乳糖分解酵素薬は、β-ガラクトシダーゼ(ラクターゼ)を主成分とする薬剤で、乳糖不耐症の治療に使用されます。この酵素は、乳糖(ラクトース)をガラクトースとグルコースの2つの単糖に加水分解する働きを持ちます。
薬効分類による区分
乳糖分解酵素薬は、産生菌種によって特性が大きく異なります。主要な産生菌種には以下があります。
ペニシリウム由来
ペニシリウム属から得られるβ-ガラクトシダーゼは、幅広いpH域で安定性を示し、胃内の酸性環境でも活性を維持できる特徴があります。
アスペルギルス由来
アスペルギルス・オリーゼから産生される酵素は、pH4.0~7.5の範囲で安定な耐酸性を示し、乳児の胃内環境に適しています。
これらの酵素は、最適温度48℃、最適pH6.5で最大活性を示しますが、実際の生体内では様々な条件下で機能する必要があります。
現在、日本国内で使用可能な主要な乳糖分解酵素薬は以下の4製剤です。
1. ミルラクト細粒50%(高田製薬)
2. ガランターゼ散50%(ニプロ)
3. オリザチーム(ヤクルト本社)
4. カラシミーゼ(鶴原製薬)
これらの製剤はいずれも白色~微黄白色の粉末状で、吸湿性があるため適切な保管が必要です。水に混濁して溶け、エタノールにはほとんど溶けない性質を示します。
乳糖分解酵素薬の適応症は多岐にわたり、以下の病態に使用されます。
一次性乳糖不耐症
二次性乳糖不耐症
以下の疾患群が含まれます。
特殊病態への適応
効果判定は通常、下痢症状の改善、便性状の正常化、体重増加の改善などで行われます。臨床試験では、治療開始から数日以内に効果が現れることが多く報告されています。
乳糖分解酵素薬の効果的な使用には、適切な投与方法と注意点の理解が重要です。
基本的な投与方法
用法・用量の考慮事項
投与量は患者の年齢、症状の重篤度、使用する製剤によって調整が必要です。一般的に、乳児では体重1kgあたり0.1~0.5gの範囲で使用されることが多いですが、個別の病態に応じた調整が重要です。
副作用への注意
主な副作用として以下が報告されています。
保管上の注意
投与時の工夫
胃内pH変動の影響を最小限にするため、食事と同時投与が推奨されます。特に乳児では、授乳のタイミングに合わせた投与が効果的です。
臨床現場での乳糖分解酵素薬選択には、患者背景と製剤特性を総合的に評価する必要があります。
製剤選択の決定因子
pH安定性による選択
ペニシリウム由来製剤(ミルラクト)は幅広いpH域での安定性に優れているため、胃酸分泌が不安定な新生児や未熟児により適している可能性があります。一方、アスペルギルス由来製剤(ガランターゼ)は酸性域での安定性が特に優れており、成熟した乳児での使用に適しています。
コストパフォーマンスの考慮
薬価の違い(ミルラクト:54.1円/g、ガランターゼ:24.1円/g)は、長期治療が必要な症例では重要な選択因子となります。特に慢性下痢症では治療期間が延長する傾向にあるため、経済的負担の軽減が患者のアドヒアランス向上に寄与します。
味覚特性と服薬コンプライアンス
ミルラクトの「スッとする甘さ」とガランターゼの「わずかに甘い」という味覚の違いは、特に離乳期の乳児での服薬継続性に影響する可能性があります。個々の患児の嗜好に応じた製剤選択が重要です。
病態特異性による選択指針
急性期治療
感冒性下痢症や急性消化不良症では、速やかな症状改善が求められるため、より高い有効率を示す製剤の選択が優先されます。臨床データからは、これらの病態でミルラクトがやや高い有効率を示す傾向があります。
慢性期管理
慢性下痢症では、長期使用における安全性と安定した効果が重要です。この場合、副作用プロファイルと薬物相互作用の少なさを重視した選択が推奨されます。
特殊環境下での使用
経管栄養や経口流動食摂取患者では、製剤の溶解性と安定性がより重要な因子となります。これらの患者では、投与後の酵素活性維持時間も考慮する必要があります。
将来的展望
近年、遺伝子組み換え技術による新規乳糖分解酵素の開発や、徐放性製剤の研究が進められており、今後の治療選択肢の拡大が期待されています。また、個別化医療の観点から、患者の遺伝子多型に基づいた製剤選択の可能性も検討されています。
臨床現場では、これらの多角的な視点から最適な製剤選択を行い、継続的な効果判定と必要に応じた変更を検討することが、良好な治療成果につながります。