CKD-MBD診療ガイドライン管理目標値治療

慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の診療において、適切な管理目標値の設定と治療戦略はどのように行うべきでしょうか?

CKD-MBD診療の基本理解

CKD-MBD診療のポイント
🔬
疾患概念の理解

2006年に提唱された全身性疾患概念で、骨・血管・生命予後に影響

📊
管理目標値の設定

Ca、P、PTHの適切な管理が心血管合併症予防の鍵

🎯
個別化医療の実現

患者背景に応じた治療戦略で予後改善を目指す

CKD-MBDの定義と診断基準

慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD:Chronic Kidney Disease-Mineral and Bone Disorder)は、2006年に提唱された疾患概念で、従来の腎性骨異栄養症の概念を大幅に拡張したものです。CKD-MBDは、CKDの進展に伴って進行するミネラル骨代謝異常の総称であり、心血管合併症などを介して生命予後に悪影響を与える全身性疾患として位置づけられています。

 

CKD-MBDの診断は、以下の3つの要素のうち一つ以上を含むものと定義されています。

  • 生化学的異常:カルシウム(Ca)、リン(P)、副甲状腺ホルモン(PTH)、ビタミンD代謝の異常
  • 骨病変:骨代謝回転、石灰化、体積、線維化、成長の異常
  • 血管石灰化:血管や他の軟組織の石灰化

特に注目すべきは、eGFRによる腎機能に見合ったCa、P、PTHの異常がある場合、診断は比較的容易ですが、例えばPTHが高値でも腎機能に比してCaが高めでPが低い場合は原発性副甲状腺機能亢進症を疑うなど、他疾患の合併も考慮する必要があります。

 

日本人CKD患者を対象とした大規模研究では、活性型ビタミンD製剤の投薬を受けていないステージ3~5のCKD患者1,814例の解析において、1,25(OH)2D3濃度の減少(22 pg/mL以下)とintact PTH濃度の上昇(65 pg/mL以上)はeGFR 60 mL/分/1.73 m²以下のCKD患者で認められ、血清P濃度の上昇(4.6 mg/dL以上)はeGFR 40以下のCKD患者で認められました。

 

CKD-MBD管理目標値の設定

CKD-MBDの管理において、血清カルシウム、リン、PTH値を目標範囲に適切に管理することが治療の核心となります。現在のガイドラインでは、透析患者と保存期腎不全患者で異なる管理目標値が設定されています。

 

透析患者の管理目標値

  • リン(P):3.5~6.0 mg/dL
  • カルシウム(Ca):8.4~10.0 mg/dL
  • インタクトPTH:60~240 pg/mL

保存期腎不全患者の管理目標値

  • 各基準値が管理目標値として設定

治療の優先順位として、P>Ca>PTHの順で治療することが推奨されています。これは血清リン値の上昇が特に生命予後に与える影響が大きいためです。

 

しかし、個々の患者の状況に応じて、より厳格な管理が必要な場合もあります。例えば、血管石灰化が強い患者では、リン値が基準値内であっても5.0 mg/dL以下を目指すことがあります。このような個別化アプローチは、長期予後が見込める患者において特に重要です。

 

日本透析医学会による『慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の診療ガイドライン』は2012年に発表されたものであり、今後の改訂が予定されています。2024年の日本透析医学会学術集会では、新しいガイドラインで患者の背景に合わせた診療の実現を目指すユーザーフレンドリーな内容になることが発表されました。

 

CKD-MBD治療アプローチ

CKD-MBDの治療は、リン吸着薬、ビタミンD受容体作動薬、そしてcalcimimeticsを駆使し、ガイドラインの推奨する管理目標範囲を達成することが基本となります。

 

リン管理の重要性
血清リン濃度の上昇に応じて生命予後は不良となることが複数の研究で報告されており、CKD-MBD治療における最重要項目として位置づけられています。CKD患者において、血清P濃度が高いと腎機能障害が進行し、生命予後は不良となるため、血清リン値を基準値内に保つことが強く推奨されます。

 

二次性副甲状腺機能亢進症の治療
CKD-MBDの重要な病態である二次性副甲状腺機能亢進症に対しては、活性型ビタミンD製剤による治療が基本となります。FGF23(線維芽細胞成長因子23)は、保存期腎不全のCKD-MBDの病態において初期から生じ、CKD-MBD発症の指標になると考えられています。血中FGF23濃度高値である保存期腎不全患者は腎予後・生命予後が悪化することが明らかにされており、「予後不良のbiomarker」としてだけでなく、「予後不良のpathogenic factor」として注目されています。

 

薬物療法の実際
CKD患者では使用に注意が必要な薬剤があり、腎機能に応じた薬剤選択と用量調整が重要です。特に腎排泄型薬剤の使用には十分な注意が必要で、定期的な腎機能評価に基づく投薬管理が求められます。

 

食事療法と栄養管理
CKD患者の食事療法と栄養管理は、リン制限を中心とした栄養指導が重要な役割を果たします。適切な蛋白質摂取量の維持とリン摂取の制限のバランスを取ることが、栄養状態の維持と CKD-MBD進行抑制の両立に必要です。

 

CKD-MBD骨折リスク評価

CKD患者における骨折リスクは一般集団より著しく高く、特に血液透析患者では骨折頻度が顕著に増加します。CKDステージG3a-G5D患者は、一般集団に比して骨折率が高いことが確立しており、特に大腿骨近位部骨折の新規発生が高い罹病率や死亡率と関連します。

 

骨密度測定の意義
従来、DXA(dual-energy X-ray absorptiometry)によるBMD(骨密度)測定がCKD患者の骨折リスクを評価可能かについては議論がありました。しかし、最近の根拠に基づく論文レビューで、成人CKD G3a-G5Dの患者において、DXAによるBMDと新規骨折に関する4つの前向きコホート研究が報告され、CKD G3a-G5Dに亘ってDXA BMDが骨折を予測することが証明されました。

 

日本の単一透析施設における研究では、485名の血液透析患者(平均年齢60歳)のBMDを毎年DXAで測定した結果、調整後コックス比例解析において、ベースラインの大腿骨頸部BMDおよびtotal hip BMD低値が骨折リスク上昇を予測しました。

 

骨質の問題
CKD患者では、尿毒症性物質蓄積によって骨質が劣化しており、骨密度は必ずしも骨脆弱性を正確に反映しません。しかし、骨密度の低下は骨折のリスクファクターであり、骨密度検査を行うことが望ましいとされています。

 

透析アミロイドーシス関連骨症
長期透析患者では、β2ミクログロブリンによる透析アミロイドーシスが問題となります。β2ミクログロブリンは大関節や骨などの運動器に沈着し、手根管症候群、肩関節周囲炎、破壊性脊椎骨関節症などの炎症を引き起こします。これらの症状は、透析液の清浄化、Ⅳ型・Ⅴ型透析器の使用、HDFの採用、β2ミクログロブリン吸着カラムの併用などの浄化療法の工夫により軽減可能です。

 

骨病変の診断
CKD患者の骨病変の診断は従来、骨生検により行うことが基本でしたが、侵襲的な検査である上に実施可能な医療機関が限られています。現在では骨代謝マーカーや画像診断による評価が主流となっており、特にCTによる皮質骨と骨梁の区別が可能な検査方法として期待されています。

 

CKD-MBD個別化医療の展望

CKD-MBDの診療において、今後は患者の背景に応じた個別化医療の実現が重要な課題となっています。2024年の日本透析医学会では、CKD-MBDの個別化医療を目指した新しいガイドライン改訂の方針が示されました。

 

年齢・併存疾患を考慮したアプローチ
高齢者CKDの管理では、通常の骨粗しょう症の病態とCKDが合併していることが多いため、特別な配慮が必要です。早期のCKDにおいては骨粗しょう症としての治療が適切ですが、CKDが進行するにしたがってCKD-MBDとしての治療が主体となります。そのため、CKD-MBDと骨粗しょう症のいずれの要素が強いかアセスメントする必要があります。

 

小児CKDの特殊性
小児CKDの管理では、成長期特有の骨代謝の特徴を考慮した治療戦略が必要です。成人とは異なる管理目標値や治療薬の選択が求められ、長期的な成長発達への影響を考慮した総合的なアプローチが重要となります。

 

腎代替療法に関するShared Decision Making
CKD進行例では、腎代替療法に関するShared Decision Making(SDM)が重要な要素となります。患者・家族と医療チームが協働して治療方針を決定することで、より良い治療アウトカムの実現が期待されます。

 

新規治療標的の探索
FGF23を中心とした新たな治療標的の研究が進んでいます。FGF23が心血管合併症に与える影響のメカニズム解明により、従来のCa、P、PTH管理に加えた新しい治療戦略の開発が期待されています。

 

多職種連携の重要性
CKD-MBDの包括的管理には、腎臓内科医、内分泌代謝科医、整形外科医、薬剤師、管理栄養士、看護師など多職種のチーム医療が不可欠です。特に栄養指導や服薬指導における専門職の役割は、治療効果の向上と患者のQOL改善に大きく寄与します。

 

今後のCKD-MBD診療では、これらの個別化要素を統合した包括的なアプローチにより、患者一人ひとりに最適化された治療の実現が期待されています。

 

日本腎臓学会CKDガイドライン - CKDに伴う骨ミネラル代謝異常の詳細な診療指針
日本透析医学会CKD-MBD診療ガイドライン - 透析患者の管理目標値と治療指針の詳細