌に最も有効と考えられる抗菌薬に変更することもあります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinshumedj/56/5/56_5_229/_pdf/-char/ja

 

非定型感染症の治療では、マイコプラズマ肺炎に対してマクロライド系抗菌薬が使用されますが、近年では耐性菌の出現により他の抗菌薬(テトラサイクリン系やフルオロキノロン系)が必要になる場合もあります 。
ウイルス性感染症の治療は基本的に対症療法が中心となり、解熱剤、去痰剤、鎮咳剤などが症状に応じて使用されます 。抗菌薬はウイルスには無効であり、細菌の二次感染予防目的での投与は推奨されていません 。
参考)https://yiin.jp/%E5%91%BC%E5%90%B8%E5%99%A8%E3%81%AE%E7%97%85%E6%B0%97

 

重要な治療指針として、日本感染症学会では抗菌薬適正使用の条件を明確に定めており、3日間以上の高熱持続、膿性喀痰、扁桃肥大と白苔付着、中耳炎・副鼻腔炎の合併、強い炎症反応、高齢者や基礎疾患保有者などの条件のうち3項目以上該当する場合に抗菌薬使用を考慮するとしています 。
参考)https://www.tokunaga-cl.jp/wp-content/uploads/2023/05/%E3%81%A8%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%81%8C%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%80%80%E4%B8%8A%E6%B0%97%E9%81%93%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87-%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%97%E3%81%A6-%E3%82%B9%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%89.pdf

 

呼吸器感染症の予防対策と公衆衛生的意義

呼吸器感染症の予防は、個人レベルと社会レベルの両方での対策が重要です。

 

基本的な感染予防策として、手洗い、マスクの着用を含む咳エチケット、換気が最も効果的とされています 。帰宅時や調理の前後、食事前などのこまめな手洗い、咳やくしゃみ時のマスクやティッシュ・ハンカチでの鼻口の保護、定期的な室内換気により空気中のウイルス量を減少させることができます 。
参考)https://www.pref.gunma.jp/page/663781.html

 

ワクチン接種による予防では、新型コロナウイルス感染症、季節性インフルエンザ、肺炎球菌感染症について、重症化リスクの高い高齢者や基礎疾患保有者を対象とした定期接種が実施されています 。これらのワクチンは重症化や入院リスクを大幅に減少させる効果が証明されています。
特殊な予防的配慮として、慢性呼吸器疾患や免疫低下状態の患者では、軽微な症状でも医師の判断を仰ぐことが重要です 。また、気管支拡張症患者では二次感染により症状が長引くリスクがあるため、より厳格な感染予防策が必要となります。
近年の疫学データでは、COVID-19パンデミック後に他の呼吸器感染症の流行パターンに変化が見られており、従来の季節性から外れた流行や、複数病原体の同時感染例の増加が報告されています 。このため、継続的な疫学監視と柔軟な対応策の構築が公衆衛生上の重要課題となっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11387333/