デュロキセチン塩酸塩(サインバルタカプセル)は、変形性関節症に伴う疼痛治療薬として2016年に効能追加承認されましたが、複数の重要な禁忌事項が設定されています。
最も重要な禁忌は、モノアミン酸化酵素(MAO)阻害剤との併用です。具体的には以下の薬剤が該当します。
これらの薬剤を投与中、または投与中止後2週間以内の患者には絶対に投与してはいけません。併用により発汗、不穏、全身痙攣、異常高熱、昏睡等の重篤なセロトニン症候群を引き起こす可能性があります。
また、高度の肝機能障害および高度の腎機能障害のある患者も禁忌とされています。デュロキセチンは主に肝代謝を受けるため、肝機能が著しく低下した患者では薬物の蓄積により中毒症状を呈するリスクが高まります。
コントロール不良の閉塞隅角緑内障患者も禁忌です。デュロキセチンの抗コリン作用により眼圧上昇を来し、症状悪化の可能性があります。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は変形性関節症の第一選択薬として広く使用されていますが、重篤な腎障害のある患者では禁忌とされています。
NSAIDsによる腎機能悪化のメカニズムは、シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害によるプロスタグランジンE2(PGE2)産生抑制にあります。PGE2は腎血流量維持に重要な役割を果たしており、その産生が阻害されると糸球体濾過率の低下や急性腎不全を引き起こします。
特に注意が必要な患者群は以下の通りです。
これらの患者では腎血流量がすでに低下している可能性が高く、NSAIDs投与により急激な腎機能悪化を来すリスクが著しく高まります。
興味深いことに、無尿の透析患者においては、すでに腎機能が廃絶しているため、NSAIDsの腎毒性を考慮する必要がなく、減量の必要もないとされています。
2021年3月に承認されたジョイクル関節注30mg(ジクロフェナクエタルヒアルロン酸ナトリウム)は、ヒアルロン酸にジクロフェナクを化学結合させた新しい変形性関節症治療薬ですが、承認後間もなく重篤な安全性問題が発生しました。
承認から2021年5月28日までの約2か月間で、推定使用患者数約5,500人のうち10例の重篤なショック・アナフィラキシー症例が報告され、そのうち1例は死亡に至りました。この発症頻度は従来のヒアルロン酸製剤と比較して著しく高く、厚生労働省の指示により安全性速報(ブルーレター)が発出されました。
ジョイクルの禁忌事項は以下の通りです。
投与時には以下の安全対策が必須とされています。
高齢者の変形性関節症治療では、加齢に伴う生理機能の変化により、通常の禁忌事項に加えて特別な注意が必要です。
腎機能に関しては、加齢により糸球体濾過率が年間約1%ずつ低下するため、見かけ上正常な血清クレアチニン値であっても実際の腎機能は著しく低下している可能性があります。Cockcroft-Gault式やeGFR計算による正確な腎機能評価が不可欠です。
肝機能についても、加齢により肝血流量の減少や肝代謝酵素活性の低下が生じるため、デュロキセチンなどの肝代謝薬では薬物蓄積のリスクが高まります。
高齢者特有の禁忌・慎重投与事項。
また、高齢者では薬物の副作用が重篤化しやすく、特に消化管出血や腎機能悪化は生命に関わる可能性があります。
変形性関節症治療では複数の薬剤を併用することが多く、薬剤相互作用による禁忌事項を十分理解することが重要です。
デュロキセチンにおける重要な相互作用禁忌は、前述のMAO阻害剤以外にも存在します。セロトニン症候群のリスクを高める薬剤との併用には特に注意が必要です。
NSAIDsの相互作用禁忌では、以下の組み合わせが特に危険です。
実際の臨床現場では、患者の既往歴と現在服用中の全ての薬剤(処方薬・市販薬・サプリメント)を詳細に聴取し、相互作用チェックシステムを活用した安全確認が不可欠です。
特に変形性関節症患者は高齢者が多く、複数の併存疾患を有することが一般的であるため、循環器科、内分泌科、精神科等の他科処方薬との相互作用に十分注意する必要があります。
薬剤師との連携により、処方前の相互作用チェックと患者への服薬指導を徹底し、重篤な副作用の予防に努めることが医療安全の観点から極めて重要です。