高尿酸血症の治療において、尿酸値を適切にコントロールすることは痛風発作の予防や腎障害の改善に不可欠です。治療薬は大きく分けて「尿酸生成抑制薬」と「尿酸排泄促進薬」の2種類があります。本記事では、特に尿酸排泄促進薬に焦点を当て、その種類や特徴、副作用について詳しく解説します。
尿酸排泄促進薬は、腎臓に作用して尿酸が尿中に排泄される量を増やすことで血中の尿酸値を低下させる薬剤です。主に尿酸の排泄が低下している「排泄低下型」の患者さんに処方されることが多いのが特徴です。
尿酸排泄促進薬は、腎臓の尿細管で尿酸が血管内に再吸収されるのを阻害する作用を持っています。通常、尿酸は腎臓でろ過された後、その大部分が尿細管で再吸収されますが、尿酸排泄促進薬はこの再吸収プロセスを抑制します。その結果、尿中に排泄される尿酸量が増加し、血液中の尿酸値が低下するのです。
一般的に高尿酸血症の患者さんの約60%が排泄低下型と言われており、特にメタボリックシンドロームや腎臓病・心不全を合併している患者さんに多く見られます。そのため、これらの背景疾患を持つ患者さんには尿酸排泄促進薬が選択されることがあります。
しかし、注意すべき点として、尿酸排泄促進薬の使用により尿中の尿酸濃度が高まるため、尿路結石のリスクが増加します。このリスクを軽減するために、十分な水分摂取や尿アルカリ化薬(ウラリットなど)の併用が推奨されています。
現在、日本で使用可能な主な尿酸排泄促進薬は以下の4種類です。それぞれの特徴を比較しながら解説します。
ベンズブロマロンは長年使用されてきた尿酸排泄促進薬で、尿酸降下作用が強いという特徴があります。しかし、重篤な肝毒性が報告されたことから、世界的には使用が大幅に制限されています。
効果:尿酸降下作用が強力
用法:通常、1日1〜2回の服用
特記事項:導入後少なくとも半年間は肝機能の慎重なフォローが必要
適応:主に高血圧症を合併している患者さん、一部の腎機能低下症例
肝障害のリスクはあるものの、実際に肝障害を起こす確率は非常に低いとの報告もあります。しかし、添付文書上では導入後半年間は肝機能の慎重なフォローが必要とされているため、他の高尿酸血症治療薬が使用できない場合に処方されることが多くなっています。
プロベネシドは最も古い高尿酸血症治療薬の一つで、元々はペニシリンの効果を高めるために使われていた薬剤です。尿酸低下作用は偶然発見されました。
効果:尿酸降下作用は比較的弱い
用法:通常、1日2〜3回の分割服用が必要
特記事項:併用禁忌薬が多い
適応:現在はほとんど処方されることがない
尿酸を下げる効果が十分ではなく、その後のユリノーム(ベンズブロマロン)の登場によって、最近ではほとんど処方されることがなくなっています。また、ワルファリンやアスピリンなど、併用が難しい薬が多いという特徴もあります。
ブコロームは腎臓で尿酸の再吸収を抑制する薬剤です。
効果:尿酸降下作用は比較的穏やか
用法:通常、1日2〜3回の服用
特記事項:中毒性表皮壊死症のリスクあり
適応:現在は他の薬剤が優先されることが多い
主な副作用には、貧血、発疹、胃痛、腹痛、下痢、食欲不振、吐き気、眠気などがあります。また、重大な副作用として中毒性表皮壊死症が報告されています。
ドチヌラドは比較的新しい選択的尿酸再吸収阻害薬(SURI)です。
効果:選択的に尿酸排泄を促進する
用法:1日1回の服用
特記事項:従来の尿酸排泄促進薬より選択性が高い
適応:新規の高尿酸血症患者、他剤で効果不十分な場合
ドチヌラドは従来の尿酸排泄促進薬と比較して、尿酸のトランスポーターであるURAT1により選択的に作用する点が特徴です。これにより、尿酸特異的な効果が期待できます。
以下の表で各薬剤の特徴を比較してみましょう。
薬剤名 | 商品名 | 効果 | 服用回数 | 主な特徴 | 主な副作用 |
---|---|---|---|---|---|
ベンズブロマロン | ユリノーム | 強い | 1〜2回/日 | 効果が強い | 肝障害 |
プロベネシド | ベネシッド | 弱い | 2〜3回/日 | 古い薬剤 | 溶血性貧血、併用禁忌多い |
ブコローム | - | 中程度 | 2〜3回/日 | 穏やかな効果 | 中毒性表皮壊死症 |
ドチヌラド | ユリス | 中〜強 | 1回/日 | 選択性が高い | 一般的な副作用 |
尿酸排泄促進薬にはさまざまな副作用が報告されています。患者さんの安全な治療のためにも、これらの副作用を理解し、適切に対応することが重要です。
高尿酸血症の治療において、どの尿酸排泄促進薬を選択するかは患者さんの状態や背景疾患によって異なります。以下に、薬剤選択の主なポイントをまとめます。
高尿酸血症は「尿酸産生過剰型」「尿酸排泄低下型」「混合型」に分類されます。このうち、尿酸排泄低下型(全体の約60%)や混合型の患者さんには、尿酸排泄促進薬が理論的には適しています。しかし、実臨床では尿酸排泄促進薬の副作用リスクから、排泄低下型の患者さんにも尿酸生成抑制薬が選択されることが多いのが現状です。
尿酸排泄促進薬は他の薬剤との相互作用が多いため、服用中の薬剤を確認する必要があります。特にプロベネシドはワルファリンやアスピリンなど多くの薬剤と相互作用があります。
処方のポイントとしては、患者さんの病型だけでなく、腎機能や肝機能、併存疾患、服用中の薬剤、ライフスタイルなどを総合的に評価し、最適な薬剤を選択することが重要です。また、定期的な血液検査で効果と副作用をモニタリングし、必要に応じて薬剤の変更や用量の調整を行うことが推奨されます。
尿酸排泄促進薬による薬物治療は、適切な食事・生活習慣の改善とともに行うことで、より効果的な尿酸値のコントロールが可能になります。ここでは、尿酸排泄促進薬を服用している患者さんに特に重要な食事・生活習慣のポイントを解説します。
尿酸排泄促進薬を服用している患者さんにとって、十分な水分摂取は特に重要です。なぜなら、これらの薬剤は尿中の尿酸濃度を上昇させるため、尿路結石のリスクが高まるからです。
尿酸値を下げるための食事療法の基本は、尿酸排泄促進薬を服用している場合でも同様ですが、いくつか特に注意すべき点があります。
適度な運動と適正体重の維持は、尿酸値のコントロールに重要です。
尿酸降下薬による治療は長期にわたるため、服薬アドヒアランスの維持が重要です。
尿酸排泄促進薬による治療効果は、定期的な検査で評価します。
尿酸排泄促進薬は単独で使用されることもありますが、生活習慣の改善や他の薬剤との併用によって、より効果的な治療が可能になります。また、患者さん一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立て、定期的な評価と調整を行うことが重要です。
日本糖尿病学会誌に掲載された尿酸排泄促進薬と糖代謝に関する研究
高尿酸血症の治療において、尿酸排泄促進薬は重要な選択肢の一つです。しかし、その効果と副作用のバランス、患者さんの状態に合わせた適切な薬剤選択が治療成功の鍵となります。医療従事者として、これらの薬剤の特徴を十分に理解し、患者さんに最適な治療を提供することが求められています。