プロドラッグ(Prodrug)は、投与されると生体による代謝作用を受けて活性代謝物へと変化し、薬効を示す医薬品として定義されています。この技術により、バイオアベイラビリティの大幅な向上が期待できます。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%83%E3%82%B0
代表的な成功例として、抗ウイルス薬アシクロビルのプロドラッグであるバラシクロビルが挙げられます。アシクロビル単体では経口生体利用率が約10~20%と低値でしたが、バラシクロビルでは約54%まで向上し、3~5倍の血中濃度到達を実現しています。
吸収改善の主なメカニズムは、脂溶性の増大による受動輸送の促進です。プロドラッグ化により管腔側から腸管組織内への取り込み過程が上昇し、同時に排出過程が受動輸送として機能することが薬物動態速度論的特徴となっています。
参考)http://cbi-society.org/cbi/journal/cbi_japr/issues/w1_12.pdf
プロドラッグは変換が行われる場所により、**タイプ1(細胞内変換)とタイプ2(細胞外変換)**に大別されます。さらに各タイプはサブタイプA・Bに細分化され、治療標的と変換場所の関係により分類されています。
タイプ1Aは治療目的の組織・細胞内で変換されるもので、ジドブジンやフルオロウラシルが該当します。タイプ1Bは肝臓・肺などの代謝組織で変換され、カプトプリルやシクロフォスファミドが代表例です。
タイプ2は細胞外での変換が特徴で、タイプ2Aは消化物中(スルファサラジン)、タイプ2Bは体循環中(フォスフェニトイン)での変換が行われます。この分類により、標的部位に応じた最適なプロドラッグ設計が可能となっています。
プロドラッグの重要な目的の一つは、副作用・毒性の軽減です。特にがん治療における化学療法薬では、プロドラッグ戦略により**標的への薬物選択性向上(ターゲティング)**が実現されています。
参考)https://answers.ten-navi.com/dictionary/cat07/2927/
低酸素状態のがん細胞を標的とするプロドラッグでは、還元活性化メカニズムを利用します。がん細胞内の多量の還元酵素を活用し、プロドラッグを細胞毒性型へ変換することで、健康な正常細胞への影響を著しく軽減できます。
ターゲティング機能を持つプロドラッグは、がん細胞周辺の新生血管の特殊な構造を利用します。薬物に分子を付加して適切なサイズに調整することで、正常血管は通過できないが、がん細胞周囲の新生血管のみを通過できる特性を持たせています。
参考)https://www.kango-roo.com/learning/601/
プロドラッグの活性化には、様々な代謝酵素が関与しています。主要な代謝経路として、加水分解酵素による変換が最も一般的です。
加水分解によるプロドラッグ例として、オセルタミビル(タミフル)→オセルタミビルカルボキシレート、エナラプリル→エナラプリラート、バラシクロビル→アシクロビルなどがあります。これらはエステル加水分解酵素により活性代謝物に変換されます。
P450酵素による代謝では、コデイン→モルヒネ(CYP2D6による脱メチル化)、リスペリドン→パリペリドン(CYP2D6による水酸化)などが知られています。DOPA脱炭酸酵素による変換例としては、レボドパ→ドパミンの経路が代表的です。
現代のプロドラッグ設計では、従来の物理化学的パラメーター改良に加えて、膜輸送体(トランスポーター)を活用した分子・細胞レベルでの標的化が重要視されています。
参考)http://www.mdpi.com/1420-3049/19/10/16489/pdf
トランスポーター介在型プロドラッグは、特定の輸送体を認識するよう設計され、腸管透過性の向上と特異的酵素による活性化を両立させています。この approach により、キャリア介在輸送による腸管透過性増強が実現されています。
溶質キャリア(SLC)タンパク質ファミリーは400以上のメンバーを持つ最大の膜輸送体群であり、プロドラッグの標的送達において重要な役割を果たしています。トランスポーター基質をナノ粒子に化学結合させる技術も、標的化と薬物送達改善の新しい手法として注目されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9919865/
プロドラッグ戦略と膜輸送体の組み合わせにより、生体利用率とターゲティング効果の同時向上が可能となり、次世代の薬物送達システムとしての発展が期待されています。