リツキサン(リツキシマブ)の最も特徴的な副作用であるinfusion reaction(IR)は、投与後30分から2時間以内に発現する急性期の副作用です。発現頻度は初回投与時に約90%と極めて高く、症状は発熱、悪寒、血圧低下、頻脈、喘息様症状、皮疹など多岐にわたります。
IRの発現機序は主に サイトカイン放出症候群 によるものと考えられており、リツキシマブがCD20陽性B細胞に結合することで細胞破壊が起こり、大量のサイトカインが放出されます。この反応は、患者の性別やリンパ球数と有意に関連していることが報告されており、特に男性や末梢血リンパ球数が高い患者でIRの発現頻度が高くなる傾向があります。
重篤なIRでは、肺浸潤、急性呼吸困難症候群、心筋梗塞、心室細動、心原性ショックなどの生命に関わる症状が出現し、約80%が初回投与後24時間以内 に発生します。これらの重篤な反応により死亡に至った症例も複数報告されており、医療従事者は投与中の厳重な監視が必要です。
リツキサン投与により、AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P、総ビリルビン等の肝機能検査値の上昇を伴う肝機能障害や黄疸が出現することがあります。特に注意すべきは B型肝炎ウイルスの再活性化 で、HBs抗体陽性患者でも投与後にB型肝炎を発症した症例が報告されています。
B型肝炎ウイルスキャリアの患者では、リツキシマブ投与により劇症肝炎または肝炎の増悪による肝不全が発現し、死亡に至った症例も確認されています。さらに、投与開始前にHBs抗原陰性であった患者でも、B型肝炎ウイルスによる劇症肝炎で死亡した例があるため、投与前の肝炎ウイルス検査は必須 です。
対策として、投与前に必ずB型肝炎ウイルス感染の有無を確認し、陽性患者には適切な前処置を行います。また、投与中は定期的な肝機能検査と肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを実施し、異常が認められた場合は直ちに投与を中止して適切な処置を行う必要があります。
リツキサンは強力な免疫抑制作用を有するため、細菌、真菌、ウイルスによる重篤な感染症(敗血症、肺炎等)の発現頻度が41.4%と高率です。特に懸念されるのは、JCウイルスの再活性化による 進行性多巣性白質脳症(PML) の発症で、稀ながら致命的な合併症として知られています。
感染症のリスクは、リツキシマブ投与後1-20週後に特に高くなる傾向があり、重篤な感染合併症により入院を要する患者も多数報告されています。シクロホスファミド(IVCY)との併用時には、さらに感染症リスクが増大するため、細心の注意が必要です。
感染症管理の要点として、投与前の 感染症スクリーニング を徹底し、活動性感染症がある患者への投与は禁忌となります。投与中は定期的な血液検査による白血球数、好中球数の監視を行い、発熱や感染徴候が認められた場合は速やかに抗菌薬治療を開始します。患者への感染予防指導も重要で、手洗いの徹底、人混みの回避、生ワクチンの接種禁止などを説明します。
リツキサン投与により、Stevens-Johnson症候群やtoxic epidermal necrolysis(TEN)などの 重篤な皮膚粘膜障害 が出現し、死亡に至った例が報告されています。これらの皮膚症状は、高熱(38℃以上)、目の充血、口や唇のただれ、水ぶくれなどの特徴的な症状を呈します。
また、投与後7-14日後に発現する 血清病様症状 も重要な副作用の一つで、発熱、皮疹、関節痛の三徴候が特徴的です。この症状は遅発性の過敏反応として位置づけられ、アナフィラキシーとは異なるメカニズムで発症します。
早期発見のポイントとして、投与後の皮膚状態の継続的な観察が重要です。特に口腔粘膜、眼球結膜の変化に注意を払い、軽微な皮疹でも急速に進行する可能性があるため、患者および家族への 症状説明と報告指導 を徹底します。重篤皮膚症状が疑われた場合は、直ちに投与を中止し、皮膚科専門医との連携のもと、ステロイド全身投与などの緊急治療を開始します。
リツキサンの安全な投与には、段階的投与速度調節 が重要です。初回投与では副作用の発現を監視しながら、最初の30分は50mg/hで開始し、問題がなければ30分ごに50mg/hずつ増量し、最大400mg/hまで調節します。2回目以降の投与では、前回投与時に重篤な副作用がなく、末梢血リンパ球数が5000/μL未満の場合、90分間投与も可能となります。
前投薬プロトコール として、投与30分前にアセトアミノフェン(解熱鎮痛剤)とd-クロルフェニラミン(抗ヒスタミン薬)の経口投与を行います。重篤なIRリスクが高い患者では、メチルプレドニゾロンなどのステロイド前投薬も併用します。
投与中の モニタリング体制 では、30分毎のバイタルサイン測定(血圧、脈拍、呼吸数、体温)を実施し、自他覚症状の観察を継続します。特に投与開始後2時間以内は最も注意深い監視が必要で、IRが発現した場合は直ちに投与を中断し、抗ヒスタミン薬の追加投与やステロイド治療を行います。症状改善後は、より低速での投与再開を検討できますが、重篤な反応が認められた場合は投与中止を決定します。
これらの対策により、リツキサンの副作用リスクを最小限に抑制し、安全で効果的な治療の提供が可能となります。医療従事者は、各患者のリスク因子を適切に評価し、個別化した投与計画と監視体制の構築が求められます。