溶血性貧血は、赤血球が正常な寿命(約120日)より早期に破壊される疾患群の総称です 。赤血球の破壊(溶血)が骨髄での赤血球産生能力を上回ると、貧血が生じます 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/11-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%AD%A6%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%AD%A6/%E6%BA%B6%E8%A1%80%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%B2%A7%E8%A1%80/%E6%BA%B6%E8%A1%80%E6%80%A7%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81
溶血性貧血は大きく先天性と後天性に分類されます。先天性の場合は、赤血球膜の異常、ヘモグロビン異常、赤血球酵素欠損などが原因となります 。一方、後天性の場合は自己免疫、薬物、感染症、物理的損傷などが原因となります 。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/handout/0347/0347.html
溶血が起こる場所も重要な分類要因で、血管内溶血と血管外溶血(主に脾臓)に分けられます。血管内溶血では尿がコーラ色になり、血管外溶血では脾腫が認められることが多いです 。
溶血性貧血の症状は、主に貧血症状と溶血に特有の症状に分けられます。貧血症状としては、体のだるさ、疲れやすさ、頭痛、めまい、息切れ、動悸などが現れます 。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/entry/114
溶血に特有の症状として最も特徴的なのは黄疸です。赤血球が破壊されることでビリルビンという色素が血液中に増加し、皮膚や白目が黄色くなります 。また、ビリルビンの増加により褐色尿(茶色の尿)が見られることもあります 。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E6%BA%B6%E8%A1%80%E6%80%A7%E8%B2%A7%E8%A1%80
脾臓での溶血が進行する場合、脾臓の腫大(脾腫)が認められます 。さらに、長期間の溶血により胆石が形成されることもあります 。急性の溶血発作では、発熱や腰痛を伴うこともあります。
溶血性貧血の診断には、まず溶血の存在を証明することが重要です。血液検査では、網赤血球の増加、ビリルビン値の上昇、LDH(乳酸脱水素酵素)の高値、ハプトグロビンの低下などが特徴的な所見です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/3/107_487/_pdf
末梢血塗抹標本の観察により、球状赤血球、破砕赤血球、鎌状赤血球などの異常な形態の赤血球が確認できることがあります 。これらの形態変化は、溶血の原因を特定する重要な手がかりとなります。
溶血の原因を特定するため、直接クームス試験(抗グロブリン試験)により自己抗体の有無を調べます 。また、異常ヘモグロビン症のスクリーニングとして高速液体クロマトグラフィー(HPLC)検査が行われることもあります 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/11-%E8%A1%80%E6%B6%B2%E5%AD%A6%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%AD%A6/%E6%BA%B6%E8%A1%80%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E8%B2%A7%E8%A1%80/%E8%87%AA%E5%B7%B1%E5%85%8D%E7%96%AB%E6%80%A7%E6%BA%B6%E8%A1%80%E6%80%A7%E8%B2%A7%E8%A1%80
骨髄検査では、赤芽球の増加により代償性の造血亢進が確認できます 。腹部超音波検査により脾腫や胆石の有無を評価し、溶血の合併症を把握することも重要です 。
溶血性貧血の治療は原因に応じて決定されます。薬物が原因の場合は、まず原因薬剤の中止が最も重要です 。感染症が原因の場合は適切な抗生物質による治療が行われます 。
参考)https://maruoka.or.jp/blood/blood-disorders/hemolytic-anemia/
自己免疫性溶血性貧血では、副腎皮質ステロイド薬が第一選択薬として使用されます。特発性の温式抗体型では、約8割の患者でステロイド薬が有効です 。ステロイド薬は免疫反応を抑制し、赤血球の過剰な破壊を防ぎます 。
参考)https://www.premedi.co.jp/%E3%81%8A%E5%8C%BB%E8%80%85%E3%81%95%E3%82%93%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3/h00961/
ステロイド薬が無効な場合や副作用のため継続困難な場合は、リツキシマブ、免疫抑制剤、免疫グロブリン静注療法などが検討されます 。重症例では脾臓摘出術も選択肢となります 。
溶血性貧血では赤血球の生成に必要な葉酸が消費されるため、葉酸の補充療法も重要です 。生命に危険が及ぶ重度の貧血では、輸血による緊急処置が必要になることもあります 。
溶血性貧血の予後は原因や発症形態により大きく異なります。軽度で原因が明確な場合は治療により完治することも可能ですが、慢性的に経過する例や再発を繰り返す例もあります 。
参考)https://cloud-dr.jp/medical-navi/disease/1682/
自己免疫性溶血性貧血では、ステロイド薬や免疫抑制剤により多くの患者で改善が期待できます。しかし、再発の可能性があり長期的な経過観察が必要です 。特発性温式自己免疫性溶血性貧血の5年生存率は約80%とされています 。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=347
近年、溶血性貧血に対する新たな治療薬の開発が進んでいます。特に発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)に対しては、抗補体C5抗体エクリズマブをはじめとする補体阻害薬が劇的な効果を示しています 。
参考)https://hokuto.app/post/NPIDTrRLFECnk4ezmzhH
新世代の補体阻害薬として、投与間隔の延長や副作用軽減を目指した薬剤の開発も進行中です 。これらの治療法の進歩により、今後溶血性貧血患者の予後改善が期待されています。