プロイメンドとイメンドは、どちらも選択的ニューロキニン1(NK1)受容体拮抗型制吐剤として抗がん剤治療に伴う悪心・嘔吐の予防に使用されます。プロイメンドの一般名はホスアプレピタントメグルミンで、イメンドの一般名はアプレピタントです。プロイメンドはアプレピタントをリン酸化したプロドラッグ体であり、静脈内投与後に体内の脱リン酸化酵素によって速やかにアプレピタントに代謝されて薬効を示します。
参考)イメンドとプロイメンドの違いは?
プロイメンドは水溶性を向上させたリン酸化プロドラッグとして開発され、注射剤としての使用を可能にしました。アプレピタントは選択的にサブスタンスPとNK1受容体との結合を遮断することで、抗がん剤による悪心・嘔吐を抑制します。この作用機序は従来の制吐剤とは異なるため、5-HT3受容体拮抗薬やコルチコステロイドなど他の制吐剤と併用することで相乗効果が期待できます。
参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=2391405D1020
プロイメンドは点滴静注用製剤として、成人及び12歳以上の小児には150mgを抗悪性腫瘍剤投与1日目に1回、点滴静注します。最終容量が100~250mL(最終濃度として0.6~1.5mg/mL)となるように生理食塩液で希釈し、抗悪性腫瘍剤の投与1時間前に30分間かけて点滴静注します。一方、イメンドカプセルは経口製剤で、通常3日間服用します。
参考)医療用医薬品 : プロイメンド (プロイメンド点滴静注用15…
イメンドの投与スケジュールは、抗がん剤治療を開始する1日目に125mgカプセルを1カプセル、2日目と3日目は80mgカプセルを1カプセル服用します。1日目は抗がん剤投与開始の1時間~1時間30分前に、2日目と3日目は午前中に投与し、食前と食後のどちらでも構いません。ホスアプレピタント150mgの静脈投与は、アプレピタント285mgを3日に分けて内服したのと同等の制吐効果(非劣性)を示すことが臨床試験で確認されています。
参考)イメンドカプセルの服用方法
ホスアプレピタント150mgを30分間かけて静脈内投与した際、ホスアプレピタントは活性本体であるアプレピタントに速やかに代謝されます。健康成人でのアプレピタントの最高血中濃度(Cmax)は5,440ng/mL、AUC0-∞は59,600ng・hr/mL、消失半減期(T1/2)は14時間でした。この速やかな代謝により、プロイメンドは投与後すぐに薬効を発揮します。
参考)https://www.ono-pharma.com/sites/default/files/ja/news/press/n11_0926.pdf
アプレピタントは主としてCYP3A4によって代謝され、一部はCYP1A2及びCYP2C19によっても代謝されますが、CYP2D6、CYP2C9、またはCYP2E1の代謝は受けません。また、アプレピタント自体もCYP3A4の阻害・誘導作用及びCYP2C9の誘導作用を有するため、他の薬剤との相互作用に注意が必要です。健康成人男性に投与した際、投与後28日間で投与量の57.0%及び45.0%がそれぞれ尿及び糞中に排泄されました。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070035.pdf
プロイメンドは点滴用製剤のため、抗がん剤の点滴時に静脈ルートが確保されている場合に使用しやすく、投与が1回で済むため患者の利便性が高いという利点があります。特に、服用を忘れたりする患者や、虚弱状態または悪心・嘔吐により経口摂取が困難な患者でも確実に投与が可能です。医療現場では、イメンドの処方忘れや内服忘れを予防する目的でプロイメンドへと変更することもあります。
参考)https://www.saiseikai-hp.chuo.fukuoka.jp/patient/pdf/chiken/2014_9-2.pdf
一方、イメンドカプセルは外来化学療法で経口摂取が可能な患者に適しています。両剤ともに5-HT3受容体拮抗薬とデキサメタゾンとの併用で、高度催吐性リスクの抗がん剤に対する制吐療法として各種ガイドライン上で推奨されています。急性期の悪心・嘔吐には5-HT3受容体拮抗薬+デキサメタゾン+アプレピタントを、遅発性にはデキサメタゾン+アプレピタントを使用します。
選択的NK1受容体拮抗薬は、従来薬では効果が不十分だった遅発性の悪心・嘔吐にも有効であることが確認されています。
参考)がん化学療法における制吐療法に新たな選択肢|医師向け医療ニュ…
プロイメンド投与時の特徴的な副作用として、血管痛・血管炎があります。プロイメンド投与中の血管痛・血管炎を訴える患者が報告されており、血管刺激性による急性炎症だけでなく、遅延性の症状(血管の硬結・疼痛や色素沈着など)が長期にわたり続くことがあります。血管炎出現部位の紫外線予防や、半袖着用を避けるなどの配慮が必要となり、ボディーイメージの変調やQOLの低下を来す可能性があります。
アプレピタントを服用する場合には、コルチコステロイド、ワルファリンとの併用に注意が必要です。特に糖尿病患者の場合、アプレピタントとコルチコステロイドを併用した際にコルチコステロイドの血中濃度上昇により血糖上昇がみられることがあります。CYP3A4を阻害する薬剤(イトラコナゾール、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、リトナビル等)との併用によってアプレピタントの血中濃度が上昇する可能性があり、逆にCYP3A4を誘導する薬剤(リファンピシン、カルバマゼピン、フェニトイン等)との併用では作用が減弱するおそれがあります。5-HT3受容体拮抗薬やアプレピタントでは便秘傾向となりやすいため、抗がん剤による下痢の発生時期も考慮した排便コントロールへの配慮も必要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/joma/125/2/125_163/_pdf/-char/ja