HAQスコアが0点でも、関節破壊が静かに進行していた患者が約3割いることが報告されています。
HAQ(Health Assessment Questionnaire)は、1980年にスタンフォード大学のFriesCTらが開発した患者自記式の機能評価ツールです。日本語では「健康評価質問票」と訳されます。
もともとは慢性疾患全般のQOL評価を目的として設計されましたが、現在では関節リウマチ(RA)の機能障害度評価として世界標準的に使用されています。これが基本です。
日本国内では「HAQ-DI(Disability Index)」として使われることが多く、ACR(米国リウマチ学会)やEULAR(欧州リウマチ学会)のガイドラインにも組み込まれています。開発から40年以上が経過してもなお使われ続けている理由は、その信頼性と再現性の高さにあります。
臨床研究でも非常に重視されるツールです。製薬企業が行う生物学的製剤の臨床試験でも、HAQスコアの改善は主要評価項目の一つに設定されることがほとんどです。
HAQ-DIは8つのカテゴリで構成されています。
各カテゴリには2〜3項目の質問があり、それぞれ以下の4段階で回答します。
| スコア | 意味 |
|---|---|
| 0点 | 困難なくできる |
| 1点 | 多少困難 |
| 2点 | かなり困難 |
| 3点 | できない |
各カテゴリの最高点を平均して、0〜3点のHAQ-DIスコアが算出されます。つまり全カテゴリの合計ではなく、各カテゴリの最悪値の平均です。ここは間違えやすいポイントです。
補助具(杖・装具など)を使用している場合は、該当カテゴリのスコアが自動的に2点以上に調整されます。これをスコアの「修正ルール」と言い、現場では見落とされることが少なくありません。
一般的には、HAQ-DI ≥ 1.0で中等度以上の機能障害とされています。スコア0.5の差が患者の日常生活の質に与える影響は非常に大きく、例えばHAQ 1.0→0.5の改善は「ペットボトルのふたが一人で開けられるようになる」程度の変化に相当します。
関節リウマチ(RA)診療では、疾患活動性の指標としてDAS28やCDAIが広く使われています。しかしこれらは炎症の客観的指標(CRP・血沈・腫脹関節数など)が中心です。
HAQスコアはそれとは異なります。患者自身が「生活の中でどれだけ困っているか」を数値化する点が、最大の特徴です。
実際の臨床活用場面をまとめると以下の通りです。
HAQスコアの変化量(ΔHAQ)においては、0.22以上の改善が「臨床的に意味のある最小変化量(MCID)」とされています。この数値を基準に治療効果を判断する施設が多いです。
参考:日本リウマチ学会 関節リウマチ診療ガイドライン2020
https://www.ryumachi-jp.com/guideline/guideline2020/
「HAQスコアが低ければ安心」と考えている医療従事者は多いかもしれません。しかし実際には、スコアに影響を与える交絡因子が複数存在します。
まず年齢の影響です。健常高齢者でも加齢に伴う筋力低下・関節可動域の低下により、HAQスコアが0.5〜1.0程度に上昇することがあります。つまりRAとは無関係の「生理的なスコア上昇」が存在するということです。
次に心理的状態の影響です。うつ病や不安障害を合併しているRA患者では、同程度の関節破壊でもHAQスコアが有意に高くなる傾向が複数の研究で示されています。
さらに環境因子も見逃せません。バリアフリー住宅への転居、介護サービスの利用開始などでスコアが改善することがあります。生活環境の変化だけで改善することもあります。
スコアだけで治療評価を完結させないことが原則です。HAQスコアはあくまで「患者の主観的な機能状態」を測るツールであり、MRI・超音波などの画像評価と組み合わせて初めて全体像が見えてきます。
スコアが下がっても関節破壊が進行しているケースに対応するために、定期的な画像評価(年1回程度の単純X線撮影)を並行して行うことが推奨されています。
参考:厚生労働省「関節リウマチの治療の手引き」
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000692534.pdf
HAQスコアは患者が「自分で記入する」ツールです。しかしこの「自己記入」という点が、スコアの精度に大きく影響することは見逃されがちです。
多くの施設では、患者に用紙を渡して待合室で記入してもらいます。しかし研究によると、医療者が隣で説明しながら記入した場合と、一人で記入した場合では、同一患者でスコアが0.3〜0.5程度異なることがあります。これは無視できない差です。
正確な評価のために現場でできる工夫を以下にまとめます。
患者教育との連携が鍵です。HAQスコアを単なる「データ収集」として使うのではなく、患者と医療者が治療目標を共有するためのコミュニケーションツールとして位置づけることで、治療アドヒアランスの向上にもつながります。
実際に、患者自身がHAQスコアの推移をグラフで確認できるような説明資料を外来で活用している施設では、患者の治療継続率が高い傾向があります。リウマチ専門医との連携窓口として機能している施設では、理学療法士や作業療法士がHAQの各カテゴリを基にリハビリ計画を立てるケースも増えています。
HAQスコアは記録するだけでは力を発揮しません。多職種連携の中で活かして初めて価値が生まれるツールです。
参考:日本リウマチ財団「患者向けリウマチ情報」
https://www.rheuma-net.or.jp/