骨密度が正常でも、ステロイドを使えば骨折する可能性があります。
2023年8月、日本骨代謝学会より『グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023』が発刊されました。旧版の「ステロイド性骨粗鬆症の管理と治療ガイドライン2014年改訂版」から実に9年ぶりの改訂となります。
まず注目すべきは、名称の変更です。以前は「ステロイド性骨粗鬆症」という表現が用いられていましたが、エストロゲン由来の病態も含まれてしまうことや、海外での標準表記に合わせる目的から、今回より「グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(GIOP:Glucocorticoid-induced osteoporosis)」に統一されました。名称が変わっただけでなく、内容の充実度も大幅に増し、旧版が約8ページだったのに対し、2023年版は約150ページにまで増量しています。2〜3分でさっと読めた8ページ時代とは、情報の密度が桁違いです。
| 変更項目 | 2014年版 | 2023年版 |
|---|---|---|
| 名称 | ステロイド性骨粗鬆症 | グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症(GIOP) |
| ページ数 | 約8ページ | 約150ページ |
| 第一選択薬 | アレンドロネート・リセドロネートを明記 | 第一選択薬の明記なし |
| 推奨薬 | 主にビスホスホネート | BP・抗RANKL抗体・テリパラチド・エルデカルシトール・SERM |
| 定期評価 | 骨密度測定 | 骨密度測定+胸腰椎X線(6ヶ月〜1年に1回) |
GIOPは副作用の中で頻度が高く、GCを3ヶ月以上使用した患者の30〜50%に脊椎・大腿骨・橈骨などの骨折が生じると報告されています。それにもかかわらず、ガイドラインを準拠している内科医は10%未満という実情は見過ごせません。本ガイドラインは骨粗鬆症専門医だけでなく、GCを処方するすべての科の医師を対象として作成されている点も、重要なポイントです。
参考リンク:GIOPの基礎知識と2023年ガイドラインの概要(日本骨代謝学会)
日本骨代謝学会「グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症について」
治療を開始すべき患者を適切に見極めるために、ガイドラインはスコアリングシステムを採用しています。経口GCを3ヶ月以上使用中または使用予定の18歳以上の患者が対象となり、4つの危険因子を点数化します。合計が3点以上になれば薬物療法の開始が推奨されます。
| 危険因子 | 条件 | 点数 |
|---|---|---|
| 既存骨折 | あり | 3点 |
| 年齢 | 50歳未満 | 0点 |
| 50〜64歳 | 1点 | |
| 65歳以上 | 2点 | |
| GC投与量(PSL換算 mg/日) | 5mg未満 | 0点 |
| 5〜7.5mg未満 | 1点 | |
| 7.5mg以上 | 2点 | |
| 骨密度(%YAM) | 80%以上 | 0点 |
| 70〜80%未満 | 1点 | |
| 70%未満 | 2点 |
重要なのは、このスコアリングシステムには骨密度を測定しなくても薬物療法を開始できるケースがある点です。65歳以上の患者に対してはそれだけで年齢2点が確定し、PSL換算7.5mg/日以上の使用者であればGC投与量でさらに2点加算されます。つまり65歳以上でPSL 7.5mg/日以上を使用するケースでは、骨密度測定を待たずにGC開始と同時に骨粗鬆症治療薬を始めることが原則です。
骨密度が条件です。しかし、見落としがちな点があります。GIOPは「骨の質」の劣化が本質であり、骨密度が正常域(%YAM 80%以上)であっても骨折リスクが上昇することが明らかになっています。日本人データでは、プレドニゾロン換算1mg/日の使用でも骨折率が有意に増加すると報告されており、「少量だから安全」という思い込みは危険です。PSL換算で7.5mg/日以上を使用する場合、脊椎骨折の相対危険度は約5倍に跳ね上がります。
また、ガイドライン2023ではGC開始時に胸腰椎X線を必ず撮影することが推奨されています。GIOPで最も骨折が多い部位は椎体であり、胸椎にも高頻度に生じる点が原発性骨粗鬆症との違いです。腸腰椎Xpに加え、胸椎側も忘れず確認することが必要です。その後は骨密度測定+胸腰椎X線を6ヶ月〜1年に1回の間隔でフォローします。
2023年版ガイドラインでは、以下の5つの薬剤カテゴリが推奨されています。2014年版ではアレンドロネートとリセドロネートを「第一選択薬」として明記していましたが、今回の改訂では各薬剤を直接比較したランダム化比較試験(RCT)が存在しないことを理由に、第一選択薬の表記が撤廃されました。
ビスホスホネート(BP)はエビデンスレベルA・推奨度1・同意度9.0という最高評価を維持しており、GIOPの標準治療として依然として重要な位置を占めます。リセドロネートについては、椎体骨折予防効果に新たなエビデンスが加わり、若年者においてもアルファカルシドール単独と比較して骨密度増加に優れることが示されています。特に推奨度が高い製剤です。
一方でビスホスホネートには、内服方法が煩雑であること、使用3〜4年以降に効果が減弱すること、胃腸障害などの問題点もあります。つまりBPだけで対応すればよいという状況ではなくなっています。
活性型ビタミンD薬については、エルデカルシトールがアルファカルシドールよりも骨密度増加効果において優れるというRCTが示されたことから、活性型ビタミンD薬の中ではエルデカルシトールが最も推奨される選択肢と位置付けられています。またSERMに関しては、閉経後女性で骨密度上昇効果は認められるものの、骨折予防の明確なエビデンスは現時点では不十分であり、推奨度は相対的に低めです。
参考リンク:GIOPガイドライン2023の概要と推奨薬剤(ケアネット)
CareNet「ステロイド処方医は知っておきたい、グルококルコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023」
2014年版ガイドラインでは、テリパラチド(遺伝子組換え型・酢酸塩型)や抗RANKL抗体デノスマブは推奨度Cと低く評価されていました。意外ですね。しかし2023年版では、これらの薬剤のエビデンスが大幅に蓄積されたことで、状況が大きく変わっています。
椎体骨折予防効果の比較において、デノスマブと遺伝子組換えテリパラチドはビスホスホネートよりも優れた効果を示すことが複数のRCTで確認されています。特に骨折リスクが高い重症GIOPの症例では、遺伝子組換えテリパラチドの使用が推奨されており、ビスホスホネートよりも骨密度増加や骨折予防効果が強いとの報告があります。これが使えそうです。
ただし、コスト面の考慮が必要です。テリパラチド(フォルテオ・テリボン)は高額薬剤であり、患者の医療費負担が大きくなる場合があります。処方を検討する際は、骨折リスクの高さと経済的負担のバランスを考慮したうえで判断することが求められます。投与期間はテリパラチドで24ヶ月が上限となっており、投与終了後には逐次療法(ビスホスホネートやデノスマブへの切り替え)が必要です。
テリパラチドとデノスマブが前面に出てきている印象は、2014年版と比べると明確に変化した点です。今後のエビデンス次第では、骨折リスク高例ではこれらがファーストチョイスになる時代が来るかもしれません。
ガイドライン委員長の田中良哉氏(産業医科大学)は、GIOP管理が世界中で問題になっている背景として、現場医師に根強い5つの誤解を指摘しています。厳しいところですね。これらは日々の診療で陥りやすい思い込みであり、医療従事者として一度立ち止まって確認する価値があります。
特に誤解②は重要です。「PSL換算5mg/日以下なら安心」と思っている医師は少なくありませんが、日本人のデータではPSL換算1mg/日の使用でさえ骨折率が有意に上昇しています。PSL換算でGC投与量が1mg/日増加するごとに骨折リスクが3.8%上昇するという日本のデータもあり、「少量だから管理不要」という判断は根拠を欠きます。
GIOPの骨折管理で特に重要なのが、「椎体骨折の見落とし」です。椎体骨折の多くは無症候性であり、背部痛がないからといって骨折がないとは言えません。GC開始時の胸腰椎X線撮影を忘れずに行い、定期的にフォローすることで初めてGIOP管理が成立します。「半年に1回の骨密度+胸腰椎X線」が条件です。原疾患の治療でレントゲン撮影を行う際には、ついでに骨の状態にも目を向ける習慣をつけることが現実的な対策になります。
ビスホスホネートは適切に使用すれば骨折を90%減らすことができるというエビデンスもあります。管理さえ徹底すれば、大部分の骨折は予防可能なのです。GCを処方するすべての医師が本ガイドラインを理解し、骨粗鬆症予防を診療の「当然の一部」として組み込むことが求められます。
参考リンク:GIOPスコアリング・推奨薬剤・管理のまとめ(医療専門情報)
m3.com「グルコルチコイド誘発性骨粗鬆症ガイドライン2023を一覧に追加」
2023年版ガイドラインの重要な特徴のひとつとして、高齢者・小児・妊娠希望年齢の患者・手術周術期など、特殊な集団に対しての推奨文が新たに追加された点があります。これは2014年版にはなかった視点です。
高齢者については、GC開始と同時に骨粗鬆症治療薬を開始することが推奨されています。65歳以上はスコアリングで自動的に2点となり、PSL 5mg/日以上でさらに1〜2点が加算されるため、骨密度を測定する前から薬物療法を始めるべきケースが多数存在します。高齢者に対するGC処方は「骨粗鬆症治療薬をセットで考える」が基本です。
小児(18歳未満)については、ゾレドロネートの静注製剤において5〜17歳の患者でZスコアの増加率が高いことが示されており、成長期においても骨密度管理が重要です。成長過程の骨にGCが与える影響は成人以上に長期的なダメージをもたらすリスクがあります。
妊娠希望年齢の女性については、催奇形性の懸念からビスホスホネートの長期使用には慎重な姿勢が求められます。ただし現時点では明確な催奇形性の証拠があるわけではなく、リスクと利益を個別に評価することが重要です。
周術期においても、GCを使用している患者が手術を受ける場合には術前から骨粗鬆症の状態を把握しておく必要があります。手術後の骨折・遅延癒合リスクが高まるため、整形外科と連携した骨管理が望まれます。いいことですね。それぞれの患者背景に合わせた個別対応が、2023年版の目指す新しいGIOP管理の姿と言えます。