甘草を1日3g含む炙甘草湯を、他の漢方と併用すると偽アルドステロン症の発症リスクが11%超に跳ね上がります。meiekisakomentalclinic+1
炙甘草湯(ツムラ64番・シャカンゾウトウ)の公式効能は「体力がおとろえて、疲れやすいものの動悸、息切れ」です。 虚弱タイプの患者が対象であり、実証(体力充実)の患者には基本的に不向きです。ngskclinic+1
適応の典型像は以下の通りです。
参考)ツムラ 炙甘草湯 エキス顆粒(医療用) 64 効能効果・弁証…
東洋医学的には「心気・心血・心陰の不足(心虚)」による脈の乱れとして捉えます。 気血陰液を補うことで心臓の機能を高め、乱れた脈を整える「復脈」作用が期待されます。
参考)https://ashitano.clinic/medicine/2375/
炙甘草湯の別名は「復脈湯」。これが基本です。
古典『傷寒論』に由来する処方であり、脈が弱く飛ぶ「結代脈」に対する処方として2000年以上前から記録が存在します。現代の循環器内科でも活用されており、医療従事者にとって知っておく価値の高い漢方薬のひとつです。
参考)炙甘草湯(シャカンゾウトウ):ツムラ64番の効能・効果、副作…
参考として、適応・効果・弁証論治を詳しく確認できる専門ページ。
炙甘草湯の効果、適応症、生薬解説(ngskclinic.com)
炙甘草湯(ツムラ64番):シャカンゾウトウの効果、適応症
ツムラ64番の生薬は9種類で構成されています。 それぞれの役割を整理すると以下の通りです。
| 生薬名 | 主な働き |
|---|---|
| 炙甘草(シャカンゾウ) | 滋養強壮・脈を整える(主薬) |
| 人参(ニンジン) | 気を補い体力を回復させる |
| 大棗(タイソウ) | 滋養・精神安定 |
| 地黄(ジオウ) | 血を補い潤す |
| 麦門冬(バクモンドウ) | 体液補充・肺・心を潤す |
| 阿膠(アキョウ) | 血を補い潤す |
| 麻子仁(マシニン) | 腸を潤し便通を助ける |
| 桂皮(ケイヒ) | 体を温め気をめぐらせる |
| 生姜(ショウキョウ) | 温め・気の流れを促進 |
ここで特筆すべきなのが、主薬の「炙甘草」の含有量です。 炙甘草湯1日量(9g)に含まれる甘草量は約3gとされており、これは多くの漢方製剤の中でも高い部類に入ります。
参考)炙甘草湯(ツムラ64番):シャカンゾウトウの効果、適応症
甘草3gが条件です。
参考)https://medical.tsumura.co.jp/products/064/pdf/064-tenbun.pdf
一般に甘草1日2.5gを超えると偽アルドステロン症の発症リスクが上昇するとされており、炙甘草湯はその閾値をすでに超えた量を含んでいます。 胃腸が虚弱な患者では地黄の影響で食欲不振・下痢が起きることがあるため、消化器症状の出現にも注意が必要です。nishijinhp+1
参考:甘草含有量と偽アルドステロン症の発症頻度に関する文献(愛媛大学)
https://www.m.ehime-u.ac.jp/school/community.med/wp-content/uploads/2016/06/20160404.pdf
医療従事者が特に注意すべき副作用が「偽アルドステロン症」です。 甘草に含まれるグリチルリチン酸が体内のカリウム代謝に干渉し、低カリウム血症・血圧上昇・浮腫を引き起こします。
偽アルドステロン症の発症頻度は甘草の1日投与量に比例して増加します。
炙甘草湯(甘草3g)を葛根湯(甘草2g)など他の甘草含有漢方と併用した場合、1日甘草摂取量は5g以上になり、リスク区分が大きく上昇します。 痛いですね。
特に60歳以上の高齢者が30日以上連用した場合、低カリウム血症と偽アルドステロン症の発症が著しく増加するというデータがあります。 高血圧治療薬(利尿薬など)を服用中の患者も、低カリウム血症を増悪させるリスクがあるため要注意です。
参考)https://yakushi.pharm.or.jp/FULL_TEXT/126_10/pdf/973.pdf
定期的な血清カリウム値と血圧のモニタリングが必須です。
実際に、漢方薬の重複処方が見落とされがちな外来環境では、患者が複数の診療科からそれぞれ漢方薬を処方されているケースがあります。処方確認時には他院・他科からの漢方薬使用歴を必ず聴取する習慣をつけると、こうしたリスクを回避しやすくなります。
参考:偽アルドステロン症に関するツムラの安全性情報(2024年版)
https://medical.tsumura.co.jp/sites/default/files/resources/pdf/products/safety/PSA.pdf
循環器内科領域における炙甘草湯の選択は妥当とされていますが、効果発現までに3週間以上かかることが多いとされています。 速効性を期待する急性期には向かず、慢性的な虚弱性不整脈や動悸の長期管理に適した処方です。
参考)https://www.skillup-mt.jp/wp-content/uploads/2023/02/kanpo_041_01.pdf
効果が出るまでの期間の目安は以下の通りです。
意外ですね。 西洋薬の抗不整脈薬と比較すると即効性は劣りますが、副交感神経の関与が乏しい虚弱性の不整脈に対しては第一選択として検討できます。
ただし、すべての発作性心房細動に効くわけではありません。 実際に、開心術後の発作性心房細動に対して炙甘草湯1ヶ月内服で改善がなく、腹診で胸脇苦満と臍傍悸を認めたため柴胡加竜骨牡蛎湯に変更したところ著効した症例が報告されています。 証(しょう)を丁寧に評価することが、漢方薬選択の精度を上げる鍵です。
同様の動悸・不整脈に使われる漢方との鑑別ポイントは以下の通りです。
参考:循環器内科領域での漢方薬の使い方(専門医向けPDF)
https://www.skillup-mt.jp/wp-content/uploads/2023/02/kanpo_041_01.pdf
添付文書上の用法は「成人1日9.0gを2〜3回に分割し、食前または食間に経口投与」です。 食前・食間が指定されている理由は、空腹時のほうが生薬成分の吸収率が高まるためとされています。
これが原則です。
服薬指導で見落とされやすいのが「水以外での服用」の問題です。 ジュース・牛乳・お茶などで服用すると、含有成分への干渉によって効果が減弱するおそれがあります。水またはぬるま湯での服用を患者に徹底して伝えることが重要です。
参考)動悸や不整脈に効果的!炙甘草湯(シャカンゾウトウ)の効能と副…
外来での服薬指導で盛り込むべきポイントをまとめます。
実証タイプ(体力充実、食欲旺盛、のぼせが強い)への投与は症状を悪化させる可能性があります。 漢方初心者の医療従事者が陥りやすいのが「動悸=炙甘草湯」という図式的な処方選択で、証の確認を怠ると効果不十分どころか胃腸症状や偽アルドステロン症が先に出てしまうケースがあります。
つまり証の確認が最優先です。
炙甘草湯が「効かない」と感じた場合は、証が合っていない可能性を最初に疑うことが、適切な処方変更への近道です。患者の腹診・脈診を含めた東洋医学的評価を再確認するか、専門の漢方医へのコンサルトも選択肢に入れましょう。
参考:HOKUTOによるツムラ炙甘草湯エキス顆粒の薬剤情報(医師向け臨床支援アプリ)
https://hokuto.app/medicine/7MUQesedXGxAUpE2DDYp