骨密度が「正常」でも、腰椎椎体骨折を起こした患者の約3割は骨密度が正常範囲内というデータがあります。
骨強度(骨の強さ)は、骨密度と骨質という2つの要因で決定されることが、日本骨粗鬆症学会のガイドラインでも明記されています。具体的な内訳は「骨密度が70%、骨質が30%」とされており、骨密度だけを見ていても全体の強さは把握できないことになります。
骨密度が正常でも骨折する、という臨床上の矛盾はここに原因があります。例えば、腰部椎体骨折を起こした患者を調べた国内のデータでは、腰椎骨密度が正常範囲(YAM≧70%)であったにもかかわらず骨折を認めた症例の割合が31.7%に上ると報告されています。つまり、3人に1人は「骨密度正常」であっても骨折していた、ということです。
これが問題になるのは、骨密度のみの評価では「骨質の劣化」を見逃してしまうからです。骨質とは、骨の微細構造・骨代謝回転・骨基質の石灰化度・骨梁の連結性などの総体であり、加齢だけでなく糖尿病や長期ステロイド使用によっても著しく低下します。
鉄筋コンクリートを例に考えると理解しやすいです。同じ本数の鉄筋を使っていても、材質が「強い鋼」か「錆びた鉄」かで強度はまったく変わります。骨密度は「鉄筋の本数」に相当しますが、骨質は「鉄筋の材質」に相当するわけです。骨密度の測定だけでは不十分、という認識が原則です。
医療従事者として患者に骨粗鬆症リスクを正確に伝えるためには、この「骨密度+骨質」という2軸の評価を意識することが欠かせません。
参考:骨強度と骨密度・骨質の関係性について詳しく解説しています。
骨の強さ(骨強度)は、骨の量と骨の質で決まる|千船病院整形外科
骨密度測定には複数の方法があり、それぞれ目的・精度・適応場面が異なります。医療現場で代表的なのはDXA法(二重エネルギーX線吸収法)・QUS法(定量的超音波測定法)・MD法(微小濃度測定法)の3つです。
DXA法は、2種類の異なるエネルギーのX線を骨に照射し、骨と軟部組織の吸収率の差から骨密度を算出する方法です。腰椎・大腿骨近位部など骨折リスクの高い部位を直接測定でき、再現性・精度ともに優れています。日本骨粗鬆症学会の診断基準2011年版でも「骨粗しょう症の診断・治療効果判定に最も適した方法」と位置づけられており、臨床現場での骨折リスク評価・治療モニタリングにはこの方法が推奨されます。被ばく量は一般X線撮影と比べて極めて少なく、患者への負担も低いです。
QUS法は超音波をかかとや脛の骨に当て、音波の速度・減衰を測定することで骨の硬さを推定する方法です。放射線被ばくがなく、小型機器での実施が可能なため、健診・スクリーニングには向いています。ただし、骨密度の精度はDXA法に劣り、骨粗しょう症の「確定診断」や「治療効果の評価」には使用できないとされています。つまりQUS法は入口の検査です。
MD法は、手の中手骨などをX線撮影してアルミニウム板の濃度と比較することで骨密度を評価する方法です。一般的なX線装置を利用できるため導入ハードルが低い半面、腰椎・大腿骨などの重要部位を直接測定できないため、治療効果の変化を検出するには適していません。
以下に、3つの測定方法を比較した表を示します。
| 測定方法 | 測定部位 | 診断・治療評価 | スクリーニング | 被ばく |
|---|---|---|---|---|
| DXA法 | 腰椎・大腿骨など | ✅ 推奨 | ✅ 可能 | 極めて少量 |
| QUS法 | かかと・脛 | ❌ 不適 | ✅ 向いている | なし |
| MD法 | 手の中手骨 | ⚠️ 限定的 | ✅ 可能 | 少量 |
これは使えそうです。測定方法の選択は、目的によって明確に分けるのが基本です。QUSやMD法で「問題なし」と言われていた患者が、DXA法で詳しく再検した結果、治療方針が大きく変わるケースが少なくないことも覚えておきましょう。
参考:DXA法・QUS法・MD法の違いと各測定法の特徴を詳しく解説しています。
骨粗しょう症検査ガイド:DXA法・QUS法・MD法の違い|つじもと整形外科クリニック
骨密度(BMD)だけでは捉えられない骨質の評価を可能にする指標として、近年注目されているのがTBS(Trabecular Bone Score:海綿骨微細構造スコア)です。スイスのMedimaps Group社が開発したソフトウェアで、DXA装置で撮影した腰椎の画像データをテクスチャー解析し、骨梁の連結性・骨梁数・骨梁間隙などの指標と相関するスコアを算出します。追加の検査や装置が不要という点も大きな利点です。
日本国内のリファレンス値では、TBSの若年成人平均値は1.488(標準偏差0.070)とされており、1.310以上が「高値(正常)」、1.230〜1.310が「中間値(部分的劣化)」、1.230未満が「低値(劣化)」と分類されています。骨密度のTスコアとは独立した指標であり、骨密度が同値でもTBSの高低によって骨折リスクが異なることが示されています。
MANITOBA Studyでは50歳以上の女性3万名を5年間追跡した結果、TBSはBMDとは独立した骨折予測因子であることが確認されており、「TBSはBMDに加えて少なくとも30%多くの骨折患者を捕捉する」という重要な報告があります。また、TBS低値の骨量減少患者(骨密度は骨粗しょう症診断未満)が、TBS高値の骨粗しょう症患者と同程度の骨折リスクを示すケースもあることから、骨密度のみによる層別化には限界があることが改めて浮き彫りになっています。
2型糖尿病患者やステロイド長期使用患者では、骨密度が正常または骨量減少の範囲内であっても骨質が著しく劣化しているケースが多く、TBSが特に有用とされています。これらの患者において骨折リスクを過小評価するリスクがある、ということですね。
ISCD(国際骨密度測定学会)2023年版公式ポジションでも、TBSは「閉経後女性の椎骨・股関節骨折リスク評価」および「50歳以上男性の股関節骨折リスク評価」において有用と位置づけられており、DXA法と組み合わせた評価が推奨されています。
参考:TBSの概要から臨床活用例・国際ガイドラインの動向まで詳しくまとめられています。
Trabecular Bone Score(TBS)の概要|GE HealthCare Japan(国保野上厚生総合病院 松本先生監修)
骨強度の測定値から得た骨密度(BMD)と骨質(TBS)のデータを、臨床的な治療判断に直結させるためのツールとして、WHO開発の「FRAX®(骨折リスク評価ツール)」があります。FRAXは、大腿骨頸部のBMD値と12の臨床的危険因子(年齢・性別・体重・喫煙・飲酒・ステロイド使用・骨折既往・家族歴など)を組み合わせて、今後10年間に主要骨粗鬆症性骨折が発生する確率を計算するシステムです。40歳以上を対象に使用でき、日本語版は日本骨粗鬆症財団のサイトから利用できます。
日本のガイドラインでは、75歳未満においてFRAXによる10年骨折確率が15%以上の場合に治療対象と判断する目安が設けられています。これは国内で実際に治療を受けている患者の骨折確率が約15%であったデータに基づいており、臨床的に整合性のある閾値とされています。75歳以上については、ほぼ全例が15%を超えてしまうため、FRAXの適用範囲を超えることになります。骨折リスク評価には期限があります。
さらに、TBSをFRAXと組み合わせた評価(FRAX-TBS調整)も国際的に採用が進んでいます。FRAXとTBSを組み合わせることで、骨密度の値では捉えきれない骨質の悪化を補正した10年骨折確率を算出でき、糖尿病・グルcocorticoid使用患者など「骨密度単独では骨折リスクを過小評価しやすい患者群」に対して特に有効です。
医療現場で骨折リスクを見逃さないためにやるべきことは1つ:DXA法でBMDとTBSを同時に取得し、FRAX入力データと組み合わせて患者ごとの10年骨折確率を算出する、というフローを標準化することです。この評価を行うことで、「骨密度は正常だが治療が必要な患者」を見逃すリスクを大幅に低減できます。
参考:FRAXを用いた骨折リスク評価の詳細と日本における活用方法が解説されています。
骨強度の測定において特に注意が必要なのは、原発性骨粗鬆症(加齢・閉経に伴うもの)だけでなく、「続発性骨粗鬆症」のケースです。続発性とは、基礎疾患や薬剤の影響によって二次的に骨強度が低下する状態であり、骨密度測定だけでは見落とされやすいリスクをはらんでいます。
代表的な続発性骨粗鬆症の原因は以下のとおりです。
これらの患者では、骨密度検査で「正常」と出ても骨折リスクを過小評価してはいけません。続発性骨粗鬆症が疑われる場合はTBS評価の追加や、骨代謝マーカー(BAP・TRACP-5b・NTXなど)の活用も検討する必要があります。
骨強度の測定頻度については、骨粗鬆症治療開始後は半年ごとのDXA法再検が推奨されており、治療を受けていない骨量減少患者でも1〜2年に1回の定期測定が望ましいとされています。1年に1回は確認が基本です。
治療効果のモニタリングに際しては、同一機器・同一測定部位でのフォローアップが誤差を最小限にする上で重要です。異なる施設の異なる機器で測定した結果を単純比較するのはデータの解釈を誤らせる可能性があるため注意が必要です。
参考:骨粗鬆症の診断・測定頻度・続発性骨粗鬆症の評価基準について詳しく解説されています。
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版(日本骨粗鬆症学会)PDF