結膜炎は「目の表面(前眼部)」の炎症ですが、原因は細菌だけでなく、ウイルスやアレルギー、薬剤毒性など幅広いことを前提に診療を組み立てる必要があります。特に「充血と眼脂のみで抗菌薬点眼を投与するべきではない」という注意喚起は、プライマリ領域でも眼科領域でも重要です。キノロン系抗菌薬点眼が“とりあえず”で選ばれる状況が続くと、薬剤耐性(AMR)対策の観点からも課題になります。
臨床で迷いやすいのは、患者が「目やにが出る=細菌」と自己判断して受診するケースです。ここで処方側が症状の訴えだけに引っ張られると、細菌性ではない結膜炎にも抗菌薬を出してしまいがちです。AMR臨床リファレンスセンターのニュースレターでは、結膜炎が常に細菌感染ではないこと、そして充血・眼脂だけで抗菌薬点眼を開始しないことが強調されています。
また、慢性結膜炎というラベルでキノロン系抗菌薬点眼が長期投与されている患者が少なくない点も、現場では一度立ち止まるポイントです。長期投与の背景に「実は別疾患が隠れている」ことがあり得るため、改善しない結膜炎は診断の棚卸し(別の原因・合併の再評価)が必要です。
参考:結膜炎での抗菌薬過剰使用、点眼が高濃度である点、充血・眼脂のみで投与しない注意点
https://amr.jihs.go.jp/pdf/20250502_press.pdf
キノロン系抗菌薬点眼は、日本では使用量が多く、適正使用の観点から「使いすぎ」が問題として取り上げられています。ニュースレターでは、わが国でキノロン系抗菌薬点眼が使われすぎていること、さらに慢性結膜炎で長期投与されやすいことが指摘されています。医療機関側が「念のため」で処方し、患者側が「効かないから続ける」という悪循環に入ると、処方の見直しタイミングを失いがちです。
重要なのは、点眼抗菌薬が“局所だから安全”という直感が、実は適正使用の判断を鈍らせることです。点眼は内服や点滴と比べてはるかに高濃度になり得るとされ、例としてレボフロキサシンでは点眼が点滴・内服の数百~千倍規模の濃度に達し得ることが示されています。高濃度は治療上のメリットにもなりますが、同時に微生物に対する選択圧が強く、耐性化の温床になり得ます。
さらに、キノロン耐性化が進むと「眼科領域では他の選択肢が少ない」ため慎重な使用が求められる、という現場感のある指摘もあります。眼科だけでなく、内科・小児科・耳鼻科などでも抗菌薬点眼が使われるため、施設全体での標準化(いつ開始し、いつ中止し、どの所見で再評価するか)が効きます。
結膜炎の鑑別で、まず現場で実装しやすいのが「眼脂の性状」の観察です。AMR臨床リファレンスセンターの資料では、アレルギー性やウイルス性では透明でサラサラした漿液性の眼脂が主体になりやすい一方、細菌性では黄色くドロドロした膿性眼脂がみられやすい、という整理が示されています。もちろん例外はありますが、問診(かゆみ、周囲の流行、家族内発症、上気道症状、コンタクト装用、薬剤使用歴)と合わせることで、抗菌薬点眼が必要な確率を上げられます。
加えて、意外に見落とされがちなのが「眼脂を採る」という基本動作です。資料では、眼脂の塗抹や培養が有用であり、塗抹では細菌の有無や菌量、好中球、貪食像などから“本当に感染が成立しているか”を判断する手がかりになるとされています。しかも眼脂採取は眼科だけの専売特許ではなく、診療所や高齢者施設でも可能で、まぶたにこぼれた眼脂を採るだけでも診断の参考になり得る、という点は現場での運用に落とし込みやすいポイントです。
ここでのコツは、抗菌薬点眼を「出す/出さない」の二択にしないことです。例えば、軽症で全身状態良好、漿液性優位、流行状況あり、という状況なら、説明を丁寧にして経過観察+必要時再診の方が、結果的に安全で合理的なケースがあります。医療従事者としては、患者の不安を下げる説明文言(なぜ今は抗菌薬が不要か、悪化のサインは何か)を準備しておくと運用が回ります。
アデノウイルス結膜炎に対して抗菌薬点眼は効果がないため、診断がはっきりしていれば必須ではない、という立場が示されています。一方で、新生児・乳幼児では細菌混合感染による重篤な角膜炎の例があるため投与を考えた方がよいこと、その場合は細菌培養も必要であることが述べられています。成人でも重症例では角膜上皮障害(糸状角膜炎、角膜上皮欠損)を合併し、二次的な角膜感染の可能性がある点、またステロイド点眼を使う場合は感染予防も含めて使用を検討する点が挙げられています。
この章で医療安全上とても重要なのは、処方した場合に「抗菌薬点眼は原因ウイルスへの治療薬ではない」ことを患者によく説明すべき、という記載です。説明が不十分だと、患者が原因療法だと誤解して未発症の家族と点眼薬を共用したり、残薬を別の機会に使用したりして、結果として感染を広げるリスクがあるとされています。これは診療の質というより、患者行動まで含めた感染対策であり、医療従事者の介入価値が高い領域です。
参考:アデノウイルス結膜炎で抗菌薬点眼が無効である点、乳幼児・重症例での例外的配慮、共用・残薬のリスク説明
https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/adenovirus04.pdf
検索上位の記事は「どの薬が効くか」「何日で治るか」に寄りがちですが、医療現場で差が出るのは“点眼という行為の設計”です。抗菌薬点眼の適否を議論しても、患者が①先端を眼に触れさせて容器を汚染する、②家族で共用する、③複数本を自己流で順番にさす、④改善しないのに惰性で続ける、といった行動をとれば、感染制御も治療評価も崩れます。つまり、処方そのものより「説明・指導の品質」がアウトカムを左右します。
実装しやすい説明の型を、医療従事者向けにまとめます(施設の運用に合わせて言い回しを調整してください)。
ここに“意外性”を足すなら、抗菌薬点眼を出さない判断でも、患者満足度を落とさない工夫ができます。例えば、漿液性優位でアレルギー疑いなら「抗菌薬を出さない理由」と「次の一手(別系統の点眼、環境対策、再診条件)」をセットで提示すると、患者は「何もされなかった」ではなく「診断に沿って整理された」と受け取りやすくなります。医療従事者向けブログなら、こうした説明テンプレートを共有するだけで、同僚や後輩の現場力に直結します。
【メモ】本記事は医療従事者向けの情報整理であり、個別患者の治療は診察所見・背景・地域の流行状況・施設プロトコルに従って判断してください。