YAM値が80%以上でも、あなたの患者は骨折リスクゼロではありません。
YAM(Young Adult Mean:若年成人平均値)とは、骨密度が生涯で最も高い時期にある若年成人の平均骨密度を100%としたときの、患者自身の骨密度の割合です。測定部位によって基準年齢が異なる点は、意外と見落とされがちです。腰椎では20〜44歳が基準年齢となる一方、大腿骨近位部では20〜29歳と、より狭い範囲に設定されています。
この違いは数値に直接影響します。つまり基準年齢が違うということですね。
日本骨代謝学会・日本骨粗鬆症学会が定める「原発性骨粗鬆症診断基準(2012年改訂版)」では、脆弱性骨折のない症例に限り、以下のカットオフが基本となっています。
| YAM値 | 判定 | Tスコアの目安 |
|---|---|---|
| 80%以上 | 正常 | −1.0以上 |
| 70〜79% | 骨量減少(骨減少症) | −1.0〜−2.5 |
| 70%未満 | 骨粗鬆症 | −2.5以下 |
重要なのは、この表はあくまで「脆弱性骨折のない場合」の基準であるという点です。脆弱性骨折がある場合には切り替わります。椎体骨折または大腿骨近位部骨折の既往があれば、骨密度値のいかんにかかわらず骨粗鬆症と確定診断されます。また上腕骨近位端・橈骨遠位端などその他の脆弱性骨折がある場合は、YAM値が80%未満であれば骨粗鬆症と診断されます。骨折の部位が診断閾値を変える、これが原則です。
現場では「70%のラインさえ超えていれば問題なし」と早合点するケースも見受けられますが、骨折歴の聴取とその部位の確認がなければ正確な診断には至りません。問診の精度が基準の適用を左右します。
YAM値は日本独自の評価指標です。これは重要な事実です。
世界標準(WHO基準)はTスコアを用いており、骨密度が若年成人平均(YAM相当)から何標準偏差(SD)離れているかを数値で示します。Tスコアが−2.5以下で骨粗鬆症、−1.0〜−2.5で骨量減少、−1.0以上で正常という区分が国際的に用いられています。
一方のYAM値は、パーセント(%)で表現するため患者さんへの説明がしやすく、「若いときの骨密度の何割に相当するか」という形で直感的に伝えられる利点があります。YAM70%はTスコア約−2.5SDとほぼ同等とされていますが、換算は完全に一致するわけではありません。
医療従事者として理解しておきたいのは、同じDXA装置の結果シートにYAM値とTスコアが併記されることが多く、どちらで患者に説明するかを意識的に選ぶ必要がある点です。どちらを使うかが問題です。
たとえばYAM値では75%という「グレーゾーン」が、Tスコアに換算するとおよそ−1.8〜−2.0SD程度に相当し、骨量減少(オステオペニア)の範疇となります。この段階でFRAX(10年骨折確率計算ツール)を活用して治療開始の是非を判断するという流れが、2015年版ガイドラインから採用されています。
FRAX®のカットオフは主要骨粗鬆症性骨折の10年確率15%以上とされており、YAM値が70%を超えていてもFRAX値が15%以上なら薬物療法開始の検討対象になります。YAM値の数字だけで判断しない姿勢が求められます。
腰椎DXAの結果には、いくつかの注意すべき落とし穴があります。これは見落とされがちです。
最も代表的なのは、変形性脊椎症(腰椎OA)による偽高値の問題です。加齢に伴って腰椎に骨棘形成や椎間板の石灰化が生じると、DXAで測定される骨密度値が実際より高く計算されます。特にL3・L4での変化が顕著なため、L2-4のYAM平均値が引き上げられ、本来は骨量減少レベルの患者が「正常」と判定されてしまうケースが存在します。
具体的には、L1が61%・L2が64%であるのにL3が84%・L4が90%を示す症例では、L1-4平均が75%前後となり一見「骨量減少」程度に見えます。しかし実際の骨密度はL1-2の約63%、つまりほぼ骨粗鬆症域です。痛いですね。
このため、GEヘルスケアなどDXAメーカーが推奨する現在の評価手順では、椎体ごとのYAM値のばらつきを確認し、OAや椎体骨折がある椎体を除外した上で代表値を再算出することが求められています。OA椎体の除外が原則です。
大腿骨では股関節OAのある側のFemoral neckが偽高値になることがあります。また麻痺や骨折既往のある側は廃用性骨萎縮が生じて骨密度が低くなりますが、逆側しか測定していない場合は見逃しになります。両側大腿骨の測定が理想ですが、実施できる施設は限られているのが現状です。放射線技師との連携が不可欠です。
GEヘルスケア:知っておきたい骨密度測定の基本とピットフォール(医療従事者向け解説)
骨強度はYAM値(骨密度)だけで決まりません。これは見落とされがちな事実です。
現在の定義では、骨強度は「骨密度(約70%)+骨質(約30%)」によって規定されています。骨質とは、骨の微細構造(コラーゲン架橋の質・骨梁の配列)や骨代謝回転の速さ、微小骨折の有無などを指します。骨質が骨折リスクを左右します。
特に注目されているのが糖尿病患者です。2型糖尿病では骨密度が維持されていても骨折リスクが高いことがJstageの論文などでも報告されており、その原因としてAGEs(終末糖化産物)によるコラーゲン架橋の劣化(いわゆる「悪玉架橋」の増加)が挙げられています。HbA1cが高い患者でYAM値が80%以上であっても、長期の血糖コントロール不良歴があれば骨折リスクを過信しないことが重要です。
慢性腎臓病(CKD)も同様です。CKDに伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)では、二次性副甲状腺機能亢進症や活性型ビタミンD欠乏が重なることで、YAM値に反映されない骨強度低下が起こることがあります。骨代謝マーカーの確認が条件です。
TBSは2015年頃から徐々に注目されてきた指標で、腰椎のDXA画像データを追加解析するだけで取得でき、骨密度が正常でも骨質が低い患者の拾い上げに有用とされています。意外ですね。
日常業務でYAM値の結果だけを見て「問題なし」と片付けてしまうのではなく、患者の基礎疾患(糖尿病・CKD・ステロイド長期使用歴など)と骨代謝マーカーを組み合わせた包括的な評価が、現場での実践的なアプローチとなります。骨代謝マーカーの組み合わせが鍵です。
YAM値の基準を正しく理解したうえで、次に問われるのは「いつ薬物療法を始めるか」という判断です。結論は複数の条件が絡み合います。
「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」に基づくと、薬物療法開始の主な基準は以下のとおりです。
| 状況 | 薬物療法開始の目安 |
|---|---|
| 椎体・大腿骨近位部骨折あり | 骨密度によらず開始 |
| その他の脆弱性骨折あり+YAM<80% | 開始 |
| 脆弱性骨折なし+YAM<70% | 開始 |
| 脆弱性骨折なし+YAM 70〜80% | FRAX®で10年骨折確率が15%以上なら開始検討(75歳未満) |
| 大腿骨近位部骨折の家族歴あり | YAM 70〜80%でも開始検討 |
つまりYAM値が70%を超えていても、複数の骨折リスク因子が重なる患者では治療開始の対象となりえます。数値だけが判断基準ではないということですね。
FRAX(www.sheffield.ac.uk/FRAX)は無料のウェブツールで、年齢・体重・身長・既往骨折・喫煙・飲酒・ステロイド使用・関節リウマチ・二次性骨粗鬆症の有無・大腿骨近位部骨折の家族歴の10項目を入力することで、10年以内の主要骨粗鬆症性骨折確率と大腿骨近位部骨折確率が算出されます。骨密度値(DXA)がなくても試算できるため、DXAが施設にない場合でも初期スクリーニングに活用できます。FRAXは無料です。
治療の目標はYAM値で70%(Tスコア−2.5SD)を超えることとされており、特に重症例ではこの目標に達するまでに数年〜十数年単位の継続治療を要することもあります。長期治療の継続率向上には、治療前後のDXA結果を患者に見せながら「骨密度の変化」を可視化することが有効とされています。患者の理解が継続率に影響します。
地域のDXA保有施設をリスト化し、病診・診診連携の仕組みを整えることも、骨粗鬆症診療の質向上に直結します。長崎県では2023年にDXA利用可能な医療機関リストを作成し、骨粗鬆症「DXA難民」の解消に取り組んだ事例があります。連携体制の構築が骨折予防につながります。
旭化成ファーマ「骨検」:骨粗鬆症リスクチェックとFRAX活用の解説