KL分類のグレード0でも、MRI検査をすると89%に何らかの膝関節異常が見つかります。
KL分類(Kellgren-Lawrence分類)とは、1957年にKellgrenとLawrenceが提唱したレントゲン所見による変形性関節症の重症度評価法であり、変形性膝関節症(以下、膝OA)の診断・重症度判定において世界的に最も広く用いられている指標です。日本の「変形性膝関節症診療ガイドライン」(日本整形外科学会)でも、膝OAの重症度評価の基準として採用されています。
評価の基本的な考え方は、膝関節のX線(レントゲン)画像から、関節裂隙の狭小化(軟骨のすり減りを間接的に反映)と骨棘(こつきょく)の形成程度を主な指標として判定するというものです。骨棘とは関節辺縁に生じる骨の増殖物で、軟骨の変性が進むにつれて形成されやすくなります。それがまるでトゲのようにX線で白く映ることから、診断に利用されています。
評価はグレード0〜4の5段階で行われます。つまりグレードが高いほど骨棘が大きく、関節裂隙が狭いということになります。
| グレード | X線所見の特徴 | 臨床的意味 |
|---|---|---|
| Grade 0 | 異常なし(正常) | 変形性膝関節症なし |
| Grade 1 | 関節裂隙の狭小化または骨棘・軟骨下骨硬化の疑い | 膝OA疑い |
| Grade 2 | 関節裂隙の狭小化(25%以下)・明らかな骨棘形成 | 膝OA確定診断の基準 |
| Grade 3 | 中等度の関節裂隙狭小化(50〜70%)・著明な骨棘・骨変形 | 進行期・中等度変形 |
| Grade 4 | 高度の関節裂隙狭小化(75%以上)・著しい骨変形 | 末期・骨同士の接触 |
変形性膝関節症の診断にはGrade 2以上が国際的な基準となっており、多くの疫学調査でもこの定義が用いられています。日本整形外科学会ガイドラインによれば、この基準での膝OA有病率は男性42.0%、女性61.5%と報告されており、いかに広く蔓延した疾患であるかがわかります。
つまりKL分類は、臨床現場での診断、治療方針の決定、患者間・医療者間での情報共有、さらには研究での重症度指標として、極めて重要な役割を担っています。その点は原則です。
参考:変形性膝関節症の重症度評価と診療ガイドラインについては、日本整形外科学会が公開する以下の診療ガイドラインが詳しい解説を掲載しています。
変形性膝関節症診療ガイドライン(日本整形外科学会・2023年版PDF)
KL分類を正しく使うためには、その限界を正確に把握することが欠かせません。これが医療従事者として特に意識すべき視点です。
まず検者間・検者内信頼性の問題があります。KL分類の検者内信頼性は相関係数0.66〜0.88、検者間信頼性は0.56〜0.80と報告されており、決して高い数値とはいえません(変形性膝関節症診療ガイドライン)。これは、同じX線画像を複数の医療者が読影した場合、グレードの判定がばらつく可能性があることを意味します。
さらに根本的な問題として、KL分類のグレードと疼痛の強さは必ずしも対応していないという点があります。
同じKL分類Grade 3の患者でも、まったく痛みを感じない人と、夜間痛で眠れないほどの強い痛みを訴える人が並存します。意外ですね。これはなぜでしょうか?
膝OAの痛みは関節軟骨の変性だけから生じるわけではありません。山田(2024)が指摘するように、膝OAの疼痛発生源は①膝蓋下脂肪体、②滑膜および関節包、③筋腱付着部、④軟骨下骨、⑤半月板、⑥筋実質、⑦神経原性疼痛の7つにわたります。ところがKL分類で評価できるのは、このうちX線で写る骨棘と関節裂隙の狭小化のみです。軟骨・半月板・滑膜・脂肪体・靭帯の状態は直接反映されません。
骨変形以外の病態が痛みの根本であるケースが多いということです。
さらに見逃せないのが、「KL分類Grade 0(正常と判定)でも89%に関節内異常がある」という事実です。日本整形外科学会のガイドラインには、KLグレード0の一般住民に対してMRI検査を行うと、69%に軟骨病変、52%に骨髄病変、37%に滑膜炎、24%に半月板病変が認められ、全体では89%に何らかの異常所見が見つかったと記載されています。
この数字は衝撃的です。「レントゲンで異常なし=膝は問題なし」という判断が、いかに早合点になりうるかを示しています。MRI検査を必要に応じて組み合わせることが、より正確な病態把握につながります。
参考:Kellgren-Lawrence分類の概要と解釈上の注意点については、ナース専科の解説が臨床的にわかりやすく整理されています。
KL分類のグレードは、治療方針の目安として機能します。グレードごとの特徴をしっかり押さえておくことが臨床では重要です。
【Grade 0〜1:予防と早期介入が鍵】
Grade 0は正常所見で、Grade 1は「OA疑い」の段階です。この時期は多くの患者が自覚症状をほとんど持っておらず、軽い違和感程度にとどまります。軟骨には神経終末がほとんど分布していないため、組織変性が始まっていても痛みが出にくいのです。
だからこそ、早期発見の意義が大きい段階です。この段階から大腿四頭筋の筋力強化、下肢アライメントの改善、体重コントロールに取り組むことが、OAの進行を遅らせる上で有効とされています。理学療法士にとってはまさに一次予防・二次予防のフィールドです。
【Grade 2:OA確定診断だが、隠れた病態に注意】
Grade 2以上で変形性膝関節症の診断となります。40代でもすでに男女各約10%がGrade 2以上に該当するとのデータがあります。これは仕事盛りの年代にも少なくない割合で膝OAが潜在していることを示しており、診療上の重要度は高いです。
この段階では、理学療法の中心は大腿四頭筋筋力強化運動・関節可動域練習・装具療法であり、薬物療法として非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や関節内コルチコステロイド注射が検討されます。また、KL Grade 2の段階では、内側半月板後根断裂や半月板逸脱(3mm以上のずれ)がX線では見えないかたちで生じていることがあるため注意が必要です。この隠れた異常があると軟骨損傷の進行が急速化することが報告されており、MRIや超音波検査での精査が推奨される場合があります。
【Grade 3:日常生活に支障が出始める進行期】
骨と骨の隙間が50〜70%程度狭小化し、複数の骨棘が明瞭に確認できます。この段階では歩行時の疼痛、階段昇降困難、膝の腫脹・熱感(水腫)が日常的に生じやすくなります。リハビリの役割は大きく、痛みとうまく付き合いながら関節保護・筋力維持・動作改善を続けていくことが求められます。
注目すべきは歩行戦略の改善です。内側型変形性膝関節症では、膝関節内反モーメント(KAM)が膝内側コンパートメントへの過剰負荷の指標として重要です。研究では、つま先をやや内側に向けて歩く「toe-in歩行」を6週間(1日10分以上)再訓練することで、KAMの最初のピークが約20%減少し、痛みと機能の改善(VAS・WOMACスコアの改善)が得られたと報告されています。これは薬剤を使わない介入として有望です。
【Grade 4:末期・手術適応の検討段階】
関節裂隙がほぼ消失し、骨同士が直接接触している状態です。安静時痛・夜間痛が出現し、ADLへの影響も著しくなります。この段階では人工膝関節全置換術(TKA)が最終的な治療として検討されます。ただし、手術を選択するかどうかは患者の全身状態・意向・生活背景を総合的に判断するものです。
Grade 4が条件とは限りません。Grade 3であっても、6か月以上の保存療法で改善が見られない場合や、生活の質(QOL)が著しく損なわれている場合には手術が検討されることがあります。これが原則です。
KL分類はあくまで重症度を「分類」するためのツールにすぎず、それ単独では機能障害の全貌は見えません。臨床では、下肢アライメント評価や動作分析を組み合わせた包括的なアセスメントが必要です。
大腿脛骨角(FTA)は、膝伸展位で正面から見た大腿骨と脛骨骨幹部の長軸のなす角度のことで、正常膝では約172〜176°とされています。FTAが180°以上になると内反アライメント(O脚)、170°以下では外反アライメント(X脚)と判断されます。内側型膝OAでは内反変形が特徴的に見られます。
Mikulicz線は、股関節中心と足関節中心を結ぶ線で、立位時の下肢荷重線を示します。正常膝では膝中心よりやや外側を通りますが、内側型膝OAでは膝中心の内側を通る傾向があります。%Mikulicz(脛骨関節面内側端を基準としたMikulicz線の通過位置を%で表した値)は、高位脛骨骨切り術(HTO)の術前・術後評価に有用とされており、術後に外側関節面中1/3を通過するよう矯正するのが最も良好な成績につながるとの報告があります。
膝関節内反モーメント(KAM)は、内側コンパートメントへの圧縮負荷の指標であり、KL分類との相関が確認されています。6年間の追跡調査ではKAMが1%増加するだけで膝OA進行リスクが6.46倍に上昇するという報告があります。これは大きなリスクです。
KAMの臨床的評価には精密な動作解析装置が必要ですが、簡便な指標として「lateral thrust(ラテラルスラスト/内反スラスト)」の観察が有用です。歩行立脚初期に膝が外側に動揺するこの現象は、KAMと強い正の相関を示します。つまり目視でラテラルスラストが確認できる患者では、内側コンパートメントへの過剰負荷が推定できます。
これらの指標を組み合わせることで、KL分類だけでは見えない「どんな動作でどこに負荷がかかっているか」を把握できます。患者の日常動作の改善提案や装具・インソールの選択にも、このような動的アライメント評価が役立ちます。
参考:KL分類と理学療法の実践的な視点については、理学療法士向け専門メディアforPTのnoteが詳細な解説を行っています。
変形性膝関節症の臨床評価とアプローチ(forPT・note)
KL分類はレントゲン所見に基づく客観的指標として有用ですが、臨床では患者の主観的な機能状態や生活の質も評価軸に加えることが欠かせません。
JOAスコアとJKOM
変形性膝関節症の機能評価として長年使われてきたのが、日本整形外科学会変形性膝治療成績判定基準(JOAスコア)です。歩行能力・階段昇降・正座・屈曲角度・腫脹などをスコア化する方法で、ADLまで網羅されている一方、主として疼痛との関連を主体とした評価です。
近年では、患者立脚型の評価として世界的に普及しているWOMAC(Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index)を日本人の生活様式に適応させたJKOM(Japanese Knee Osteoarthritis Measure)が注目されています。妥当性・信頼性が確認されており、運動療法の効果検証にも用いられています。
「痛みのスコア」だけでは不十分です。KL分類によるX線評価・機能スコア・患者の主観的評価を三位一体で行うことで、より適切な治療方針が立てられます。
MRI検査の役割
前述のとおり、KL Grade 0の膝であっても89%に何らかのMRI上の異常所見が見つかります。特に変形性膝関節症の進行に深く関わるのが骨髄浮腫(bone marrow lesion: BML)の有無です。骨髄浮腫が認められる場合、将来的に人工関節が必要となるリスクが高くなることが報告されています(Roemer FW, Radiology, 2015)。
つまりMRI検査は、現在の症状が重くなくても「今後どう進行するか」を予測するための重要な情報源となります。KL分類がGrade 2でも、MRI上で骨髄浮腫や内側半月板後根断裂が確認された場合は、早期の積極的介入が推奨される可能性があります。
治療選択における注意点
保存療法の選択肢としては、大腿四頭筋筋力強化運動・関節可動域練習・装具療法・薬物療法(NSAIDs・ヒアルロン酸注射)が代表的です。Grade 1〜2では運動療法が中心的役割を担います。近年は、自己血液由来の成長因子を利用したPRP(多血小板血漿)療法や脂肪由来幹細胞を用いた再生医療も保険外ではありますが、Grade 3〜4の患者に対しても一定の効果が報告されています。日本再生医療学会誌に掲載された研究では、Grade 3〜4の患者への脂肪由来SVF(間質血管分画)治療において疼痛軽減と機能改善が認められています。
手術療法については、保存療法を6か月以上継続しても改善が見られない場合や、生活に支障をきたすADL障害が著しい場合が手術適応の目安とされています。手術の種類はGrade・年齢・アライメント・患者ニーズによって、関節鏡視下手術・高位脛骨骨切り術(HTO)・人工膝関節全置換術(TKA)から選択されます。
| 手術の種類 | 主な適応目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 関節鏡視下手術 | 軽度の病態(半月板損傷など) | 低侵襲・入院短期だが重度には不向き |
| 高位脛骨骨切り術(HTO) | Grade 2〜3・内反アライメント・若年層 | 自関節温存・骨癒合に時間が必要 |
| 人工膝関節全置換術(TKA) | Grade 4・末期・保存療法無効例 | 大幅な疼痛改善・15〜20年で再置換が必要 |
Grade 4が手術の唯一の適応ではないということです。KL分類のグレードは「判断材料の一つ」であり、患者の全身状態・希望・生活背景・機能評価スコアを総合した意思決定が求められます。
参考:変形性膝関節症の詳細な病態・臨床評価・リハビリアプローチを日本リウマチ学会が整理しています。