サルコペニア診断基準2025年最新AWGS改訂と臨床実践

2025年11月に改訂されたAWGS2025のサルコペニア診断基準を徹底解説。身体機能が除外され、50〜64歳の新カットオフ値が追加された変更点を医療従事者向けに詳しく説明します。あなたの現場はもう対応できていますか?

サルコペニア診断基準2025(AWGS2025)の変更点と臨床実践

歩行速度が遅い患者でも、握力と筋肉量が正常なら今後はサルコペニアと診断できません。


AWGS2025 3つのポイント早わかり
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診断基準がシンプルに変更

身体機能(歩行速度など)が診断必須項目から除外。「低筋力+低筋肉量」の2点だけで確定診断が可能になった。

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50〜64歳への適用拡大

中年層に対しても年齢別カットオフ値が新設。男性34kg未満・女性20kg未満の握力が新たな評価基準。

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BMI補正カットオフ値の追加

身長補正(SMI)に加え、BMI補正(ASM/BMI)が新設。日本人のようにBMI24以上の場合でも低筋肉量を正確に評価できる。


サルコペニア診断基準はなぜ2025年に改訂されたのか:AWGS改訂の背景

2025年11月4日、アジアサルコペニアワーキンググループ(Asian Working Group for Sarcopenia:AWGS)は、新しいサルコペニア診断基準「AWGS 2025」を老年学分野のトップジャーナルであるNature Agingに発表しました。前回のAWGS2019から実に6年ぶりの改訂です。一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会も「今後のサルコペニアの診断には、AWGS 2019ではなくAWGS 2025を使用してください」と明示しており、医療現場での速やかな切り替えが求められています。


今回の改訂の大きな背景には、2024年に発表された国際的な研究グループ「Global Leadership Initiative in Sarcopenia(GLIS)」のコンセンサス論文があります。GLISは「身体機能の低下はサルコペニアの構成要素ではなく、サルコペニアによって引き起こされるアウトカムである」という新しい概念的定義を提唱しました。この考え方がAWGS2025の根幹に採用されたことで、診断構造が大きく見直されることになりました。


さらに、日本を含むアジア各国での高齢化が加速する中、従来の65歳以上を対象とした基準だけでは対応が不十分という認識が高まっていました。筋肉量・筋力の低下は実際には50代から始まることが複数のコホート研究で確認されており、より早期から介入できる枠組みの必要性が議論されてきた経緯があります。


また、単なる診断基準の更新にとどまらず、AWGS2025では「Muscle Health(マッスルヘルス)」という概念的フレームワークが前面に打ち出されています。これは筋肉を単なる運動器官としてではなく、マイオカイン分泌を通じた代謝調節や、脳・骨・免疫系との相互作用を担う「全身的な健康の要」として位置づける考え方です。


つまり今回の改訂は、診断基準の変更という以上に、サルコペニア診療全体のパラダイムシフトを意味しています。


一般社団法人日本サルコペニア・フレイル学会 「新しいサルコペニアの診断基準(AWGS 2025)のお知らせ」:診断基準の速やかな切り替えが推奨されている一次情報源
https://www.jasf.jp/pdf/revision_20251111.pdf


サルコペニア診断基準2025の最大の変更点:身体機能(歩行速度)が診断項目から除外

AWGS2025で最も注目すべき変更は、歩行速度などの「身体機能」が診断の必須項目から除外されたことです。これは臨床現場に直接関係する、非常に重要な変更です。


AWGS2019では、「低筋肉量+(低筋力 または 低身体機能)」という条件でサルコペニアと診断していました。つまり、歩行速度が0.8m/秒未満といった身体機能の低下だけでも、筋肉量が低ければ診断が成立していたのです。しかしAWGS2025では、診断は「低筋力+低筋肉量」の2点に絞られました。身体機能はサルコペニアの「結果として現れるアウトカム指標」として位置づけられるようになっています。


これは現場実務に大きな影響を与えます。




























診断要素 AWGS2019 AWGS2025
低筋肉量 必須
低筋力(握力) 必須(身体機能との択一) 必須
身体機能低下(歩行速度など) 診断基準(択一) アウトカム指標(除外)
重症サルコペニア分類 あり 廃止


この変更に伴い、「重症サルコペニア」という診断カテゴリも廃止されました。歩行速度が遅いという所見があってもそれはアウトカムであり、診断の根拠とはならない、ということですね。


一方で、身体機能評価はリハビリテーションや予後予測において引き続き重要な指標です。評価そのものをやめるべきではなく、その位置づけが「診断基準」から「経過や効果の評価指標」に変わったと理解することが臨床的に正確です。握力と筋肉量が正常でも歩行速度が低下している患者は、身体機能の改善を目標とした介入を継続すべきでしょう。


身体機能除外の根拠となったGLISコンセンサス論文(2024年)の詳細については、以下の一次情報が参考になります。


https://jacs-org.jp/awgs2025update/(日本サルコペニア・フレイル学会理事による解説)


サルコペニア診断基準2025の新設項目:50〜64歳カットオフ値と年齢別握力基準

AWGS2025のもう一つの大きな変更は、50〜64歳の中年層に対してサルコペニア診断の枠組みが初めて設けられたことです。これまでAWGSの診断基準は65歳以上を対象としていましたが、今回の改訂で診断対象年齢が大幅に引き下げられました。


新しく設定されたカットオフ値は以下の通りです。


































指標 年齢 男性 女性
握力(筋力) 65歳以上 <28kg <18kg
握力(筋力) 50〜64歳(新設) <34kg <20kg
SMI(身長補正・BIA) 65歳以上 <7.0 kg/m² <5.7 kg/m²
SMI(身長補正・BIA) 50〜64歳(新設) <7.6 kg/m² <5.7 kg/m²


注目すべきは、50〜64歳の握力カットオフが65歳以上よりも高く設定されている点です。中年期の方が筋力の余力があるため基準値を高めに設定しており、「60歳でも握力34kgを下回れば要注意」という具体的な判断軸が生まれました。これは使えそうです。


握力34kgというのはどれくらいの力感でしょうか? 市販の2Lペットボトル約17本分を片手で持ち上げる力に相当します。日常的には強い握力に見えますが、50代の男性としては「低筋力」のラインになるということです。


これらのカットオフ値は、アジア人コホート研究の統合データを用いて下位20パーセンタイルを基準として設定されたものであり、エビデンスに基づいた数値です。また、今回の改訂では50歳未満の入院患者についても、50〜64歳のカットオフ値を応用してサルコペニアの可能性を評価することが推奨されています(医学書院・医学界新聞2026年3月号・若林秀隆氏寄稿より)。これは「基準年齢以下でもリスクがあれば積極評価する」という実践的な姿勢を示すものです。


中年層へのサルコペニア評価拡大の背景と臨床的意義については以下が詳しい。


https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2026/3583_07(若林秀隆・東京女子医科大学教授による解説、医学界新聞)


サルコペニア診断基準2025のBMI補正(ASM/BMI):肥満患者の過小評価を防ぐ新視点

AWGS2025で新たに追加されたもう一つの重要な評価軸が、四肢骨格筋量をBMIで補正した指標「ASM/BMI」です。従来のSMI(四肢骨格筋量÷身長²)に加えて、BMI補正カットオフ値が並列で使用できるようになりました。


なぜBMI補正が必要なのか、その理由は日本人の体型特性にあります。


日本人ではBMIが24以上になると、身長の2乗で補正した従来のSMIでは低骨格筋量と診断されるケースがほとんどなくなってしまいます。これは体脂肪が多くBMIが高い場合、筋肉の絶対量も多くなりやすいため、身長補正だけでは「実は筋肉が少ない」状態を見逃してしまうことを意味します。肥満を伴うサルコペニア(サルコペニア肥満)が過小評価されやすかった、ということですね。


BMI補正(ASM/BMI)のカットオフ値は以下の通りです。


































測定法 年齢 男性 女性
DXA(BMI補正) 65歳以上 <0.73 <0.52
DXA(BMI補正) 50〜64歳(新設) <0.80 <0.55
BIA(BMI補正) 65歳以上 <0.83 <0.57
BIA(BMI補正) 50〜64歳(新設) <0.90 <0.63


SMIとASM/BMIのどちらか一方でカットオフ以下であれば、低筋肉量と診断できます。これにより、一見して体格の良い患者でも「筋肉の量が不十分な状態」を正確に評価できるようになります。


生活習慣病と筋量低下が重なりやすい中高年の患者層、特に内臓脂肪型肥満を持つ糖尿病や高血圧の患者などでは、今後はBMI補正の評価も積極的に取り入れることが重要です。日常診療では、BIA法を用いた体成分分析装置(InBodyなど)がBMI補正値を自動算出できる場合があるため、機器の対応状況を確認してみることをおすすめします。


サルコペニア診断2025のスクリーニング手順と現場での実装:「指輪っかテスト」から確定診断まで

AWGS2025では、診断アルゴリズムそのものもわかりやすく整理されました。スクリーニングから確定診断までの流れを理解しておくことは、日々の臨床に直結する実践知です。


診断の流れは大きく「スクリーニング→評価(握力)→確定診断(筋肉量)」の3ステップです。



  • 🔍 ステップ1:スクリーニング — 下腿周囲長(男性34cm未満・女性33cm未満)、SARC-F(4点以上)、SARC-CalF(11点以上)、指輪っかテスト(異常)のいずれかで該当した場合、評価へ移行する。今回の改訂で「指輪っかテスト」が正式にスクリーニング項目として追加されたことは注目に値する。

  • 💪 ステップ2:筋力の評価(握力測定) — ハンドダイナモメーターで握力を測定。年齢別カットオフ以下なら「サルコペニアの可能性あり」と判断。この時点でBIA/DXAによる筋肉量測定が困難な場合も、運動・栄養介入を先行させることが推奨されている。

  • 📐 ステップ3:筋肉量の評価(DXAまたはBIA) — 四肢骨格筋量を測定し、身長補正またはBMI補正のカットオフ値と照合する。低筋力+低筋肉量が確認されればサルコペニアと確定診断する。


スクリーニングのセッティングはプライマリケア・予防医療の現場と、急性期〜慢性期の医療現場で手順が異なります。プライマリケア現場では65歳以上(またはMuscle Healthに懸念のある50〜64歳)を対象に、危険因子の有無でスクリーニングへ移行します。急性期医療現場では、身体機能低下・体重減少・認知機能障害・繰り返す転倒・栄養不良・慢性疾患(心不全・COPD・糖尿病・CKD)といった臨床的状態がある場合に評価を開始します。


実臨床でよく直面する「DXAやBIAが使えない」という状況についても、若林秀隆氏(東京女子医科大学)の解説では明確なアドバイスがあります。筋肉量測定が困難なケースでは、臨床推論に基づいて原因を推定し、運動と栄養の介入を先行させることが推奨されています。また、意識障害などで握力測定自体が困難な場合は、下腿周囲長(男性34cm未満・女性33cm未満)を目安に「サルコペニアの疑い」として介入を開始するというアプローチが現実的です。


さらに独自の視点として補足したい点があります。AWGS2025ではWHOのICOPE(高齢者のための統合ケア)の枠組みとの統合が明示されており、「基本的評価→詳細な評価→個別化されたケアプランの作成→実施・モニタリング→再評価」という一連のサイクルの中でサルコペニア管理を行うことが推奨されています。これは、サルコペニア診断が孤立した検査ではなく、包括的な健康管理の一環として位置づけられることを意味しており、多職種連携の重要性が改めて強調されています。


また2025年には「サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025」も新たに発刊されており、診断後の栄養・食事介入のエビデンスが整理されています。診断と介入を一体で捉えるための重要な補助資料として活用できます。


AWGS2025のスクリーニングと診断アルゴリズムの詳細(日本サルコペニア・フレイル学会公式サイト内)。
https://jacs-org.jp/awgs2025update/


InBodyを用いたBIA法によるSMI・ASM/BMIの測定活用事例(AWGS2025対応の評価ツール紹介)。
https://www.inbody.co.jp/topic-awgs2025/


サルコペニア診断基準2025の臨床的インパクト:「Muscle Health」フレームワークと今後の診療方針

AWGS2025の論文タイトル自体が"A focus shift from sarcopenia to muscle health"(サルコペニアからMuscle Healthへの焦点の移行)と冠されているように、今回の改訂はサルコペニア診療の根本的な方向転換を宣言するものです。


「Muscle Health(マッスルヘルス)」とは、単に筋肉量が多いことではありません。年齢・性別に応じた最適な筋力と筋量に加えて、神経筋情報伝達の効率性、ミトコンドリア機能の健全性、タンパク質代謝のバランス、そして筋肉が分泌するマイオカインを介した脳・骨・脂肪組織・免疫系との相互作用まで含む、包括的な筋肉の健康状態を指します。


つまり、筋肉はもはや「動力器官」ではなく「内分泌器官」としての役割が重視されています。


この考え方が臨床実践に与えるインパクトは大きく、以下の3点にまとめられます。



  • 🧠 診断に依存しない予防的介入の推奨 — AWGS2025では、診断がついていなくても50歳から有酸素運動・レジスタンストレーニング・適切な栄養摂取を開始することがMuscle Healthの促進として推奨されています。「サルコペニアではないから介入不要」という従来の考え方は通用しなくなりました。

  • 🏥 入院関連サルコペニアへの早期対応 — 入院中の患者は急速にMuscle Healthが悪化しやすく、「入院関連サルコペニア」のリスクが特に高いとされています。入院後早期からのリハビリテーション・栄養・口腔ケアの三位一体的な連携が、AWGS2025でも強く推奨されています。

  • 🔁 継続的な評価・モニタリングの組み込み — ICOPEフレームワークに基づき、一度評価して終わりではなく、ケアプランの実施後に再評価を行うサイクルが標準化されます。握力や体成分の経時的な変化を追うことが、Muscle Health管理の核心となります。


医療従事者として今すぐ取り組めることは、まず自施設のサルコペニア評価がAWGS2025に対応しているかを確認することです。特に「歩行速度のみを根拠にサルコペニア診断を行っていた」「65歳未満を評価対象外としていた」「SMIのみでBMI補正を行っていなかった」という3点は、今回の改訂で直接修正が必要になる実務ポイントです。これが条件です。


また今回改訂されたAWGS2025も、診断基準は概ね5年ごとに見直されてきた歴史があります。今後さらに更新が予定されるため、日本サルコペニア・フレイル学会や関連学会の公式情報に定期的にアクセスする習慣を持つことが、質の高い診療維持のための最低限の実践といえます。


サルコペニア・フレイルに関する栄養管理ガイドライン2025や、デジタルヘルスガイドラインに関する情報は、日本サルコペニア・フレイル学会の公式サイトで確認できます。


https://www.jasf.jp/index.html(一般社団法人 日本サルコペニア・フレイル学会 公式サイト)